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二度とあなたの妻にはならない  作者: 春乃りぜ(ましゅぺちーの)


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21/45

21 アルヴィンとのダンス

そして、全員がパートナーを決め終えたところでダンスの練習が始まった。

二つの大きなグループに分かれ、前半と後半でそれぞれダンスをする。

ヘンドリックとデイジーのペアは前半、アルヴィンとシーラのペアは後半となった。



「デイジー、俺に任せて。楽にしてくれ」

「はい、ありがとうございます。ヘンドリック様」



ヘンドリックは颯爽とデイジーの手を取り、最も目立つであろう中央に彼女を連れて行った。浮気カップルのくせに目立ちたがり屋とは、何て図々しいのだろうか。



曲が流れ始めると、ヘンドリックは周囲に見せつけるようにデイジーの手の甲にキスを落とした。その行動により、シーラに憐れむような生徒たちの視線が集まった。



(どこまでも私を貶める気なのね……)



それから二人は曲に合わせて踊り始めた。

デイジーを気遣いながらも華麗にリードする彼の姿に、令嬢たちはうっとりした顔で素敵と呟いた。

彼女の腰を優しく抱き寄せ、耳元で何かを囁いた。愛の告白でもしたのだろうか、デイジーが照れたように笑った。



(とっても楽しそうね……)



シーラはボーッとその姿を眺めていた。

ヘンドリックとデイジーは元より二人とも目を引く容姿をしているせいか、他のどの生徒たちよりも自然と目立ってしまうのだ。



最後の最後で、ヘンドリックがデイジーの体を抱き上げた。

彼女は宙に浮き、スカートがフワッと広がったあとにゆっくりと床に着地した。曲が終了し、前半組から後半組へのバトンタッチとなる。



ヘンドリックは最後までデイジーを紳士的にエスコートして退場した。



「次は俺たちの番だな」

「はい、殿下」



アリーナに流れる音楽に合わせて、シーラとアルヴィンは手を取り合った。



「殿下、実は私あまりダンスが得意ではないんです。足を踏んでしまうかもしれません」

「あのシーラ・アンダーソン侯爵令嬢に苦手なものがあったとは驚きだな」



アルヴィンは顎に手を当てて面白そうに笑った。

いや、あいにくだが笑っている場合ではない。シーラは実は本当にダンスがあまり得意ではない。



(今ではだいぶマシになったけれど、昔は何度も相手の足を踏んでしまっていたわね……)



曲が終わる頃、練習相手の令息の足が真っ赤になっていたのは苦い思い出である。

ヘンドリックが彼女をダンスパーティーのパートナーにするのを嫌がったのも、そのような理由がある程度は含まれていた。

彼はきっとシーラのことを情けないと思っていたのだろう。



(もしかしたら、いつも偉そうにしているくせにそんな基礎的なこともできないのか、なんて思われているのかも……)



考え事をしていたそのとき、バランスを崩して彼の足を踏みそうになってしまった。



「あっ……も、申し訳ありません……!」

「おっと」



アルヴィンが素早く避けたため、最悪の事態は免れた。

しかし、彼女の胸に残る罪悪感はいつまでも消えなかった。



「今、殿下の足を踏みそうになりましたの?」

「あり得ないわ、自分から殿下をパートナーに誘っておいて!」



彼のパートナーの座は多くの女子たちが切実に欲しがっていたものだったせいか、周囲からは酷い言われ様だった。

しかし、今回の一件に関しては完全にシーラが悪いので反論の余地も無い。



(……呆れられてしまったかしら)



彼が王族である以上、嫌われることだけは避けたい。

しかし、顔を上げたシーラの目に映ったのは、さっきと変わらずに笑みを浮かべているアルヴィンだった。



「そうだな、誰にでも苦手なものの一つや二つくらいあるだろう。俺はむしろ、シーラ嬢の人間らしいところが知れて嬉しいよ」



彼は落ち込んで暗い顔のシーラを慰めながら、笑みを深めた。

さっき彼が誰にでもと言ったのを、彼女は聞き逃さなかった。



「……殿下にもあるのですか?」

「あ、あるわけないだろ……」



アルヴィンは一瞬だけ沈黙したあと、ぷいっと視線を逸らした。

そういえば、殿下って勉強とか運動はできるけど昔からちょっぴり臆病だったような?



(それに、最近はマシになったけれど子供の頃はかなりの偏食だったわね)



過去を思い返していたシーラは、アルヴィンの苦手なものが何だかすぐに理解した。



「………殿下は、トマトと虫が苦手です」

「な、何故それを……!」



図星だったのか、彼が珍しく狼狽えた。

それでもダンスのステップを踏み外さないのは、流石王族といったところだろう。



「あ、あれは違う……残したのは腹が痛かっただけだ。虫に触れなかったのもたまたま手に怪我をしていて……」

「殿下ったら……」



言い訳を重ねる彼が何だか可愛く見えて、シーラはフフッと笑みを溢した。



「苦手なもの、たしかに誰にでもありましたね」

「俺を誰だと思っているんだ、そんなものあるわけないだろ」



強がるアルヴィンに、シーラはとうとう堪えきれなくなってアハハッと声を上げて笑った。

そんな彼女を見たアルヴィンは、拗ねたように頬を膨らませた。手を取り合って笑い合う二人は、誰から見ても仲睦まじい恋人のようだった。



たとえ上手くなかったとしても、ダンスは楽しむことが大切。

かつての講師がシーラに教えてくれたことである。



「……」



そして、そんな二人の仲睦まじい姿を、ヘンドリックは遠くから複雑な目で見つめていた――




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