45 ダミアンとのダンス
壇上に上がると、ロイドは会場に集まった生徒たちを見下ろした。
彼の青い瞳は誰かを探しているかのように、しばらくの間生徒たちの群れを彷徨っていた。
―――そんな中、彼の視線がシーラに固定された。
遠くからロイドと目が合う。周囲の生徒たちは当然、誰もそのことになど気付いていない。
「……」
シーラは一瞬ビクッとしたが、ロイドはすぐに彼女から視線を逸らした。
勘違いだったのか、それとも彼女を見ていたのかはわからなかった。
「……今日はこの王立アカデミーで年に一度のダンスパーティーの日だ」
彼は正面を向くと、ようやく話し始めた。
静寂に包まれたホールで、拡声器を使った彼の声は響いた。
「今日は教師や生徒、その他多くの者たちの協力により、無事に会を開くことができた。その点においては、感謝を述べよう」
学園のトップであり、この国の王弟でもある彼が、直々に生徒たちへの礼を口にした。王族が全員に向けてそのような発言をするのは異例中の異例だった。
普段滅多に人前に姿を現さないロイドがパーティーに来ることだけでも珍しかったが、挨拶までするとは誰も想像していなかったことである。
ただでさえ、ヘンドリックとシーラの騒動に介入したことで話題になっている状況だった。
彼は一度言葉を切り、しばしの沈黙の後、再び口を開いた。
「――このアカデミーに通っている全ての生徒たちのことを、私は誇りに思っている」
会場の雰囲気が、一瞬にして変化した。ピリピリした空気から、和やかなものへと形を変える。
真剣な眼差しで紡がれたその言葉は、多くの生徒たちの心を掴んだ。
「限られた時間ではあるが、ここにいる全員にとって楽しい会となることを願っている」
ロイドのその一言で、全校生徒が参加するダンスパーティーが幕を開けた。
***
音楽が流れると、それぞれのペアが手を取り合ってホールの中央へと歩き始めた。
「シーラ嬢、僕たちも行こうか」
「ええ、ダミアン様」
シーラもダミアンに手を引かれ、会場の中心部分で向かい合った。
すぐ傍には、アルヴィンとクレアの姿もあった。
クレアはシーラを見つけると、笑いながら軽く手を振った。
音楽が始まると、それぞれが曲に合わせてダンスを始めた。
シーラは今まで、婚約者であるヘンドリックを含めて男性に触れたことなどほとんどない。
そのせいか、やけに緊張していた。
アルヴィンは幼馴染だったが、ダミアンはつい最近関わるようになったばかりなわけで。そのことを考える余計に。
ステップを踏みながら考え事をしていたシーラに、ダミアンが現実に引き戻すように声をかけた。
「踊るのはあまり慣れていないみたいだね」
「あ……不便を感じさせてしまったのなら、申し訳ありません」
ダンスが下手なことがバレてしまい、ダミアンは苦笑いを浮かべた。
誰よりも頭の良い彼はもちろん、ダンスのリードも上手だった。完璧な彼に自分が並ぶのが何だか申し訳なく感じてしまうほどである。
ダミアンはそういえばと、何かを思い出したかのように口火を切った。
「ところでさっき、学園長様がシーラ嬢を見ていたような気がしたんだけど」
「き、気のせいですよ……」
誰も気付いていないと思っていたが、すぐ隣にいたダミアンにはバレていたようだ。
「学園長はシーラ嬢のことを贔屓しているみたいだな」
「贔屓……?いえ、そんなことはありません」
ダミアンはわざとらしく羨ましいなぁと呟いた。
彼が何を勘違いしているのかは知らないが、羨ましがられるようなことは何も無い。
(大体学園長とは話したこともほとんどないのよ?)
そんな彼が、自分を気にかける理由なんてない。
「まぁ、あの方は王族だし……好かれていて悪いことは無いと思うよ」
「ダミアン様って結構打算的な考え方をするんですね」
ダミアンは何のことだか、ととぼけてみせた。
しばらくすると曲が止まり、最初のダンスが終了した。
シーラは膝をついて礼をし、ダミアンも胸に手を置いて上半身を曲げた。
曲が終わった途端、彼はあっという間に女子たちに囲まれた。
「ウィルバート侯爵令息様!次は私と踊ってください!」
「いやいや私と!ダンスは得意なんです!」
彼狙いの女生徒たちはシーラを押し退け、我先にとダンスを申し込んだ。
「キャアッ!」
シーラは勢いの良い女子たちに突き飛ばされ、転びそうになってしまう。
(あわわわわわ!誰か助けて!)
彼女の危機に気付いたのだろうか。
ダミアンは困ったような笑みを浮かべながら、少し離れたところでもみくちゃになっていたシーラたちに向かって告げた。
「――こんなときにお前がいてくれてよかったよ、シーラ嬢を頼んだぞ」
「……?」
シーラが疑問に思っていると、誰かが押し退けられた彼女の体を受け止めた。
筋肉のついた胸板が、彼女の背中に当たった。
「――了解、ダミアン。シーラ嬢は俺に任せとけ」
「…………あなたは」
振り返った彼女は驚きを隠せなかった。
シーラの肩をガッチリと掴んでいたのは、ついさっきまで女子たちに囲まれていたサイラスだった。
(どうしてヴェントゥール大公子様がここに……)
突然の彼の登場に、シーラは茫然としていた。
そんな彼女の手を握ったサイラスは、何と目の前で跪いたのだ。周囲からキャーという歓声が上がり、二人は注目の的となった。
サイラスは色っぽい笑みを浮かべながら、シーラを見上げた。
「――次は俺と踊ってくれますか?麗しきレディー」
彼女の手の甲を唇に近付け、口づけるような仕草に、シーラは思わず固まった。
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