第二話:初めてのダンジョン1
マリンと二人、正式にパーティを組むことになったツヴァイは、さっそく初陣の準備に取りかかっていた。
「マリンは術師だから杖だよな。予算はどれくらいある?」
マリンが小ぶりの革袋を開け、中身を数えながら答える。
「300ゴルドです」
「ああ、じゃあ俺と一緒だな。ちょっとした武器と防具を揃えるには丁度いい」
何しろ、付与されるまで自分の職業が分からない世界だ。あらかじめ両手剣を買っておいて「魔術師」を言い渡されたら目も当てられない。そのため、職業が決まってからギルド併設のショップへ駆け込むのが探索者の定番だった。
「すいません。魔術師用の杖とローブ、それから銅の剣と盾、革の胸当てをください」
ツヴァイが注文を告げると、体格のいい店主が奥からガサゴソと商品を持ってきた。
「全部で500ゴルドだよ」
二人の予算を合わせ、支払いを済ませる。残金はちょうど100ゴルドになった。
「マリン、何があるか分からないし、残りのお金でポーションを買っておかないか?」
「私はそれでいいと思います。……私が、回復魔法とか使えたらよかったのですが」
マリンは自嘲気味に眉を下げた。まだ自分の『水術師』という不遇職を気にしているようだ。
「いいんだよ。水しか使えないって言うけど、水が出せるおかげで俺たちは飲み水に困らないだろ? 最高の強みじゃないか」
「でも、私、MPが30しかなくて……ウォーターボールは一発で5も消費するんです」
「じゃあ6回撃てる。MPなんてレベルが上がれば伸びるさ! それに、実際のウォーターボールがどれくらいの威力か、まずはダンジョンで試してから作戦を考えようぜ」
「はい……」
それでもマリンの表情にはまだ少し不安が残る。ツヴァイは店主に声をかけた。
「店主さん、ポーションを4本ください」
「あいよ! 40ゴルドね」
買い物を終え、それぞれ支給された装備を身につける。
胸当ての革の匂いと、銅剣のずっしりとした重み。
「こういう風に装備を付けると、いよいよ探索者になったって気がするな!」
湧き上がる高揚感を隠せず、ツヴァイが拳を握ると、マリンがようやく小さく吹き出した。
「ふふ、そうですね」
その笑顔にホッと胸をなでおろしながら、ツヴァイはふと気になっていたことを尋ねてみた。
「そういえば、マリンはどうしてダンジョンに入ろうと思ったんだ? 水術師なら、街の生活用水の仕事とかで引く手あまただろうに」
マリンの笑顔が消え、真剣な面持ちに変わる。
「私……お父さんを探したいんです。お父さんは腕利きの探索者でした。いつも遠征から帰ってくると、見たこともないお土産をたくさんくれて。でも、3年前に『天を衝く塔』に向かうと言ったきり、音信不通になってしまって」
3年前、最難関の塔で行方不明。
ツヴァイの脳裏に最悪の結末がよぎる。
「マリン。言いづらいんだけど、お父さんはもう……」
「わかってます。3年も音沙汰がないんだから、もう命を落としているかもしれない。でも……それでもお父さんの足跡を追いたいんです!」
真っ直ぐな瞳だった。ツヴァイのような正体不明の職業と組んでまでダンジョンに挑もうとする理由が、ようやく腑に落ちた。
「あの、ツヴァイさんはどうしてダンジョンに?」
「え? ああ、俺は兄さんみたいな冒険がしたい、ってのが大きいかな」
「お兄さんも探索者なんですね」
「ああ。俺と違って、初手から大当たりの『聖騎士』さ。あっという間にゴールドランクまで駆け上がって、全大陸のダンジョン出入り許可を得てたよ」
「自慢のお兄さんなんですね」
「うん。一刻も早く追いつきたいと思ってたから、わけのわからない職業にされて少し出足を挫かれたけど……。でもさ、誰も知らない職業ってことは、何かものすごい秘密が隠されてるかもしれないだろ? 腐らずやっていくよ!」
「ツヴァイさんは前向きなんですね」
「能天気なのが取り柄だ、って兄さんにもよく呆れられたよ」
「……とってもいいと思います!」
マリンが今日一番の笑顔を見せた。
間近で見るその破壊力に、ツヴァイの心臓がドキンと跳ねる。
「じ、じゃあ、最初のダンジョンアタックの申請に行こうか!」
赤くなった顔を隠すように、ツヴァイは慌てて受付へと歩き出した。
「すいません、最低ランクのダンジョンアタックを申請したいのですが」
先ほどの受付嬢が、にこやかに対応してくれる。
「初めてのアタックですね。では、まずは『模擬ダンジョン』へ挑んでいただきます。説明は必要ですか?」
「あ、はい。お願いします」
受付嬢はカウンターに手際よく資料を広げた。
「模擬ダンジョンは、正規の探索許可を得るための試験です。内部には人造の小型ガーディアンが徘徊していますので、それらを撃破するか、あるいは回避して最奥を目指してください。最後に待ち構える中型ガーディアンを撃破すればクリアとなります」
トントン、と受付嬢が資料の一箇所を指先で叩く。そこには真っ赤な警告印が押されていた。
「訓練用とはいえ、セーフティをすり抜けて命を落とす危険はゼロではありません。決して無理はせず『命大事に』でお願いしますね。あ、ダンジョン内で手に入れたガーディアンの残骸などは、ギルドで買い取りますのでご安心ください。説明は以上ですが、質問はありますか?」
ツヴァイは資料の文字を追いながら、一つだけ気になったことを確認する。
「もし、途中で無理だと判断してリタイアした場合、再チャレンジはできるんでしょうか?」
「もちろんです! 一度失敗したからといって、永久に資格が失われるわけではありません。実力を蓄えて出直せば、何回目でも合格すればカッパーランクの冒険者になれますよ」
「わかりました。では、模擬ダンジョンへの挑戦を申請します」
「承りました。では、右奥のゲートからどうぞ。ご武運を!」
受付嬢に見送られ、ツヴァイとマリンは一歩、薄暗いゲートの先へと足を踏み入れた。
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