27 学園長ロイド・バースウッド王弟殿下
「が、学園長……!?」
「普段滅多に人前に出ないのに、どうして……!?」
突然の彼の登場に、この場にいる全員が驚きを隠しきれなかった。
もちろん、シーラやアルヴィンを始めとした生徒会メンバーたちもだった。
(学園長……一体どうして彼がここに……)
彼らがそこまで驚愕したのは、彼の持つ身分や血筋が理由として含まれていた。
すぐ傍にいるアルヴィンと同じ黒色の髪に、美しい青い瞳。百八十センチを超える長身に、鍛え上げられた逞しい体。
魔導士のようなローブを身に纏うその姿は、このアカデミーにはあまりにも相応しくなかった。
――ロイド・バースウッド学園長。
長い歴史を持つこの王立アカデミーのトップである彼は、何と現国王陛下――つまり、アルヴィンの父親の実の弟なのである。
先王陛下より授けられたバースウッド公爵家の当主であり、王家とも繋がりの深い王弟殿下。
しかし、彼は滅多に人前に姿を現さないことで有名だ。
このアカデミーの学園長であるが、シーラも彼を最後に見たのは数ヵ月前に行われた卒業パーティーのときだった。
夜会にもあまり出席しないと聞くし、このような場に来るのはかなり珍しいことだ。
彼は騒ぎの中心であるヘンドリックと生徒会メンバーたちに近付いた。
「――この騒ぎは一体何だ?」
その問いに真っ先に答えたのは、彼の甥第一王子の婚約者であるクレアだった。
将来王家に嫁ぐ者として、クレアはロイドとも何度か話したことがあるだろう。
「レイヴィス公子がアンダーソン令嬢に濡れ衣を着せようとしていたので、言い争いになっていたのです」
「……アンダーソン令嬢に?」
ロイドはその名を耳にした途端、ピクッと眉を動かした。
彼は一瞬だけシーラの方に目を向けた。
(やっぱり、学園長も私の悪評を知っているのね……)
この学園を治める彼が、シーラの悪い噂を知らないはずがない。
もし、彼が噂に流されてヘンドリックの味方をしたら――
(お父様にこのことが伝わって、私は処罰を受ける羽目になる……!)
最悪の事態が頭をよぎり、シーラの足元が僅かに震え始めた。
「俺は濡れ衣を着せようとなんてしてな……」
「いいえ、間違いなく濡れ衣を着せようとしていたわ」
クレアはヘンドリックの言葉を遮り、事の顛末を説明した。
最初から最後まで、ヘンドリックの暴挙を中心にシーラは何も悪いことをしていないということを、クレアは力説した。
(クレア……!)
誰かに守ってもらうのは前世では経験しなかったことだったせいか、何だか涙が出そうになった。
ヘンドリックとクレアの間で、バチバチと火花が散った。
そしてクレアだけではなく、ダミアンやサイラスたちもシーラを擁護する声を上げた。
「いくら偽の証言に騙されたとはいえ、感情の赴くままに動いたのは良くないだろう」
「そうだ、公衆の面前で人を追及する以上、勘違いでは済まされない」
元々騒ぎがあった場所に学園長ロイドが登場したことにより、廊下にはかなりの人が集まっていた。
シーラを貶める発言をした生徒たちも、食堂から出てヘンドリックたちに注目していた。
「彼は突然ここへ来たかと思えば、人目のあるところで何の罪も無いシーラを怒鳴りつけたんですのよ!シーラという婚約者を置いて堂々と浮気をしているのはそっちの方のくせに、あり得ない行動だわ!」
「な……ッ」
愛するデイジーとの関係を浮気だと言われたことが気に入らなかったのだろう、ヘンドリックは悔しそうに顔を歪ませた。
「……私も同じ意見です、学園長」
「……アルヴィン」
そこで前に出たのは、傍観に徹していたアルヴィンだった。彼にとって学園長のロイドは父親の弟、つまり叔父にあたる存在である。
とはいっても、先王陛下が遅くに作った歳の離れた弟であるため、年齢はそこまで離れていないのだという。
「学園長、今クレアたちが言ったことは全て本当です。私、アルヴィン・オルティネスが――王家の名にかけて誓います」
「名にかけて……」
王族が名の誓いを行うなんて、滅多に無いことだった。
そのせいか、生徒たちは呆気に取られていた。たかがシーラのために一国の王子ともあろう人がそこまでするのか、と。
四人の発言をしかと受け取った学園長は、冷めきったような顔でヘンドリックを見下ろした。
「レイヴィス公子、今ガーマン令嬢たちが言ったことは真実か?」
「……」
その沈黙が、まさしく肯定を表していた。
それ以上喋ったところで、自分が不利益になると感じたのだろう。まるで追い詰められた罪人のように、ヘンドリックは視線を逸らして黙り込んだ。
そこで、ロイド自身もまたすべてが事実であると確信したようだった。
「そうか……レイヴィス公子、ずいぶんと愚かなことをしたものだ」
「……」
ロイドはヘンドリックにゆっくりと歩み寄り、青ざめた彼を冷たい瞳で見つめた。
いくらレイヴィス家の嫡男といえど、学園内でトップであり、圧倒的な権力を持つロイド相手にどうにかできるわけがなかった。
彼は、ヘンドリックの耳元にそっと唇を近づけた。
そして、信じられない一言を口にした。
「―――お前、気に入らないから退学だ。明日からは学園に来なくていい」
「…………………え、そ、そんな」
退学という単語に、ヘンドリックの顔はさらに青くなり、傍で見ていた生徒たちもざわめいた。
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