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二度とあなたの妻にはならない  作者: 春乃りぜ(ましゅぺちーの)


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23/52

23 お弁当

シーラは呆然としながら、目の前にいる男子生徒をじっと見つめていた。

長い銀髪を後ろで一つに束ね、垂れた目元が印象的な大人びた男性。まだ十八歳ではあるものの、男性とハッキリ言いきってしまえるほどに色っぽい人だった。



――サイラス・ヴェントゥール大公子息。

この国でたった一つしかない大公家の令息で、未来のヴェントゥール大公閣下でもある。



そして彼はまた、無類の女好きとしても有名だった。

平民から高位貴族の令嬢まで、身分を問わず様々な女性に手を出すサイラスの存在は学園にいる者なら誰もが知っている。



(前、アカデミーの女性教師の一人とも関係を持ったって噂になっていたけれど……本当かしら)



目が合うと、彼の金色の瞳がニコッと細められた。

認めたくはなかったが、やはり美しい。男性的な逞しさではなく、女性のような繊細な美しさを持ち合わせている彼は、一部から大変な人気を得ていた。



サイラスは頬杖をついたまま、シーラを見つめた。



「嬉しいなぁ……学園でも有名なアンダーソン令嬢から認知してもらっているだなんて」

「ヴェントゥール大公子様のことを知らない者など、この学園にはおりませんわ」



シーラとサイラス。

どちらも悪い意味で有名な二人だった。婚約者に執拗にまとわりつくシーラと、誰にでも手を出すサイラス。



そんなサイラスだが、大公家に生まれただけあってやはり凡人というわけではなかった。

校内では女子生徒をナンパする姿が頻繁に目撃されているものの、勉学においてはかなり優秀で、定期テストでも毎回五番以内を取っているほどだ。



(まったく……一体いつ勉強しているのかしらね?)



元々天才なのか、影の努力家なのか。前者なら羨ましくてたまらない。

できるだけ関わりたくないという雰囲気を彼自身も感じ取ったのか、面白そうにニヤリと口角を上げた。



「まぁ、これからたくさん関わることになるわけだし……よろしく頼むよ、アンダーソン令嬢」

「ええ、ヴェントゥール大公子様」



シーラはサイラスが差し出した手をギュッと握った。

”たくさん関わることになる”というのは、きっと彼女の気持ちに気付いてわざと言ったのだろう。



そのとき、彼の横にいた栗毛の男子生徒がツンツンと脇腹をつついた。



「サイラス、あまりアンダーソン令嬢を困らせるなよ」

「わかってるって」



大公家の彼とも親しげに話すその男子生徒は、よくアルヴィンの傍に控えており、彼の側近のような存在だった。

ふわふわしたくせ毛と、優しそうな緑色の瞳が特徴の彼は、たしか侯爵家の令息だったはず。



「ああ、アンダーソン令嬢。こうして話すのは、もしかすると初めてかもしれないね」

「ええ、そうですね」



前世でもあまり他人との関わりが無かったシーラにとっては、ここにいる全員がほとんど初対面のようなものだった。

しかし、全員がシーラと同じ高位貴族であることに変わりは無いので、さすがに顔くらいは知っている。



「――僕はダミアン・ウィルバート。よろしくね」

「こちらこそよろしくお願いします、ウィルバート侯爵令息」

「そんなにかしこまらないで。序列は同じなわけだし、名前でいいよ」



ダミアンは貴族令息たちの中ではかなりフランクな人だった。

家の階級が同列ということもあり、シーラにとってはこの中で最も関わりやすかった。



「では……ダミアン様とお呼びしますね」

「ああ、そうしてくれると嬉しいな」



シーラはニッコリと人当たりの良い笑みを浮かべたダミアンと握手を交わした。

早速メンバーたちと打ち解けた様子のシーラに、アルヴィンが安心したように声をかけた。



「シーラ嬢、君が生徒会に入ってくれるなんて本当に嬉しい」

「ええ、お話を聞いたときは驚きました。私に務まるか不安もありましたが……ぜひ挑戦してみたいと思いまして」

「そうか、前向きに検討してもらえていたのならよかった」



そこでクレアが、シーラが大事そうに手に抱えていたお弁当袋に気が付いた。

可愛らしいピンク色の袋は、シーラが自分で選んだものの一つでもある。地味で暗い容姿の自分にはとても似合わないなぁと思いながらも、一つくらいはと思って選んだものだ。



「令嬢、そちらは一体何ですの?」

「ああ、これは……私がいつも作っているお弁当です」



作っているという彼女の発言に、その場にいた全員が驚いた。

料理など、とても高位貴族のお嬢様がするようなことではないからだ。



(引かれてしまったかしら……)



シーラが毎日ヘンドリックに手作り弁当を持って行って捨てられているのは、アカデミーではかなり有名な話だ。

当然、彼らもそのことを知っているだろう。



シーラの弁当を抱える両腕に、無意識に力がこもった。



『―――クソがッ!!!毎回こんなもの作りやがって!!!』



そのときに彼女の脳裏をよぎったのは、ヘンドリックに弁当を蹴飛ばされたときの記憶だった。もし、またあのときのように馬鹿にされて弁当を台無しにされたら――



しかし、そんな彼女の心配とは裏腹に、彼らは意外な反応を示した。



「すごい!アンダーソン令嬢!」

「シーラ嬢は料理ができるのか!?」

「どんな弁当を作っているの!?興味があるわ!」



元々シーラと知り合いだったアルヴィン以外の全員が、興味津々な様子で彼女に向かって身を乗り出した。

そんな三人の様子に、シーラは呆気に取られた。



「シーラ嬢は毎日自分で弁当を作っているのか?」

「ええ……好きなものを食べたいので」



その返答にクレアは素晴らしいわと呟き、サイラスとダミアンも感心したように彼女を見た。

こんなにもキラキラした眼差しを浴びるのは初めてだった。それも学園で最も高貴といえる御三方から。



(あ、あら……?何だか予想していたのとだいぶ違うわね……)



安心しきったシーラは袋を開けて中に入っていた弁当を取り出した。



「よかったら……一口食べてみます?」



本来なら、こんなにも高潔な方々に手料理を薦めるなんて失礼な行いだ。何故、自分でもそのようなことを口にしたのかわからない。

三人は一瞬だけ固まったあと、満面の笑みで食べたい!と口にした。



その瞬間、ピロロンッという音と共にスクリーンがシーラの頭上に浮かび上がった。



――『新カード”手料理のお礼”』



しかし、彼らと話すのに夢中だった彼女がそれに気付くことは無かった。



そんな四人の姿を、アルヴィンは微笑ましそうに目を細めて眺めていた。

ちょうどその頃、アカデミーでは彼らの知らないところである問題が起きていた――




読んでくださってありがとうございます!


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