28 罪と罰
ロイドの放った一言に、ヘンドリックは膝から崩れ落ちて地面に座り込んだ。
まさかこの一件で学園を退学になるとは思ってもいなかったのだろう。当然、周囲も同じだった。
「退学ですって……?流石に冗談よね……?」
「だ、だけど学園長様が言うことなら……従うしかないんじゃ……」
学園長はこのアカデミー内では最も権力を持っている。
そのうえ彼は国王陛下とも親族であるため、彼が王に進言すれば本当にヘンドリックを退学にできてしまうだろう。
当然、レイヴィス家は抗議してくるだろうが、彼の普段の行いを出されたら何も言えなくなるはずだ。
ヘンドリックは地面に膝をついたまま、体をプルプルと震わせていた。
いつも完璧だった自分が貴族なら誰しもが卒業するアカデミーを退学になるなど、己のプライドが許さないのだろう。
彼は人の目も気にすることなく、学園長に縋り付いた。
「あ、あまりにも……処罰が重すぎるのではありませんか……?私はたしかにシーラを糾弾しましたが……すべては彼女を貶めようとした者たちに騙されてのことです!」
「……」
俺は何も悪くない――とヘンドリックはロイドに訴えた。
しかし、ロイドはそんなヘンドリックを冷めたように見下ろしているだけで、同情する素振りすら見せなかった。
「ですから、私は何も!すべてはアイツらのせいなのです!」
レイヴィス公爵家の令息ともあろう人が、床に膝をついて懇願している。
プライドの高いヘンドリックは当然、そのようなことは死んでもしないタイプだった。それほどに、退学になるのが嫌なのだろう。
彼の発言の意図を理解したのか、ロイドが納得したように口を開いた。
「つまり、退学になるのは自分ではなく――」
そこで、彼は周囲で野次馬と化した生徒たちに視線を向けた。
「――自分に嘘をつき、アンダーソン令嬢を犯人に仕立て上げようとした者たちだと言いたいのか?」
「………ッ!」
その言葉で、何人かの生徒の顔色が瞬時に変化した。シーラはその反応で確信した。間違いない、彼らがヘンドリックを唆した張本人なのだということを。
ヘンドリックはさりげなくその場を立ち去ろうとした男子生徒を、迷うことなく指差した。
「ええ、そうです!その男とあの男と……そうだ、そっちの女もシーラがやっているところを目撃したと言っていました!」
彼は次々に偽の証言をした生徒に向かって指を差し、公衆の面前で晒し上げた。
――絶対に逃がさないぞ。というような鋭い目で嵌めようとした生徒たちを射抜いた。
彼に指を差された生徒たちは、全員揃ってその場に跪いた。
「ど、どうかお許しください……!レイヴィス公子があまりにも荒れていたので恐ろしくなって、つい嘘をついてしまったのです!」
「私たちだって、公子があのようなことをするとは思いませんでした!」
「そうです、シーラ嬢を貶めようとしたわけではありません!」
まるで命乞いでもするかのように、目に涙を浮かべてロイドを見上げた。
彼らの命運は今、彼が握っていると言っても過言ではなかった。貴族家に生まれた者として、アカデミーを退学になるのだけは避けたかった。
アカデミーを卒業できなかった貴族子息息女の末路は悲惨だった。
まともな就職先が無くなってしまい、社交界でもその汚名は常に纏わりつく。アカデミーを卒業できなかったというだけで、婚約破棄になる可能性も大いにあり得た。
今、目の前で膝をつく生徒たちは全員が高位貴族の人間であり、シーラを執拗に虐めていた者たちでもあった。彼らは自尊心を捨ててでも、この学園にい続ける気なのだろう。
しかし、ロイドは慈悲の心を持ち合わせておらず、どこまでも冷酷だった。
「事実なんだな?――なら、お前らは全員退学だ」
彼らの顔から一斉に血の気が引き、対するヘンドリックは嬉しそうに頬を緩ませた。
彼は立ち上がり、勝ち誇ったような笑みで嘘をついた生徒たちを見下ろした。
「ざまあみろ、お前ら!よくも俺を嵌めようとしてくれたな!」
「そ、そんな……あんまりですよ……」
退学を突き付けられた生徒たちは、一斉に泣き崩れた。
「気に入らないからって退学にするだなんて……」
「気に入らないだと?俺はそんな理由でお前たちを退学を宣言したわけじゃない」
ロイドはしゃがみ込み、彼らと視線を合わせた。
「――オルティネス王国では、偽証罪は重罪だ。最高十年の懲役刑が課されることもある」
「……」
十年の懲役刑に比べれば、アカデミー退学なんて軽いものだ。しかし、彼らは到底納得などできないだろう。
「学園を卒業して一人前の貴族になったら……つい嘘をついてしまったなんて言い訳は通用しない。そういう世界なんだ」
「そんなの……知らなかった」
ロイドは泣きながらそう呟いた一人の女子生徒に視線を向けた。
「知らなかったは言い訳になどならない。法律は知っていて当然だ。全員が知らなかったで罪を免れることができるのなら、法が存在する意味など無くなるからだ」
彼の一言一言に重みがあり、場がシンと静まり返った。全員がその罰に納得し、彼らも受け入れ始めているかのように思えた。
ロイドは立ち上がり、ヘンドリックを一瞥した。
「レイヴィス公子の処分については後回しだ」
「え、わ、私もですか……?」
呆れたように彼を見て当然だろうとだけ言い残すと、ロイドはとっととその場から立ち去ろうとした。
(い、行っちゃうの……?本当に退学にするつもり!?)
いくら何でも退学はやりすぎだ、私はそんなこと望んでない。シーラはいても立ってもいられなかった。
「――ちょ、ちょっと待ってください!」
シーラは慌ててロイドに向かって駆け出し、彼の腕に手を触れた。
その瞬間、いつも冷静なはずのロイドが驚いたように目を見開いた――
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