25 ヘンドリックの襲来
ちょうど昼休みが終わりに近付いている頃、シーラは生徒会メンバーたちと共に外を歩いていた。
「アンダーソンだわ……どうしてアルヴィン殿下たち生徒会メンバーと一緒にいるの?」
「何であんなヤツがクレア様と親し気に話しているんだ……」
「わ、私のサイラス様が……!」
あの嫌われ者のシーラ・アンダーソンが学園内でもトップと言える生徒会メンバーたちと一緒にいるのだから、当然全員驚きを隠せなかった。
シーラはすれ違う生徒たちの陰口に気付いていながらも、特に気に留めることなく全てをスルーした。
――彼女はこの日を以て、新しく生徒会のメンバーとなったのだ。
すぐ横を歩いていたクレアは、嬉しそうにシーラの腕に触れた。
「とっても美味しかったですわ、アンダーソン令嬢」
「そう言って頂けるなんて……とても嬉しいです」
シーラはそんな彼女に対してニッコリ笑った。
彼女の作った弁当を食べたクレア、サイラス、ダミアンは嘘偽りの無い笑顔で美味しいと口にした。そのことがシーラにとっては何よりも嬉しかった。
人に手料理を食べさせることなど滅多に無いからか、本当は口に合うかかなり不安だった。ヘンドリックは一度も手を付けなかったし、自分では美味しく感じても他人の舌は違う風に感じるかもしれない。
しかし、クレアたちが褒めてくれたおかげで自信がついた。
「皆さんがお望みなら、いくらでもお作りしますわ」
「まぁ、本当ですか?」
お弁当のことで和気あいあいと話をしていたそのとき、突然後ろから耳をつんざくような怒声が廊下に響いた。
「――シーラ・アンダーソン!!!」
「……?」
あまりの大声に、シーラは驚いてビクッと肩を上げた。
シーラたちが後ろを振り返ると、息を切らして疲れ果てた様子のヘンドリックが少し離れたところに立っていた。
「ヘンドリック?どうしてここに?」
「お前……よくもデイジーのドレスを……!」
ヘンドリックは肩で息をしながら、狂気じみた瞳でシーラを捉えた。
――それは、あの日地下牢に入れられる前に彼から向けられた目とそっくりだった。
シーラはあのときのトラウマからほんの一瞬体が震えたが、何とか平静を保った。
身に覚えのない罪で追及されるのは、もう何度目かわからない。前までは、それを正したところで何の意味も無いことだと諦めていた。
しかし、そのせいで彼女は惨めな思いをしながら死んでいった。
二度と、あのような末路を迎えるわけにはいかない。
「デイジーのドレス?一体何のこと?」
「とぼけるな!お前がデイジーの母親の形見のドレスを引き裂いてゴミ箱に捨てたことは知っているんだぞ!」
「………何ですって?」
当然、シーラはそんなことをしていない。
大体今日、彼女にそのような時間はなかった。昼休みが終わってすぐ生徒会室を訪れたシーラには、A組に侵入している暇などは無いのだ。
「ヘンドリック、私はやっていないわ!何かの間違いよ!」
「うるさい黙れ!お前がやったのを見たと、食堂にいる全員がそう証言しているんだ!」
何とかそのことを伝えようとするものの、ヘンドリックはシーラがやったのだと確信しているようだった。
今、彼に何を言ったところで無駄かもしれない。こんなにも大勢の前で追及することによって、彼女が周囲にどう思われるのかをヘンドリックはまるで考えていなかった。
いや、もしかするとそのことを狙ってやったのかもしれない。
周囲の生徒たちは元々気に食わなかったのもあって、口々に彼女を罵倒し始めた。
「あの女、嫉妬に狂ってとうとうそこまでのことをしでかしたのか……!」
「何て醜いのかしら……!レイヴィス公子がデイジー嬢を愛していることに腹が立ったのね!」
シーラは最低な悪女だの性根が腐っているだの散々な罵声を浴びせられた。
そのたびに、彼女の心に鋭い刃物が突き刺さる。
こうやって詰め寄られていると、嫌でもあの日のことを思い出してしまう。
ヘンドリックに一方的に詰られ続け、周囲にいる使用人たちに嫌悪の眼差しを向けられ、挙句の果てには捕らえられて拷問される。
そのことを考えると、またそうなるのではないかと思って体が動かなくなった。
彼女は過去をまだ乗り越えられていなかったのだ。
(どうしよう……何も言えない……)
そのとき、目の前にお馴染みのあの画面が現れた。
――『ピンチ!カードを使用しますか?
使用できるカード:手料理のお礼 残るカードはあと四枚です
条件をクリアすることによってカードは解放されます』
自分一人の力では、もはやどうすることもできなかった。
追い詰められていたこともあり、シーラは無意識に使用するを選択した――
――『カードを使用しました――なお、二枚目のカードを使用したので隠しキャラによるイベントが発生します』
「お前、いい加減に……!」
「……ッ」
そのとき、ヘンドリックがシーラに手を伸ばした。
しかし、その手は彼女に届くことなく途中でピタリと止まった。
「……?」
浮かび上がった画面が消えると同時に、シーラを守るように三人が前に出た。
――クレア、サイラス、ダミアン。
三人がヘンドリックの前に立ちはだかっていた。
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