26 反撃
突然の生徒会メンバーの登場に、ヘンドリックは思わず後ずさりした。
元より、生徒会の役員たちと彼はデイジーの一件でかなりギスギスしていた。そのせいか、ヘンドリックの彼らを見る目に鋭さが増した。
しかし、数々の修羅場を潜り抜けているであろう猛者たちにはそんなもの意味が無い。最初に一歩前に出たのはクレアだった。
「――悪いけど、それは不可能だと思うわ」
彼女はヘンドリックに対してハッキリと言い放った。
レイヴィス家と同じくらいの権力を持つ家に生まれ、さらには第一王子の婚約者でもあるクレアは、ヘンドリックでも軽々しく扱えるような相手ではなかった。
「何だと……?」
しかし、彼はデイジーのことになるともはや無敵だった。
驚くことに、クレアに対しても声を荒らげたのである。
「何人もの生徒があの女がやったと、証言しているんだぞ!それなのに不可能だと?」
しかし、ヘンドリックがどれだけ怒声を上げてもクレアはビクリともしない。
第一王子の婚約者もとい、次期王妃としてどんな困難もかいくぐってきた彼女にとっては、ヘンドリックなど相手にするまでもないのである。
「ええ、不可能だわ。私が断言する」
半ば呆れたような顔で、彼女は冷たくヘンドリックを見据えた。
クレアは曲がったことが好きではなく、ヘンドリックのことも元々苦手だったのだ。
「まず、シーラは昼休みの間ずっと私たちと一緒にいたわ。そんな彼女にあなたが言った犯行ができるような時間は無いのよ」
「時間が無いだと?目撃者がいるんだぞ、それでもまだしらばっくれる気か?」
ヘンドリックは直接その現場を見たわけでもなく、ただ見たと言っている人がいるからシーラが犯人だと決めつけているようだ。
(きっと私のことが嫌いな人たちの仕業なんでしょうね……)
いくらシーラを貶めたいとはいえ、嘘をつくのはよくない。
「しらばっくれるも何も、私は何もしていない。その目撃者たちが嘘をついているのよ」
「嘘をついているのはお前の方だろう?いい加減罪を認めろ」
「私は嘘なんて……」
シーラは間違いを正すために、前に出ようとした。
しかし、そんな彼女を守るように前に出た逞しい腕が彼女の進路を遮った。
「――彼女の言っていることが嘘じゃないってことなら、俺も証明できる」
「…………ダミアン様?」
クレアの次にシーラを庇ったのは、アルヴィンの側近でもあるダミアンだった。
「シーラ嬢は四限が終わってから五分後に生徒会室へ来ている。彼女の所属するD組と生徒会室の距離を考えれば、その分数はシーラ嬢がどこへも寄り道してないってことを表しているんだ」
「……」
彼はシーラの身長から大まかな歩幅を推測し、D組から生徒会室までの距離を基に、到着するまでにかかる時間を即時に叩き出した。
ダミアンは生徒会の中でも随一の頭脳派と言われ、テストでは毎回第二位――ヘンドリックの次を死守している。
つまり彼は第三学年の中では、ヘンドリックの次に頭が良いのだ。
「……走って途中でA組へ行ったという可能性もあるだろう」
「走る?淑女の鑑であるシーラ嬢が人前で走るとは到底思えないが……それならかなり目立つから、一人くらいは目撃している人物がいるはずだ。シーラ嬢が走っているところを見た者はいるか?」
ダミアンが周囲の生徒に目を向けるが、誰も名乗り出なかった。
さすがに生徒会のメンバーであり、アルヴィンの側近でもある彼の前で嘘をつくことはできなかったのだろう。
ついさっきまで罵詈雑言を吐いていた生徒たちが、一斉に黙り込んだ。
しかし、それでもヘンドリックはまだ諦めなかった。
「必ずしもその女がやったとは限らないはずだ!侯爵家の令嬢なら、誰か人を使ってデイジーのドレスを引き裂いたということも……」
「――いや多分、それも無いと思うよ?」
そこで口を開いたのは、しばらく傍観し続けていたサイラスだった。彼もまた、ヘンドリックを冷めた目で見つめていた。いつも通りの気だるそうな表情だ。
「俺、ワケあって普段から女の子と結構関わるから、そういう噂とかよく聞くんだけどさぁ……」
彼はチラッと背後にいたシーラを一瞥した。
「――シーラ嬢には、誰かを使ってデイジー嬢を貶めるなんてそんなことできないと思う」
サイラスの言っていることは正しかった。
もしそんなことをしようとすれば、逆にシーラが嵌められて終わりだろう。
彼女はアカデミーで友人なんていないし、下位貴族からも見下されるような立場だったからだ。
(私の学内での評判を知っているのなら、そんなことすぐにわかるはずよね?)
シーラは人を使えるほど、アカデミー内で権力を持ち合わせていなかった。
そのため、ヘンドリックが言ったことは彼女には実現不可能なのだ。
「な、なら一体誰がデイジーのドレスを……」
彼は握りしめた拳をわなわなと震わせながら、切羽詰まった顔で周囲を見渡した。
お前ら、俺を騙したのか?とでもいうかのような目。信じたのは紛れもない彼自身だと言うのに、他人に責任を押し付けるとはどこまでも傲慢だった。
生徒会メンバー三人に完全に言い負かされたのが悔しいのか、彼はとうとう俯いてしまった。
彼女たちが勝ちを確信したそのとき、シーラたちの背後からこちらへ近付いてくる足音が聞こえた。
「――これは一体何の騒ぎだ?」
「……!」
場を制圧するかのような低い声に、シーラたちはすぐに後ろを振り返った。
そこにいたのは、黒い髪に青い瞳を持つ、背の高い男性だった。
アカデミーに通っている者なら、誰もがその存在を知っている。そして第一王子のアルヴィンですら、彼に対しては敬意を払っているほどだった。
「…………………学園長」
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