22 生徒会
ダンスの練習が終わり、教室へ戻ろうとしていたシーラはアルヴィンに声をかけられた。
「シーラ嬢、ちょっといいかな?」
「……何でしょうか?」
アルヴィンはアリーナから出ようとしていたシーラを手招きした。
彼女が傍まで近づくと彼は周囲の視線をチラチラと気にしたあと、耳元で囁いた。
「今日の昼休み、ちょっと時間あるかな?」
「ええ……何か御用でも?」
「そうだね……ここでは言いづらいんだけど、君をあるものに誘いたいと思って」
アルヴィンはシーッと人差し指を唇に当て、そんな彼にシーラはきょとんと首をかしげた。
***
四限が終わり、昼休みになった。
シーラはアルヴィンに言われた通り、ある場所へと赴いていた。
(……こんな場所に、私みたいなのが入っていいのかしら?)
学園の中でも一際豪華な装飾の施されている大きな扉。まるで国王陛下が住んでいるのではないかと錯覚してしまうほどだ。
そのドアの前に立つと、シーラの体は強張った。前世でヘンドリックに会いに行くときも、これほど緊張したことはほとんど無かった。
「――失礼します、殿下」
緊張した面持ちで扉をゆっくりと開けたシーラは、部屋に入る前に深くお辞儀をした。
しばらく頭を下げていると、穏やかな声が彼女にかけられる。
「よく来たね、シーラ嬢」
「……殿下」
聞き慣れたアルヴィンの声に、彼女は緊張が解れたのかゆっくりと顔を上げた。
一つのテーブルを囲んで、複数人の男女がソファに座っている。上座にはアルヴィンが、そしてそんな彼の周囲にはそれぞれ三人の男女がじっとシーラを見つめていた。
――全員、オルティネス王国屈指の名家の者たちだ。
そこは自分にはあまりにも場違いで、遠い存在だと感じていた。そんな彼らの前に、私が立っているだなんて。とても信じられなかった。
「さぁ、入ってくれ。シーラ嬢」
「はい、殿下」
シーラは上手く力の入らない足を動かし、部屋の中へ入った。
アカデミーに通っている生徒たちの中でも一部しか入ることのできない、特別な会。一般生徒たちにとっては住む世界が違う人たちばかりである。
「シーラ嬢、ようこそ―――我が生徒会へ」
上座に座っていたアルヴィンが立ち上がり、シーラを歓迎した。
そう、彼女が訪れたのは生徒会室である。
第二王子であるアルヴィンは、このアカデミーの生徒会長を務めている。
生徒会とは、学校行事の企画運営などを担う自治組織である。アカデミーの生徒たちで構成され、会長、副会長、書記、広報、会計の計五人から成っている。
しかし、今ここにいるのは四人。
三月に上級生たちが卒業してから、すぐにアルヴィンが同級生から相応しい人材を集めた。
彼の選定により、伯爵家以上の上位貴族家の子息から特に優秀な数人が選ばれた。
そして、あと一人で五人揃うというところで最後に選ばれたのはヘンドリックだった。
彼は公爵家の嫡男という地位に加え、毎回定期テストで一位を取っている。そのため、残る一人の枠は彼以外にあり得ないと言われていた。
当然、アルヴィンたち生徒会メンバーたちもそのつもりでいた。彼はヘンドリックとは犬猿の仲だったが、その実力はちゃんと認めていたからだ。
しかし、ヘンドリックは生徒会に入る代わりとしてある条件を提示したのだ。
――それが、デイジーの生徒会加入だった。
何と彼は、平民であるデイジーを既に決まった誰かと引き換えに生徒会に加入させようとしていたのだ。
アルヴィンたち生徒会は困惑したが、それはできないと断った。
元より伯爵家より身分が下の者は入れない場所であり、デイジーは特に何かにおいて優秀というわけでもなかったからだ。
その返事を聞いたヘンドリックは激怒し、メンバーたちに猛抗議したのだという。
しかし、彼がいくら進言したところでデイジーを生徒会メンバーにすることはできない。
それなら彼も入らないと言い、残る一人の枠は空いたままだった。
そのような経緯から、生徒会は現在四人で活動していた。
遠慮がちに部屋に入ったシーラを、一人の女生徒が快く出迎えた。
「ようこそいらっしゃい、女の子が来てくれてとっても嬉しいわ」
「よろしくお願いします」
――クレア・ガーマン公爵令嬢。
ガーマン公爵家の長女であり、アルヴィンの兄第一王子殿下の婚約者だ。
シーラと違って婚約者との仲が良いことで有名であり、前世では二人の間に王子も生まれていた。
ガーマン家はヘンドリックのレイヴィス家にも引けを取らないほどに権力を持つ家だ。
クレアはシーラを慰めるようにポンポンと肩を叩いた。
「あなたも大変ね、あの身勝手で傲慢で、どうしようもない婚約者の尻拭いをさせられているのは知っているわ」
「ガーマン令嬢……」
シーラの学園での評判は良いとは言えないものの、全員が全員彼女を嫌っているというわけではなかった。
むしろ、生徒会のメンバーは我の強いヘンドリックを良く思っていなかったため、自然とシーラに友好的だったのだ。
「ここではあなたを虐める人なんていないから安心してね」
「ありがとうございます、ガーマン令嬢」
シーラはクレアに向かって微笑んだ。
「さぁ、シーラ嬢。座ってくれ」
アルヴィンに席を薦められ、シーラはちょうど人一人分のスペースが空いていたクレアの横に腰を下ろした。
シーラの正面には、二人の男子生徒が座っていた。彼女はそのうちの一人――ちょうど目の前で腕を組んで座る彼に興味を引かれた。
(あら、たしか彼は……)
彼女の脳裏に、前世で深く記憶に残る一人の男性が浮かんだ。
「ヴェントゥール大公子様……?」
「――何だ、俺のことを知っているのか?」
家名をしっかりと呼ぶと、彼がニヤッと口角を上げた。
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