第一話:誰も聞いたことがない職業
ダンジョンが存在しそこから資源を得ている世界アリクトス。
そのダンジョンを統括するギルドの重い扉を一人の若者が押し開けた。
「おっし、今年から俺もダンジョンへ挑めるようになったぜ。長かったなあ」
若者の名はツヴァイ。
ギルドに登録できるのは16歳から、5歳年上の兄の冒険譚を聞いていたツヴァイにとってこの日は待ち遠しくて仕方がなかった。
「すいません、ダンジョンアタックの登録をしたいのですが」
ツヴァイは空いている受付で尋ねる。
「新規登録ですか?それでは職業付与が必要ですので、左奥の付与の間に向かってください。これが整理券です。」
受付嬢は慣れた手つきで手続きを済ませ、ツヴァイを案内した。
付与の間には既に今年ギルド登録する他の若者たちで列が出来ていた。
「次の物前へ」
付与の儀式を行っている神官が先頭に並んでいた蒼い髪の少女に付与を行う。
「汝、水術師なり」
「水術師……ですか?」
蒼い髪の少女は聞き返した。
「うむ、水術師だ。励むが良い。では次の物」
神官は短く伝えると、付与の儀式を淡々と進めていった。
蒼い髪の少女は肩を落とし俯きがちのままメインホールへと戻っていった。
そうして何人かの職業付与が終わり遂にツヴァイの順番が回って来た。
「俺も兄さんみたいな立派な職業になれるといいんだけどな」
ツヴァイは期待と少しの不安を胸に儀式へ臨む。
付与の魔法陣が強く輝く。それは今まで見てきた光よりも強い輝きだった。
(これは、俺も上位職!?)
目の前の輝きにツヴァイの期待は最高潮に達していた。
「汝、甲殻戦士なり」
ツヴァイの職業が告げられた。
「へえ、甲殻戦士か……ちょっと待ってくださいなんですかそれは!」
ツヴァイは聞いたことない職業を付与されて間違いではないかと神官に確認する。
「うむ、私も初めて聞く職業だが、神から付与された職業は間違いなく甲殻戦士だ。励むがよい」
神官はそれ以上こちらの質問を受け付ける気はないとばかりに、視線すら合わせず次の者を呼び出す。
ツヴァイは釈然としないまま、押し出されるようにその場を後にした。
(……とにかく、まずは自分の目で確かめるしかないか)
鑑定板でも使われない限り、ステータスは自分だけの秘密だ。
ツヴァイは壁際に身を寄せると、小さく息を吐いた。
「ステータスリストよ開け」
ツヴァイが唱えると、目の前に半透明のウインドウのようなものが表示される。
そこには。
名前:ツヴァイ
職業:甲殻戦士
レベル1
HP100
MP30
攻撃力10
防御力30
素早さ20
精神力30
甲殻度0%
スキル
サイドダッシュ
と記載されていた。
「初期レベルにしては結構パラメーター高いけど、甲殻度ってなんなんだ……それにスキルサイドダッシュって横移動が速いってことか?」
ツヴァイの頭には幾つもの疑問が湧いてきたが、とりあえず基礎ステータスは高いのでホールで仲間を募ることにした。
「兄さんがダンジョンは過酷、回復役が大切って言ってたからまずは僧侶の人に声を掛けよう」
ツヴァイは自分の前に儀式を受け、僧侶の判定を受けた青年に話しかける。
「すいません自分甲殻戦士なんですけど一緒にダンジョンへ挑みませんか?」
「ん?君は何ができるの?」
青年が尋ね返す。
「えっとスキルはサイドダッシュで他に何ができるかわかりませんが、基礎ステータスは高めです!」
ツヴァイは正直に自分のわかっていることを伝えた。
「なにができるかわからない奴に命を預けられるわけないだろ。他を当たってくれ」
青年には取り付く島もなくツヴァイは追い払われてしまった。
その後いろんな職業の人に話しかけたがついぞツヴァイの仲間になってくれる人はいなかった。
「得体の知れない奴と組めるかよ」
どこへ行っても返ってくるのはそんな言葉ばかりだった。
命が懸かっている以上、彼らの言い分ももっともだ。ツヴァイ自身、逆の立場なら同じことを思っただろう。
「はあ、ソロでアタックするしかないのかなあ」
ツヴァイが途方に暮れていると、トコトコとこちらに歩いてくる蒼い髪の少女が見えた。
「あ、あの!私と一緒にダンジョンへ潜りませんか!?」
蒼い髪の少女は精一杯の力を籠めてツヴァイに話しかけた。
「えっと、俺に言ってる?」
ツヴァイはつい聞き返してしまった。
「は、はい!私水術師だから仲間になってくれる人がいなくって最後に残っていたのがあなたで……あ、名乗るのが先ですよね私マリンって言います!」
「水術師って水魔法しか使えないんだよね」
「そうみたいなんです。単属性の魔術師は要らないって言われて……」
言葉を重ねるにつれ、マリンの声音はどんどん小さくなり、今にも泣き出しそうなほど俯いていく。一体どれだけの数、断られ続けてきたのだろう。
「俺は甲殻戦士って言う誰もわからない職業なんだけどそれでもいいかい?」
ツヴァイが尋ねるとマリンは顔を上げ答えた。
「はい!そのできることがわからないのは私も同じなので、足手纏いになるかもしれませんが」
「初心者同士なんだ、お互いでカバーしていこうぜ!」
こうして甲殻戦士と水術師。外れ職業の二人でパーティを組むことになった。
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