よん
王宮へと辿り着いた私とお母様は綺麗なバラがたくさん咲いた庭園へと通された。
よく見ると子供でも危なくないように棘を取り除いているのか、それとも棘がない品種なのか分からないが、とても手入れされ、綺麗だった。
主催者である王妃様はまだいらっしゃらず、私はお母様とは別の席へと通される。
離れたときは不安だったが、目に見える場所にお母様もいること、そしてなにより同世代の子たちが周りにたくさんいることで不安な気持ちも寂しい気持ちも紛らわせることができた。
令嬢たちとは互いに挨拶を交わし、気兼ねなく話してもいいということで私たちは会話を楽しんだ。
テーブルの上に出されている後味がスッキリとした爽やかな味のフルーツジュースに、比較的常温でも傷まないフィナンシェやクッキーなどのお菓子の話、着ているドレスから好きな色などいろんな話を楽しんだ。
そして招待客が全て揃うと、遂に王妃様がやってきた。
だけど私は少しだけ驚いた。
現れたのは王妃様だけでなく、王子殿下も一緒だったからだ。
驚く私に夢の中の女性のセリフが蘇った。
“小説ではエリちゃんと王子との出会いは幼い頃の茶会だった”
もしかして女性はこの日の事を予見していたのではないかと。
悪役令嬢という、私と同じ名前の女性がそう呼ばれていたことも、未来を物語っていたのだとしたら、このお茶会の場にエリという女の子が呼ばれていて、本当にその子が王子の運命の相手として赤い糸で結ばれていたのなら。
私は血の気が引く思いをしながら、現れた王妃様と王子殿下に立ち上がると、カーテシーをしながら深く頭を下げた。
公爵令嬢の私は王妃様と王子殿下に近い場所にいたため、引き攣る口元を自覚しながら、王妃様に背中を押され渋々私たちが座っていた席へと“割り込んだ”王子を笑顔で迎え入れた。
正直頭は混乱している。
何も知らず、いきなり王子が現れただけだったのなら、私も他の子たちと同じように「まぁ!殿下と共に過ごすことが出来るなんてぇ!」とか言って顔を赤らませていたのだろう。
そうじゃなかったとしても、目の前のクッキーを頬張りながら、王子や令嬢たちと仲良くお茶できる機会を楽しんでいたはずだ。
だが今は夢で見た女性の言葉通り、本当にお茶会に王子が現れた。
考えなくともこのお茶会が王子殿下の婚約者を決める場として設けられたのだと、ちょっと学を修めた人間ならすぐにわかることだろう。
実際周りの子たちは王子殿下に気に入ってもらえるように、懸命に話しかけている。
……まぁ、本人は煩わしそうだが。
(というか表面上でもにこやかにしなさいよね。何を考えているのよ、この王子は)
私はそんなことを考えながらふてくされた表情をしている王子殿下の小指に視線を落とすと、その赤い糸の先を追うことに集中した。
夢の中の女性の言葉が、お茶会だけでなく、運命の相手と出会うという他の言葉も当たらないでくれと確信したいためだ。
だって悪役令嬢だなんて呼ばれる人間に私はなりたくない。
もし女性が言った通りに、王子の運命の人がこのお茶会にいないのであれば、少なくとも女性が言った“小説”とは違うのだと安心できる。
そして私と同じ名前ではあるが、悪役令嬢は私ではない、きっと何か舞台の役者のことを言っていただけなんだと、そう思いこむことができる。
皆の糸が交差しているため王子の糸は複雑で、簡単にたどり着くことは出来なかったが、私は必死に糸を注視した。
この時の私の集中力が赤い糸を見れるという謎の力を強くさせたのかはわからないが、なぜか王子殿下の糸がぽわっと光って見えるようになった。
だから途中からはわかりやすかった。
私は光る殿下の赤い糸の先を目で追った。
そして愕然とする。
ピンクブロンドの令嬢の後ろ姿が見えたからだ。
私は震えた。
もしかして、私はあの女性の言う通り、悪役令嬢となってしまうのか、と。
そもそも悪役令嬢というものを私は具体的に知らないが、よくお母様や使用人、サリーが読んでくれた本には悪役というものは悪者として描かれていることがわかっていた。
だから大きな鍋に、なんか……こう変な…とにかくよくわからない材料を入れて煮込みながら、ニヘニヘと怪しい笑みを浮かべるような悪者に、将来私はなるのだろうか。
いや、もしかすると可愛い女の子を狙ってヨダレを垂らしながら襲う魔物のような………いえ、待って、私は人間だからそれはないわね。
でも悪者になってしまう可能性はゼロではないという事実に、私はとてもショックを受けた。
王子殿下が傍にいることが嬉しい子たちの中、私はそっとその場を離れた。
王妃様に詫びを入れ、そしてお母様にも声をかける。
前日には全く起きる気配がなく眠りこけてしまったこともあり、私を気にかけついてこようとしたお母様に私は「すぐ戻ります」と告げた。
実際熱もないし、少しだけ胸がもやもやしたがそれだけだ。
お茶会の場も外ではあるが、外の空気も吸いながら綺麗なバラを見て散歩していれば気分転換にもなる。
私はそう思い、茶会の場から一人で出かけたのだった。




