ご
馬車の中で教えてもらったことだが、王宮の庭園には一年中バラが咲いているらしい。
魔法で温度管理をしていることも理由の一つではあるが、一番の理由は時間経過を遅くする魔法が広範囲でかけられているらしく、その為バラが咲いたら庭園へと植え替え、魔法をかける。
これで一年中いつだってバラを見ることが出来ると、国王陛下が王妃様への贈り物として贈ったといわれているが、実際は寵愛している側室への贈り物らしい。
このような大規模な魔法を行使できる魔法使いはかなり珍しい存在となっているため、膨大なマナを消費する魔法をたかがバラを咲かせるだけのことに使うことが、陛下がどれだけ側室を想っているのかがうかがえた。
(だけど、そんな側室に贈った庭園を王妃様が茶会に使用しているということは、きっと王妃様と側室様の仲は悪くないってことよね?)
私は様々な品種のバラを観察しながら歩を進めていると「あれ?」と首を傾げた。
「………男の、子?」
白髪か、それとも銀髪か。
男の子はベンチの上に膝を立てて顔を伏せていた。
私は一瞬”(迷子?)”と思ったがすぐに否定する。
ここは王宮内で、今回のお茶会は女の子だけが呼ばれ、男の子は王子殿下以外いるわけがない。
ならこの男の子は誰なんだろうと疑問に思いながら、私は男の子に近づき声をかけた。
「……具合、悪いの?」
すると男の子は伏せていた顔を勢いよくあげ、私を見た。
眩しそうに細められた赤い目が私を捕らえると、男の子はそのまま首を傾げる。
私を見るなり眉間にしわを寄せているから、もしかしたら警戒しているのだろうと思った。
だけど私はそれどころではなかった。
なにも答えない男の子に私は思う。
_____この子、天使なんだ。
と。
(…そういえばサリーが読んでいる本にもあったわ。この世には人間や動物、魔物といった様々な存在がいるけど、この世界の上空にある天界と呼ばれる世界には天使がいるんだと。天使はめったに地上に降りてくることはないけど、それはもう一目見てわかるほどに美しい容姿をしているらしいわ。そう!この子のように!!)
私はごくりと唾を飲み込んだ。
緊張しているのか、自分の心臓がどきどきと早く鼓動している。
それでも滅多に地上に降りてこない天使がこうしてやってきている。この機会を逃してなるものか。
私はドキドキと高鳴る心臓の意味を考えることなく、気合を入れた。
「あの、…天使さん?」
「は?」
あれ、意外と天使さんは言葉遣いが悪いらしい。
見た目が男の子のようだからかな?
それじゃあ見た目が女の子の天使さんなら、きっと言葉遣いも丁寧なんだろう。
天使さんには性別がないらしいけど、こうして性格を見た目で表しているんだなと、私はわかりやすいと思いながら話しかけ続ける。
「あなた天使さんよね?天使さんはどうしてここにいるの?」
「…………」
「もしかして隠れていたの?それとも疲れていた?」
「……君、誰?なんで僕のこと天使だって_」
「あ、自己紹介してなかったね!私はアイリス、アリーって呼んでね!私があなたの正体がわかったのは、あなたがとても美しいからよ!」
「……美しい?僕が?」
「うん!髪色だけじゃなくお肌も雪のように白くて儚げなのに、瞳は炎のように真っ赤だもん。こんなに美しいのなら人間じゃなくて天使なんだって、私すぐにわかったわ!」
天使さんは私の言葉に驚いた顔をすると、口元を手で隠した。
やっぱり気分が悪かった?と思ったが、天使さんの耳が赤いことに気付くと、これは天使さんが照れているんだとわかる。
「……それよりお前はなんでここにいるんだ?今日は第二王子の婚約者を決める茶会が開かれてるんだろ?」
天使さんは顔を赤らませながら、まだ照れているのか私を見ずにそういった。
そしてあの男の子が王子だということは知っていたが、第二王子だということを私は初めて知る。
どうして第一王子でなく第二王子の婚約者から決めるんだろうか。
王妃様と側室の方って仲がいいんじゃないの?
そんな疑問が浮かび上がるが、深く王族に関わってはいけないという直感が働いたため、私は沸いて出てくる疑問を飲み込んだ。
「流石天使さんね。でも私個人の事情まではわからないみたいだから教えてあげる。…これは天使さんだから教えるんだから、人間には言っちゃだめよ?」
「…わかった」
天使さんがうなずくのを確認すると、私は天使さんの横に座った。
長い距離を歩いたわけではないにしても、私は疲れたのだ。
あと天使さんと物理的に近しい存在になりたいという気持ちもある。
天使さんは私の行動を咎めることなく、じっと静かに待ってくれた。
「…私ね、赤い糸が見えるの。赤い糸で繋がれた二人は運命の相手で、………殿下と私は繋がっていないんだって分かったわ」
「その赤い糸というのは将来婚姻する相手なのか?」
「ううん、私の両親も赤い糸で結ばれてないからそうとは限らない。でも世界に一人だけの運命の相手がいたら、その人と結ばれたほうがいいでしょ?だって運命なんだもの」
「だが赤い糸で繋がれた二人が必ず婚姻するわけではないんだろ?」
「そうよ。でもあの場には王子殿下の運命の相手の女性がいたの。流石に赤い糸で繋がれた二人を見たら、王子殿下の婚約者になりたいだなんて思えないわ」
それにあのまま王子殿下との仲を深め、万が一にも婚約者となった時、私は将来悪役令嬢として罰を受け、あのピンクブロンドの女性に婚約者を奪われるのだろう。
だってピンクブロンドの女性は、夢の中の女性曰く王子殿下の運命の相手。
でもそんなことは流石に相手が天使であっても口にはできなかった。
「だが婚姻すれば王太子妃に、そして王妃になれるんだぞ?」
天使さんはそう言った。
第一王子がいるのにどうして王妃になるんだろうと思いながら、なんだか人間のような考えをする天使さんだなと考える。
そして私は首を振って否定した。
「将来何があるのかなんてわからない。巡り合ってしまえば運命の相手を求めるかもしれないわ」
「…お前も、結婚するなら赤い糸で繋がった人がいいのか?」
「そりゃあそうよ」
私は迷うことなく答えた。
お母様やお父様のように仲睦まじい関係でいられるのであれば赤い糸関係なく政略結婚でも構わないが、それでも運命の相手の方が理想としている将来像には近いだろう。
とはいっても自分の赤い糸は見えないため、本当に私に運命の相手がいるのかさえも疑わしい。
だけど、夢の中の女性はこうも言っていた。
“エリたんは自分の魔力で赤い糸を可視化して”
つまり、自分の赤い糸は私には見えないのだ。
そして私が自分の赤い糸を可視化できるまで魔力量、いわゆるマナを増やせば、もしかしたら将来自分の運命の相手がわかるかもしれない。
これは凄く期待に胸がわくわくすることだが、生憎マナを使った魔法については、学園に入学するまでは親の許可を得てからでなければ行ってはいけないという決まりがある。
7歳の私は少なくともあと5年は魔法を使えないし、マナを増やすトレーニングも出来ないのだ。
ちなみに親の許可というのも、ただ単にお母様とお父様に許可をもらうということではなく、お父様やお母様が国に申請をし、許可を得るというちょっと手続きが必要な面倒くさそうな作業が必要となるのだ。
その為成長すれば自由に学ぶことができるのだからと、わざわざ国に申請するような人はいない。
私も“学園に入学してからでいいか”とマナの使用を見送っている。
え?赤い糸を見ることはマナを使用していることじゃないのかって?
それは私にはわからない。
マナを使用すればマナの残滓が残るらしいが、私が赤い糸を見ても誰にも気づかれたことはない。
だからもしかしたらマナとは関係ない能力なのかもしれないと思っている。




