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赤い糸が見える悪役令嬢らしい私は王子との婚約を破棄したい  作者: あお


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シアンとウィリアムの喧嘩シーンの為、暴力的な表現があります。苦手な方は「シアンがアイリスに告白したウィリアムに頭に血が上って暴力をふるった」とし、半分くらいまでスクロールしてください。

 ※ページを分ければよかったのですが、文字数が少なく感じてしまい。。。。申し訳ございません。




ウィリアムは尻もちをつきながら、呆然と扉を眺めていた。

陽が長い時期とはいえ、流石に十九時を回ると太陽が沈み始める。

図書館の中はオレンジ色の夕方の光と夜の闇が混ざり合い、奇妙な静けさに包まれていた。


そんな時だった。

誰もいない筈の扉に見知らぬ男性が現れた。

ウィリアムは思わず目を見張った。訪れたエミリーは走り去り、アイリスもエミリーを追ってこの場所にはいない。

物音もなく、人が突然と現れるわけがないのだ。


(誰だ?元から図書館にいたのか?)


ウィリアムはそう推測したが、すぐに違うと考える。

廊下の突き当りに位置する図書館は完全に建物自体が切り分けられていた。繋がっているのは渡り廊下だけで他の教室とは離れている。またアイリスたちよりも早くこの図書館にいたとしても、ウィリアムの目の前を通らず、気付かれないよう扉の前に立つことは出来ない。

それなのに男はいる。音もなく現れたのだ。


ウィリアムはゆっくりと立ち上がったが、視線は男に向けたまま警戒していた。

それだけ突然現れた男が怪しかったのだ。

銀色の髪は差し込む夕暮れ色に染まっていることで、ウィリアムの金髪よりは黄色みが薄いがそれでも温かみのある金髪のように輝いて見える。

だが長い前髪の隙間から、真っ赤に染まった沈みゆく太陽のように赤い瞳が、まるで獲物を捕らえた肉食動物のようにウィリアムを睨んでいた。


ウィリアムは何とも言えない迫力を感じた。その為緊張からごくりと唾を飲み込む。

だが


「……え?」


体勢を整える暇もなかった。

視界が激しく揺れる。左頬に硬い石で殴られたような衝撃が走り、ウィリアムは今度は尻ではなく背中から床へと叩きつけられた。


「がはっ……! な、なんだ……っ!?」


強烈な痛みに視界がかすんだ。

扉付近に立っていた筈の男は瞬間移動でもしたのか、倒れるウィリアムを見下ろすように立っている。

睨まれたときも感じていたが、見下ろされたことから男の顔がよく見えた。

完成された美、まさにその言葉が相応しい程の容貌だったが、それ以上に思うのは殺意がこもった鋭い眼差しだ。

ウィリアムの背筋が恐怖で凍りつく。


「……お前、誰だ……! なんでいきなり……」


ウィリアムは男から距離を取るため床を這いながら移動した。

だが返事はない。

男、シアンは無言のまま、獲物を追い詰める歩調で距離を詰める。


「く、くるな!」


パニックに陥ったウィリアムは立ち上がると、がむしゃらに拳を振り回した。

だがシアンは最小限の動きでそれを避けると、空いたウィリアムの脇腹に拳を突き立てる。


「ウッ、ぐ……あ……」


肺から全ての空気が絞り出されるようにウィリアムは息を強制的に吐き出された。

ウィリアムは崩れ落ちそうになるが、倒れることさえ許されないとばかりにシアンの手がウィリアムへと伸ばされる。

ウィリアムは髪を掴まれ、強引に顔を上げさせられた。


「待て、話を聞け! 俺は恨まれる覚えなんて——」


「黙れ」


この時初めてシアンが口を開いた。

低い声は怒りが抑えられない様子でわずかに震えている。

最悪な出会いになってしまったが、これが初めての兄弟の会話だった。


シアンは容赦なく、拳をウィリアムへと突き立てる。

ウィリアムの鼻から鈍い音が鳴った。


「やめろ……やめてくれ……!」


逃げようとするウィリアムの足を、シアンは払い退ける。

床へと組み伏せられたウィリアムにシアンは馬乗りで跨った。

冷たく見下ろしたまま、顔面に拳を叩き込んでいく。


「ウっ、あがっ……、たすけ……っ」


ウィリアムは大した抵抗も出来ず一方的に暴力を受けるだけだった。

反撃したくもシアンの重い拳を受けるたび、衝撃が走り、やっと拳を振っても全てが躱される。

何故、こんな目にあっているのか。シアンは理不尽な暴力に、身を守るために腕で顔をガードした。


そんな時だった。

次々に繰り出される攻撃が止まる。

ウィリアムはそろそろと目を開けると、男性を抱きしめたアイリスの姿が見えた。


(ああ、アイリス……君はまた危険を顧みずに俺を助けてくれたのか……)









アイリスはエミリーを追いかけた。

がむしゃらに走るエミリーを追いかけるも、なかなか距離が縮まらないことにアイリスは焦りを覚える。

アイリスは人差し指を立たせ、先端にマナを具現化させると勢いよく振り落とした。

宙に書き記したのは古代語と呼ばれるルーン文字の一つ。

意味は停滞、停止を持つ言葉だ。

焦りもあり、文字には効果を持続させる時間等の設定は盛り込むことはなかったが、目の前にエミリーがいたことで、書かれた文字は真っ直ぐ前へと放たれると、一瞬だがエミリーの動きが止まる。

アイリスはその一瞬の隙を逃がすことなくエミリーとの距離を縮めると抱き着いた。


「捕まえたわ!!!」


二人はバランスを崩し床へと倒れ込んだ。

荒い息を繰り返すが、その間もアイリスは逃がさないとばかりにエミリーを抱きしめたままである。

エミリーはアイリスの腕に手を触れると、ぼろぼろと涙を流した。


「なんで、どうして……!」


悲痛な叫びにアイリスも胸が苦しくなる。

エミリーはアイリスに暴言を吐きたくてたまらなかった。だが苦しい程の胸の痛みがそれを阻んでいた。

アイリスはぎゅっとエミリーを抱きしめた。

愛する男が他の女に愛を告げるなんて、そんな想像もできない苦しみを味わうエミリーを慰めるように、だが何を言っても言い訳にしか聞こえないだろうと判断したアイリスは、ただ言葉をかけることなく抱きしめた。


(アイリス様……)


エミリーは、アイリスは決してエミリーの気持ちに反した行為はしていないことを思い出していた。いついかなる時も、エミリーの味方だったし、ずっと応援してくれた。

授業が終わった後も学園に残っていたことは日常茶飯事。決してエミリーに隠れてウィリアムと逢瀬を楽しむわけではないことはわかっていた。

何故ならアイリスは学園から帰ると、食事を済ませ、すぐに領民の為に出来ることとして、魔法学の理解度を伝える為話している。

勉強になるからとエミリーもその場で聞いているが、平民の魔力量を考え、消費魔力を押さえた魔法の改良、とだけしか理解は出来ていない。だが、そんなとてつもないことをアイリスはやろうとしていた。

授業時間だけでは決して足りないその研究は、放課後の時間も活用しなければ進めることはできないと考えなくてもわかる。

そんなアイリスがエミリーを裏切るわけがないと、エミリーは徐々に落ち着きを取り戻していった。


ぼろぼろと大粒の涙が止まり、荒い呼吸も整ったエミリーにアイリスは話しかける。


「貴方の運命の相手は間違いなくウィリアムよ」


「ッ!」


エミリーは唇を噛みしめると眉間に皺を寄せた。


「………お言葉ですが、ウィル………王子殿下はアイリス様のことを愛していらっしゃるようです」


「そんなの恋多き若者によくみられる特徴よ」


「……それだと、殿下は浮気性ってことになりません?」


「自分の気持ちを信じられず、他人の言葉で揺れ動く、優柔不断な男って意味よ」


「どういうこと、ですか?」



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