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赤い糸が見える悪役令嬢らしい私は王子との婚約を破棄したい  作者: あお


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29 視点変更(ウィリアム)






時は少し遡る。


ウィリアムは令息たちに詰められていた。


王子殿下相手に令息たちの表情はいずれも硬い。かなりの覚悟を持って行動に出たことがわかる。

ウィリアムは王子として、威厳を保ちながらも何故このような行動に出たのかその理由を尋ねた。

すると


「婚約者に悪いとは思わないのですか」


そのように言われたのである。


ウィリアムは不思議そうに眉を寄せると首を傾げた。

エミリーと恋仲であるウィリアムとしては当然の反応ではあったが、事情を知らない令息たちはウィリアムの行動に怒りを覚える。

紳士として、女性でしかも婚約者を大切にしないという事自体ありえないと育てられてきたのだ。


そしてウィリアムの返答を待たずに、令息たちは言葉を投げかけた。


「エクシロン公爵令嬢は、殿下の不貞を聞きとても悲しんでいたと聞きました」

「肩を震わせ、顔は青ざめていたと……それでも涙を流した令嬢を慰めていたと聞きました」

「それなのに公爵令嬢は顔を上げ、毅然とした態度で振舞ったと……殿下は何も思わないのですか」


ウィリアムは困惑した。

それは本当にアイリスの話なのかと、いったい誰の話をしているのかと理解できなかった。


アイリスには確かについ先日叱られたばかりだった。

ウィリアムはエミリーに勉強を教えていただけでいちゃついていたわけではなかったが、それでも婚約者がいるのに他の令嬢と二人でいるべきではないと注意を受けていた。

だからこそ不満はあってもその通りにした。

アイリスの言葉は全面的に正しいとわかっているからだ。


ーだが“悲しんでいた”?

ー“肩を震わせ、青ざめていた”?

ーあのアイリスが?


一体何故?とウィリアムは首を傾げる。

幼少期からアイリスはウィリアムの恋を応援していた。それは言葉だけのものではなく、アイリスの態度からでも十分わかるほどだ。

アイリスは家族にまで事情を説明すると、本来やらなくてもいいはずのエミリーの教育を受け入れた。エミリー自身で行っているものではなかったとしても、家族への協力はアイリス自身が成し遂げたもの。

だからわかる。アイリスはウィリアムに恋はしていないのだと。

それなのに、何故。

ウィリアムは訳がわからず困惑した。


「………それはアイリスから聞いたのか?」


ウィリアムは確かめたくなった。

本当にアイリス自身がとった行動なのかと、もしかしたらアイリスは長い付き合いからウィリアムへ恋をした。だが自身の気持ちを押しのけてウィリアムの恋を応援しているのではないかと考えたのだ。

それならばなんて健気なのかとウィリアムは思った。


そして令息たちは告げる。


「僕たちは直接聞いたわけではありませんが、彼の婚約者である令嬢が実際に公爵令嬢と話し、そのように言っていたと聞いております」


この時、ウィリアムは盛大な勘違いをしたのだった。





そしてウィリアムはアイリスを見る目を変えた。

公爵令嬢として、そして将来の王妃としてアイリスは常に毅然とした態度でいるが、それが全て虚像ではないかと考え始めた。

自覚した恋心はその瞬間失恋への悲しみへと変わった。だがそれを悟られないよう、常に自身の心までも偽った。

ウィリアムはアイリスをなんて可愛らしいのだと思い始めたのだ。


アイリスは王妃の言う通り、王子の妃として最もふさわしい女性だった。

それは身分だけではなく、アイリス自身の能力や民を思う内面からもわかることだった。


(なんてことだ……!)


ウィリアムはアイリスのことを調べて初めて自分が誤解したことを知った。


初めて王都へと向かったあの日、アイリスはウィリアムに服を準備した。

当時はあまりにも悪い品質の洋服を、平民が着る服として当然のものだと告げたアイリスに失望したが、実はそうではなかったことをウィリアムは知ったのだ。

そしてまだ幼い年ごろの頃から民の為に働き、改善しようとしていたことわかるとウィリアムは自身の間抜けさを痛感した。


一度アイリスを意識し始めると、ウィリアムの気持ちに変化が現れるのは早かった。

アイリスの全てが魅力的に感じたのだ。

無理もない。アイリスほど能力があり、そして高位貴族としての余裕、民を思い行動する令嬢は他にいない。

またアイリスの容姿もウィリアムの気持ちの変化を加速させた。

釣り目がちな猫目は本来ウィリアムの好みとは違ったが、その瞳が柔らかく細められた時の表情は何とも言い難いものがあった。

そしてシアンを想っての表情ではあるが、ウィリアムはアイリスが失恋したと勘違いしていたことで、ふと見せる憂いある表情は自分へ向けられているものと勘違いし、そしてその表情から色っぽさを感じ始めた。


だがそれだけではない。

実習では常にアイリスと同じ班だった。

魔法学にも精を出していたアイリスは常に優秀な成績を収めており、ウィリアムに危険が迫ると身を挺して守っていたのだ。

そこは男女として立場が逆ではないかと思われるが、王子として守られることに慣れているウィリアムは、「怪我がなくてよかったわ」と安堵するアイリスの笑みに胸が高鳴った。


(ここまで俺は想われていたのか……!)


そしてウィリアムの勘違いは加速していった。






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