17 ゲームの世界
地獄の晩餐会を終えて部屋へ戻ったシーラは、ソファにドサッと座り込んだ。
一人になったその空間で、彼女はふぅと息を吐いた。
「二度目の回帰だなんて……何だかとっても変な気分だわ」
たしかにさっき、シーラは階段から転げ落ちて死んだはずだった。
しかし、今の彼女は間違いなく生きている。
そのことを確かめるために胸に手を当ててみるも、しっかりと一定のペースで脈打つ心臓を感じる。
やっぱり死んでない、私はたしかに回帰してきたのだ。
――ヘンドリックからの拷問で無惨に死んだ、あのときのように。
二度目だったからか、前よりもすぐに受け入れることができた。
「それより問題なのは……カードとかゲームだとかわけのわからない言葉ばかり出てきたことね」
さっき使用人たちが彼女の味方をしたのは、きっとシーラがカードを使用したからだろう。
あのカードに『使用人たちの情』という名前が付いていたのを、彼女はその目でしかと確認していた。
きっと使用人たちが彼女を助けてくれるというカードだったのだろう。
あれを使わなければ、シーラは今頃父親に軟禁されていたかもしれない。そのことを考えると、ゾッとした。
ここがゲームの中の世界だとして、あのカードはお助けアイテムのようなものなのだろうか。
シーラは昔、たまたま図書館でそのような世界線の小説を偶然読んだことがあった。
何の変哲もない世界で過ごしていた主人公が、突然乙女ゲームの中の世界に放り込まれるという話。
その小説の中では、当然今のシーラのようにお助けキャラや好感度アップのアイテムが登場した。それらを使用することで、主人公の恋が進展したり、ピンチのときに救いの手が差し伸べられたりするのである。
もちろん、そんなアイテムが簡単に手に入るというわけではない。
何らかの試練をクリアするたびに、キャラとの仲が縮まって助けてもらえたり、お礼としてその品物を貰えるのだ。
(もしかすると、私が使用人たちへの態度を変えたから……カードが解放されたのかしら?)
突然画面が現れ、カードが使えるようになった原因として考えられるのはそれしかなかった。
「残るカードはあと四枚……ということは、何らかの条件をクリアすれば残りのカードたちが使えるようになるということよね?」
その条件というものはよくわからないが、きっと過ごしていくうちに自然と手に入れられるだろう。
ゲームの世界だか何だか知らないが、私はただ私の人生を生き抜くだけだ。
(もう二度と、死にたいなんてそんなこと思ったりしない)
彼女は決意を固め、再び部屋を出た。
真っ先に向かったのは、ある人物の元だった。
「――執事長、さっきは助けてくれてありがとう」
「シーラお嬢様……?」
彼女の謹慎を阻止し、父に反旗を翻した執事長本人だった。
後ろには数人の使用人たちもおり、シーラは彼らにもありがとうと礼を言った。
彼らはこれまでシーラと深く関わってはこなかったものの、別に彼女を嫌っていたというわけではなかった。
ただ、彼女自身が一定の距離を保っていたため、彼らもそれに従っていただけである。
「礼を言われるようなことは何も…・・・当然のことをしたまでです。旦那様は時々横暴になるときがありますから、私がしっかり止めないと。大旦那様にもそう言われておりますので」
「大旦那様……」
父がこの世で最も苦手とする人物――シーラの祖父。
シーラは前世を含めても、祖父とはあまり会ったことが無かった。ただ、幼い頃に何度か一緒に過ごした記憶が――
『シーラ、とっても愛おしい我が孫娘。こっちにおいで』
顔はもうハッキリと思い出せないものの、いつも穏やかな笑みを浮かべ、シーラをその胸に抱きしめていた。
母は幼い頃に亡くなり、父親からの愛を得られなかった彼女にとっては、祖父の存在は唯一の心の拠り所だった。
(……お祖父様は、今どのように暮らしているのかしら)
「ねぇ、お祖父様は今領地で過ごしているのよね?」
「ええ、馬車の事故で大怪我を負ってからは侯爵の地位を旦那様に譲り、隠遁なさりました」
祖父はシーラが生まれた頃にはすでに侯爵邸には住んでいなかった。
それでも母と共にたびたび領地へ帰ったときは温かく出迎えてくれた。
「お祖父さまは元気かしら?あなたは会っているんでしょう?」
執事長が定期的に祖父に会いに行っていることをシーラは知っていた。
縁を切っているも同然である父や、元からよく思われていなかった義母は全く会っていないようだけれど。
シーラ自身も母が亡くなり、領地へ行くことが無くなってからは会わなくなった。
(もしかすると、お祖父様ならヘンドリックとの婚約破棄を認めてくれるんじゃ……?)
何よりも家の利益を優先する父とは違って、祖父は優しい人だ。
ヘンドリックの不貞を伝えれば、婚約破棄を考えてくれるのではないか。
そう考えたシーラは、近いうちに祖父へ会いに行くことを決めた――
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