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赤い糸が見える悪役令嬢らしい私は王子との婚約を破棄したい  作者: あお


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時を戻し、ウィリアムは婚約者としての茶会が終わると、すぐさま立ち去ろうとしたアイリスの後を追いかけるようについていった。


「……帰らないの?」


不思議そうにウィリアムを見るアイリスに、“(素直じゃないな)”と心の中で呟く。


(本当はまだ一緒に居たいはずなのに……)


そう思ったがウィリアムは声には出さなかった。

ここで声に出していればアイリスは「は?意味わからないこと言わないでよ、なんで私が」と答えていただろう。

もっとも不敬罪極まりない言葉ではあるが、それが許される間柄であるという認識だったため、本当にアイリスは言っていた筈だ。

ウィリアムが信じるかはわからないが、少なくとも声に出していれば勘違いに気付くきっかけの一つにはなったはず。

だがそんなきっかけは生まれなかった。ウィリアムが心の中で勘違いを加速させていたからだ。


アイリスは図書館に着くと魔法学に関連した本を選び、長テーブルへと運んでいった。

そして腰を下ろすと一冊の本を開く。

同じようにウィリアムも腰を下ろすと、アイリスが選んだ本へと手を伸ばし、許可もとらずに本を開いた。


「それ、私が読むんだけど」


「まだ読まないだろ。それなら少し借りてもいいじゃないか」


ウィリアムは答えながら、嬉しそうに目を細めた。


(またこの目……)


アイリスは思った。

シアンから向けられる眼差しと同じような目をしていると。

シアンはウィリアムのことを不埒な考えを持っているからだと言っていたが、アイリスにはそれがわからなかった。

何故ならウィリアムはエミリーのことが好きだからだ。交際しているし、互いに想い合っている。だからこそエミリーだって頑張っているのだ。


だがこの目を向けられると居心地が悪いような、そのような考えを抱いてしまう。

幼少期からの付き合いで、今はすっかり仲のいい男性の友人的な立ち位置であるウィリアムは、アイリスにとって気の許せる相手となっていた。

だからこそ、今のウィリアムのアイリスをみる眼差しは居心地が悪い。


アイリスは小さく息を吐き出すと席を立った。

そして選んで運んだ本を一つずつ戻していく。


「……どうした?読まないのか?」


ウィリアムは突然席を立ったアイリスに尋ねた。


「ええ。今日はもう帰ろうかと思ってね。集中できないし」


「なら一緒に食事でもどうだ?」


「そんな予定は元からないでしょ?王子なんだから予定にない行動はしちゃだめよ。それにエミリーに悪いとは思わないの?」


淡々とした口調で返すアイリスに、ウィリアムはむっと口を尖らせる。


「なんでそんなこというんだよ。アイリスだって俺といれて嬉しいだろ?」


「何を言っているの?」


アイリスは本を戻す手を止めると、体ごとウィリアムへと向ける。ウィリアムは自分に意識を向けたことが嬉しいらしく、尖らせていた唇を戻すと口角を上げた。

だがそんなウィリアムの言動にアイリスはシアンの言葉を思い出す。


“ふしだらな眼差し”


アイリスは冗談だと思っていた。

ウィリアムに限ってそんなことはないと思っていたのだ。

だが、今の言葉でその考えは覆る。


アイリスはごくりと唾を飲み込むと、テーブルに持っていた本を置いた。

そして恐る恐る尋ねたのだった。


「……あなた、エミリーの事、好きなのよね?」


だがウィリアムは眉間に皺を寄せた。予想していた言葉ではなかったのだろう。


「俺はエミリー嬢じゃなく、お前が好きなんだ!」


ウィリアムは大きな声でアイリスに告げた。

顔を赤く染め、アイリスへと近づいていく。

アイリスはそんなウィリアムから逃げるように後退するが、すぐ背後に壁があったのか、逃がさないとばかりに両手をついたウィリアムに壁へと追い詰められた。

ウィリアムの熱い視線を間近で受けながら、アイリスは慎重に答えるためにつばを飲み込む。


そんな時だった。


なにかが落ちる音が聞こえたアイリスはウィリアムから視線を外し、音が聞こえた場所へと顔を向ける。

するとそこには公爵家で教育を受けている筈のエミリーが、青ざめた表情で立っていた。


「……あ、…っ」


離れた場所からでも潤んだ瞳が揺れ動く様子がうかがえる。そんなエミリーの様子から、先程のウィリアムの発言がはっきりと聞こえたのだろうと推測したアイリスはウィリアムを突き飛ばした。

ウィリアムはアイリスがそのような行動をとるとは思っていなかったのか、油断も相まってバランスを崩し、尻もちをつく。

だがアイリスはそんなウィリアムよりもエミリーの方が大事だった。


エミリーは踵を返すと走り出した。

光る何かが宙に放り出されたことから、限界まで耐えていた涙が離れ、宙を舞ったと推測できる。高い作法を学んだエミリーでも涙を堪えることが出来ない程の悲しみを訴えていた。

そんなエミリーにアイリスはずきりと心が痛む。

だがそんなことよりはエミリーのケアの方が優先しなければならなかった。


「待って!」


アイリスはエミリーを追いかけるために走った。

淑女として優雅とは程遠い行為は、この時だけは走らざるを得なかった。

なんとしてでも誤解を解かなければ。

アイリスは“円満な婚約解消”よりも、エミリーの心に受けた傷を癒すために足を動かした。




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