20 パートナー
アリーナへ行くと、ちょうど生徒たちが集まっているところだった。
D組のよく知るクラスメイト以外にも、あまり見慣れない生徒たちがいる。
(あそこにいるのってA組の担任教師だし……)
十中八九、A組の生徒たちである。やっぱり、アルヴィンが意地悪を言ったというわけではないようだ。まぁ、真面目な彼に限ってそんなことあり得ないが。
そして、その中には当然あの二人もいた。
「――デイジー、俺がリードするから心配しないで」
「ヘンドリック様がいてくれるなら、安心です」
人目も憚らずに肩を抱いてイチャイチャする、カップルのような二人。
その片方に婚約者がいるだなんて、言われなければ絶対にわからない。
(私は他のクラスだったから知らなかったけれど……あの二人ったら、いつもあんなテンションなわけ?)
――ヘンドリックとデイジーだ。
彼らはシーラがいることに気付きもせず、堂々とイチャついている。
(まぁ、今さらあんな人惜しくもないけどね)
欲しければいくらでもくれてやる。
彼女の今世の目標は生き残ること、ただそれだけだったからだ。
A組とD組の生徒たちが出揃った頃、教師がパンパンッと手を叩いた。
「はーい、それでは男女二人一組でペアになってダンスの練習をしてみましょう」
その掛け声で、それぞれがペアを組み始める。
婚約者のいる者は婚約者と、いない者は友人や意中の相手など。それぞれが組みたい相手に声をかけ始めた。
「デイジー、俺のダンスの相手をしてくれるか?」
「もちろんです、ヘンドリック様」
差し出されたヘンドリックの手を、デイジーが満面の笑みで取った。
「……」
――当然、ヘンドリックはシーラではなくデイジーを選んだ。
迷う素振りすら見せない、彼は嫌悪してやまない婚約者ではなく愛する女性の手を取った。
元々期待していなかったし、別に何とも思わない。
――今、考えるべき問題は別にある。
(……私は、誰にしようかしら?)
周囲に視線を向けると、すでにパートナーを決めた生徒たちがシーラをチラチラと見ている。
気になるのだろう、シーラが誰とダンスの練習をするのかを。そして彼女は、慎重にパートナーを選ばなければならなかった。
(ただでさえヘンドリックがデイジーを選んだ今、相応の相手を選ばないと笑い者になるわ……)
平民の女に婚約者である公爵令息を取られて嘲笑されている今、彼と同等かそれ以上の男性でなければ彼女はまたいつものような屈辱を受けることとなる。
ふと遠くに目をやると、一ヶ所だけ人が集中している場所があった。
女子生徒の群れの中心にいるのは、やはりあの人物だった。
「アルヴィン王子!是非私とダンスの練習を!」
「私、ダンスは物凄く得意なのです。王子の足を引っ張らない自信がありますわ!」
「ここで一番殿下に相応しいのは私です!」
「そうだな、みんなの気持ちはありがたいけど……」
激しい女子たちの波に揉まれていたのは、第二王子アルヴィンだった。
アルヴィンは高い地位に加えて美しい見た目をしており、そのうえ婚約者もいないため、女子たちがここぞとばかりにアピールをしているのだ。
そして彼に気に入られ、あわよくば婚約者になり、そのまま第二王子妃の地位を手に入れたいという考えが見え見えである。
(何とも醜い争いねぇ……)
少し前までは自分もまたあのように醜態を晒していたのだと思うと、何だか恥ずかしくなった。
そんなことを思いながらも、シーラはアルヴィンに向かってゆっくりと歩き出した。
「――アルヴィン殿下、ご機嫌麗しゅう」
「………シーラ嬢?」
輪の外から話しかけると、アルヴィンが反応した。
彼にとってシーラは、多くいる他の女子たちとは違った存在だった。幼い頃からの仲であり、恋愛関係にあるわけではないものの、特別な人だ。
アルヴィンは女子たちの波をかき分け、シーラの元へと向かう。
彼に猛アタックをしていた彼女たちは、何故あの女がと悔しそうに呟いた。
(そうやって嫌味を言われたところで何の効果も無いわ。こっちも退くわけにはいかないんでね)
シーラは胸の前に手を置き、アルヴィンに向かってゆっくりとお辞儀をした。
誰から見ても美しいその所作は、激しい争いを繰り広げていた女子たちとは大違いだ。感情に任せて行動することもなく、王族相手への礼儀を欠かさない。
顔を上げたシーラは、淑女教育で習った笑みを浮かべた。
「殿下、よろしければ私に殿下のパートナーを務めさせていただけませんか」
「シーラ嬢……」
アルヴィンもまた、洗練された彼女の所作に魅了されたようだった。唇が僅かながらに弧を描き、そのままシーラに手を差し出した。
「そうだな、どのみち誰かを選ばなければならないし……君にしよう」
「お選びいただけるなんて、光栄です、殿下」
シーラは差し出されたアルヴィンの手を取った。
彼を狙っていた女子たちはショックを受け、他の生徒たちはアルヴィンが嫌われ者のシーラを選んだことに呆気に取られていた。
「ど、どうして殿下がアンダーソンを……」
「他にも相手はたくさんいるのに……」
嫉妬と羨望が混じった彼らの呟きなど、気にもならない。
―――この一件は、彼女の完全勝利だった。
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