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悪役令嬢ルートに入りました~今世は私がヒロインのようです~  作者: 春乃りぜ(ましゅぺちーの)


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34 父と息子

―――どうして、お父様がここに?

驚いたのはシーラだけではないようで、ローガンもまた突然の訪問客に動揺を隠しきれていない。



侍女は恐怖からか、ハラハラと涙を流し始めた。

一体どれだけ父に脅迫されたのだろうか。



「アンダーソン侯爵様が門の前で中に入れろとおっしゃっています……私、恐ろしくて……」

「オリバーが何故急に……」



ローガンはチッと舌打ちをしながら、杖を手にゆっくりと立ち上がった。



「ここまで来た以上、追い返すわけにもいかない。客間に通してあげなさい」

「は、はい……大旦那様……」



侍女は涙を拭い、ゆっくりと立ち上がると、そのまま再び門へと走って行った。

ローガンは先触れの無い無礼な訪問客を迎え入れる準備をするように命じた後、シーラの方を振り返った。



「シーラ、君は部屋で待っていなさい。オリバーに会う必要は無いよ」

「そ、そんな……お祖父様一人でお父様に会うおつもりですか?」



ローガンは、気が立っているであろう息子にシーラを会わせたくはなかった。

彼は元々気性が荒く、我を忘れてカッとなってしまうことがよくあった。その弾みでシーラに暴言を吐いてしまうかもしれないと考えると、彼女を彼に会わせるわけにはいかなかったのだ。



しかし、シーラは部屋に戻るように命令するローガンに対して、静かに首を横に振った。



「お祖父様、私も行きます。お父様が何をするかわからないし……何も言わずに出て行った私にも非があるのはたしかですから」

「シーラ……」



そう説得されてしまえばダメだと言うことも出来ず、ローガンは渋々同意した。



***



シーラは杖を使ってゆっくりと歩くローガンの体を支えながら、父のいる客間へと向かった。父に会うときはいつも緊張してしまって足取りが重くなるのに、今日はローガンがいてくれるおかげか比較的楽だった。



「――失礼します」



シーラは客間の扉を開けて、ローガンを中に入れた。彼が入った後に、続けて彼女も部屋に足を踏み入れた。

中に入ると、客間のソファに足を組んで座る男の姿が視界に入った。



「シーラ!!!」

「……………お父様」



シーラの父親であり、ローガンの息子であるオリバー・アンダーソン侯爵だった。

一体何をしにここまでやって来たのか。そのことを聞く前に、彼女は一旦ローガンをソファに座らせた。



父はすぐに立ち上がると、そのままシーラの腕を強く掴んで引きずった。



「シーラ、家に帰るぞ」

「お、お父様……待ってください……!」



拒否権を与えないという様子の彼に、シーラは強引に連れて行かれそうになった。

しかし、それを阻止したのはローガンだった。



「――オリバー、シーラに何をする気だ。やめないか」

「父上……」



彼はシーラのもう片方の腕を掴み、その手を離せと父に命じた。

オリバーは眉をひそめたが、父親の命に逆らうのは抵抗があったのか、意外にもあっさりとシーラから手を離した。



「シーラは私の家に泊めると連絡したはずだが……何故ここに来た?」



冷静に問うローガンに対し、父は挑発的な笑みを浮かべた。



「……父上、いくら祖父とはいえ未成年の子供を親の許可なく家に泊めるのは誘拐ですよ?」

「な、何を……!」



とんでもない言い分に反論しようと前に出たシーラを、ローガンが抑えた。

手をギュッと握られ、落ち着けと宥められているようだった。



「紛れも無いシーラ自身がここに泊まることを望んでいるというのに……何が問題だ?」

「私は許可していません。シーラを今すぐにでも侯爵邸へ連れて帰るつもりです」



父のその言葉に、シーラの体が僅かに震えた。

せっかくゆっくりできると思ったのに、お父様は私を連れて帰るつもりでここへ来たのか。ローガンとの生活で幸せを感じている今、とてもあの侯爵邸へは帰りたくなかった。



「父上、どうか理解していただきたい。私もシーラのことを大切に思っているのです。親ならば、娘のことを心配するのは当然でしょう?」



長年父を見てきているシーラは、オリバーの発言が全て嘘であることを瞬時に見抜いていた。

この人は私を大切に思ったことなんて一度も無い。ただ、何かここにいると不都合なことがあるから連れ戻したいのだ。



「……オリバー、何故そんなにも焦っているんだ?」

「話の論点を変えないでください、父上」



眉をひそめるオリバーに、ローガンは淡々と話を続けた。



「何故シーラをそこまで私の元から連れて帰りたがるのかが理解できない――何か、私に後ろめたいことでもあるのか?」

「………ッ」



心当たりがあるのかないのか、オリバーは一瞬だけ狼狽えた。

後ろめたいこと――まさにアンダーソン家で広がっているあの噂についてだろう。



(まさか……本当にお父様がやったんじゃないわよね……?)



シーラはもちろん、ローガンもたった一人の息子を信じていた。

あの事故は、結局いくら騎士団が調査しても手がかりは何も掴めず、事件性無しと処理された。

だけど、もしあれを仕組んだのがオリバーだとしたら――



彼は悔しそうに唇を強く噛み、ローガンを煽るように吐き捨てた。



「――――母上を悲しみの中で死なせたくせに」



シンと静まり返った客間に、彼の低い声がハッキリと響いた。

その一言に、ローガンの顔色が変わった――




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