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悪役令嬢ルートに入りました~今世は私がヒロインのようです~  作者: 春乃りぜ(ましゅぺちーの)


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50/80

50 二人の間に一体何が?

ロイドはそんなヘンドリックを見てもなお、動揺することなく、むしろ煽るように言葉を返した。



「誰かと思ったらレイヴィス公子か……停学中じゃなかったのか?」

「……ッ」



愛する女性を傷付けられたうえに、公衆の面前で馬鹿にするかのような発言をされたのだ。ヘンドリックは悔しそうに表情を歪ませた。



(殿下ったら、絶対わかって言っているわね)



あの騒動の日から、すでに十日以上が経過している。

ヘンドリックに処分を言い渡した張本人であるロイドが、そのことに気付いていないはずがない。



停学になったことは、完璧なヘンドリックにとって唯一の汚点だった。

元々彼はプライドが誰よりも高い人間だ。その話を持ち出されることすら、不快極まりないのだろう。



「俺の質問に答えろ!デイジーに一体何をした!?」

「……人前で声を荒らげるとは、野蛮だな」



学園長を前にそんな態度を取れるのは、おそらくここではヘンドリックだけだろう。

いくらデイジーのことで理性を失っているからとはいえ、感情のままに行動するのは褒められたことではない。



(それにしても、キャンベルさんとロイド殿下との間に何があったのかしら……?)



そういえば、ヘンドリックと踊っている間二人の姿を一度も見なかった。

どこかへ行ったのだろうとは予想していたが、二人が一緒にいるとは思ってもみなかった。



ヘンドリックに抱きしめられているデイジーの体は全身水で濡れていた。

そしてロイドの右手からもまた、水が滴っていた。ポタポタと、ホールの床に水滴が垂れている。



(もしかして、あの池に落ちてしまったのかしら?)



王立アカデミーのアリーナのすぐ外には、そこまで大きくはないが池がある。

その池には柵も何もないため、不注意により落ちてしまう生徒は毎年いるのだ。



「何を勘違いしているのか知らないが……俺はそこの女子生徒に何もしていない」

「なら、何故デイジーが全身びしょ濡れなんだ!一緒にいたお前が何かしたんだろう!」



ロイドがいくら弁明したところで、ヘンドリックの疑惑が消えることは無かった。

たしかに、この状況を見れば誰でも誤解してしまうだろう。しかし、だからといって大勢の前で糾弾していい理由にはならないのだ。



しかも相手は王弟であり、学園長ロイド。結局、ヘンドリックはあの日から何も成長していなかった。

しかし、自分より強い相手に立ち向かっていったところだけは称賛に値する。



(まさか殿下、キャンベルさんを池に沈めた……とかしてないわよね?)



そんなことを考えた後、シーラはあり得ないと頭からかき消した。

ヘンドリックは敵意むき出しのままロイドから顔を背けると、上着を脱いでデイジーの肩にかけた。



「デイジー……まずは医務室に行こう。君の治療が最優先だ」

「は、はい……」



デイジーが頷くと、彼が彼女を抱き上げた。

ヘンドリックの大きな上着にくるまれたデイジーが、彼の腕に抱かれている。



(あら、お姫様抱っこだなんてロマンチックねぇ。私もいつかされてみたいわ)



シーラは呑気に心の中でキャアキャア言っていたが、ヘンドリックの目はデイジーに対する心配でいっぱいだった。



彼は彼女を抱いたまま、そそくさと会場から出て行った。

二人がいなくなった後、ロイドは侍従から受け取ったハンカチで濡れた手を拭いた。

ハンカチを返すその仕草までもが、洗練されていて美しかった。



「……俺がいない間に何かあったようだな」

「殿下」



ロイドは会場に流れる異様な雰囲気を感じ取り、瞬時に事を把握したようだった。

侍従はそっと傍に寄ると、彼に何かを耳打ちした。



「……そうか」



おそらく、侍従から一連の事態を全て聞いたのだろう。

彼は少しだけ悲しそうに目を伏せた。



「たかが一人の愚かな生徒に一年に一度の大切な行事を台無しにされてしまうとは……見抜けなかったこちらの不備だ」



ロイドは会場の隅に控えていた騎士たちをチラリと一瞥した。

彼の冷えた視線を受けた騎士がビクッと肩を上げた。おそらく彼らには、後で何らかの処分が下されるだろう。

パーティーに参加する生徒たちを守るために来たというのに、結局は守れなかったのだから。



「近いうちに埋め合わせをしよう。今日のところはそれぞれ家に帰れ」



その一言で、生徒たちは解散となった。

放心状態の生徒がそれぞれ使用人たちに体を支えられて帰路につく中、シーラはいつまでもその場に残っていた。



ほとんど人がいなくなったホールで、クレアが彼女に呼び掛けた。



「シーラ、どうかしたの?」

「ううん……ただ、学園長様とキャンベルさんの間に何があったんだろうって気になっちゃって」



シーラは遠くでアルヴィンと話をしているロイドから目が離せずにいた。

彼がデイジーと二人きりでいたというのが、何とも気にかかった。



クレアはそんなことが気になるの?とでも言いたそうに不思議そうに彼女を見た。



「あんなヤツ、気にする必要は無いわ。私はむしろスカッとしたのよ。最近調子に乗ってるみたいだったから……痛い目見てよかったんじゃない?」

「クレア……」



クレアは早く行こう、とシーラの腕を引っ張って彼女を連れて行った。




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