3 居心地の悪い学園
ちょうど時刻は夕方の四時。
生徒たちが帰る時間帯であり、最後まで学園に残っているのはシーラくらいだった。
家に帰っても居場所が無いのだから、彼女はいつも門が閉まるギリギリまで校内に残っていた。
不審に思われないように教師の手伝いをしたり、何とも悲しい日々だった。
彼女は一人になった教室で、備え付けられていた窓から外を眺めた。
向かいにある別棟、広いグラウンド、遠くに見える王都の街並み。
あのときと全く変わらない景色。
こうしていると、やっぱり四年前に時間が巻き戻ったのだと実感した。
「この学び舎で三年過ごしたけど……あまり良い記憶が無いわ」
シーラは親しいと呼べる友人もおらず、いつも学園では孤立しており、一人ぼっちだった。
婚約者を別の女に奪われ、周囲はそんな彼女に同情するどころか嘲笑った。お前の性格が悪いからそうなるんだと、心無い罵声を浴びせられていた。
周囲にシーラの味方なんて、誰一人いなかった。
実家でも学園でも、そして嫁ぎ先の公爵家でも彼女に優しくしてくれた人はほとんどいない。
文化祭の日、一緒に回る人がいなくて教室で一人ポツンと座っていたのは苦い思い出だ。
当然、ヘンドリックはシーラではなくデイジーと共にいた。
せめて彼だけは、彼女を愛してくれていたらあんな風になることもなかったのではないか。
そう思ったところで、何の意味も無い。
ヘンドリックはシーラの苦言で変わるような人間ではないからだ。
「私がどれだけ頑張ったところで……ヘンドリックがデイジーを愛するのは変わらないのよ」
そう、すでに彼は最愛の彼女と出会ってしまっている。
ならばシーラがどれだけ努力をしようとも、彼の意思は変わらない。
回帰したことは、正直未だに受け入れられていないところがある。
しかし、あんなにも絶望的な最期を迎えたのだ。きっとシーラを憐れに思った神がもう一度チャンスを与えてくれたのだろう。
そんな彼女の今世の目的はただ一つ。
――ヘンドリックと絶対に関わらない。
ただそれだけを心に決め、二度目の人生を生きていく。
***
「――あら、シーラさん。まだ学園に残っていたの?」
「せ、先生……お久しぶりです……」
ちょうど帰る準備をしていたシーラに声をかけたのは、彼女のクラスの担任教師だった。
彼女は朗らかな笑みでシーラに一歩近付いた。
シーラはよく居残りをして教師の手伝いをしていたため、教師陣からはかなり好かれていたのだ。そんな彼女を教師たちはよくできた子だと称したが、実際はただ家に帰りたくないというだけだった。
そして他の生徒たちが彼女を毛嫌いしたのには、そのようなことも理由として含まれている。
性悪のくせに、教師には取り入る。そんなイメージがシーラに定着していたのだ。
しかし、この人たちも結局は偽善者に過ぎない。
彼女たちはシーラが裏で何て言われているか、それを知っていてもなお面倒事にしたくないからと黙認するのだ。
加害者を咎めることすらしない、一体何のために教師が存在しているのか。
自分の仕事を手伝ってくれるシーラは好きだけど、面倒なことは増やしたくない。
結局、みんな自分が一番可愛いのだろう。
「シーラさんはいつも真面目で私たちはとっても助かっているのよ」
「いえ……私がやりたくてやっていることですからお気になさらないでください」
シーラはそう答えるので精一杯だった。
かつて、この女教師を信用して生徒たちから陰口を言われると相談したことがあった。
『そうねぇ……でもそれって、シーラさんにも何か原因があるんじゃないかしら?』
『ど、どういう意味ですか……?』
『何か、その子たちに嫌われるようなことをしちゃったんでしょう?心当たりがあるんじゃない?』
当然、シーラはそんなことしていない。
彼女は特に事態を重く捉えるようなこともせず、ただの子供の遊びだと笑っていた。
シーラは唯一の心の拠り所だった担任教師から見放されることを恐れ、それ以上は何も言わなかった。
「また明日ね、シーラさん」
「はい……先生」
担任教師はシーラに向かって手を振った。
彼女はペコッと軽く頭を下げると、そのまま教室から出て行った。
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