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赤い糸が見える悪役令嬢らしい私は王子との婚約を破棄したい  作者: あお


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27 視点変更有(エミリー)




アイリスは夢を見た。

久しぶりの夢だった。


最近ではあまり見ることがなくなっていた女性の夢。

夢の中の女性は相も変わらずゲーム機と呼ばれる道具で、別の世界であるアイリスたちを操作して楽しんでいた。


『そろそろ進めようかなぁ……』


女性が言った。

アイリスはいつものように女性の部屋にある本に目を通していたが、女性の言葉を聞くと本を戻し、女性へと近づいた。


(やっと物語を進行させるのね)


女性にはアイリスの姿は見えない。

だから隣に立って覗き見てもいいのだが、何故かそうはしたくなかったアイリスは女性の背後に立つと静かに見守った。


(そういえば、“他の攻略対象”は誰なのかしら)


女性のやっている赤い糸の運命という物語は、ウィリアムだけではなく他の男性も攻略対象として存在する。

アイリスがその存在を知らないのは、夢の中の女性がウィリアム推しだからに他ならない。

そしてウィリアムを選択したストーリーは壮大な物となっており、エミリーとめでたくゴールインしたとしても、後に攻めてくる近隣諸国からの対応に抗わなければ国として機能せず、亡命コースとなってしまうのだ。

その中の一つとして、アイリスの運命が決まってしまうのだが、それは最終手段。バッドエンドに近い終わり方。

つまり完全攻略、ハッピーエンドにするためには近隣諸国への対応として、他の攻略者との好感度を上げなければならないというわけだ。


アイリスは小さなテーブルの上に置かれたパッケージを目線を向ける。

中央に描かれているのは、ウィリアムとエミリーの二人。そして周りに四人の男性。そのうちの二人はアイリスの兄たちによく似ていた。


(………まさか、お兄様たちじゃないわよね)


そして進行していく物語からアイリスの不安は的中した。

もしかして、ウィリアムのようにエミリーに恋をするのではないかと、そう思うと不安でたまらなくなる。

だがウィリアムとエミリーは運命の赤い糸で繋がれている。だからこそその糸で繋がれた二人は互いに惹かれ合ったのだとアイリスも経験してわかっている。

それでも両親のように、何かのきっかけで恋を芽生えさせることがあるのではないかと、そう思った。

恋を知ったアイリスはもうシアン無しではこの先の人生を考えられない。

相手がいる人を好きになってしまったら、アイリスは兄たちを心配した。


だが進められていくストーリーを見てアイリスは胸を撫でおろした。

兄たちの役目が金銭面の援助だったからだ。


(戦争に駆り出された私を助けるために、お兄様たちは資金面で援助していたのね。お金を差し出したのも、エミリーの人柄あっての事で、心酔していたわけじゃないってこと。………よかったわ)


そしてアイリスは女性の続ける物語を見つめ続けた。







エミリーは一人教材を抱えながら廊下を歩いていた。

ウィリアムとの関りがあることを知られたエミリーは、交流があった親しい友人たちとの距離を取られていたのだ。

普通なら王子殿下との交流があると知られれば、自分もおこぼれにあやかりたいと仲良くしそうなものだが、エミリーの周りはそうではなかった。身分相応の付き合いを求めていたのだ。

勿論低位貴族の中にも野心家はいる。だが、エミリーは自分には合わないとそういう人達との交流をもってこなかったし、ウィリアムとの関係を知られた後に話しかけられても相手にしてこなかった。

結果エミリーは一人になったのだが、なにぶん学園での授業が終われば、エクシロン公爵家での教育が待っているため一人でも構わなかった。

寧ろ一人でいた方が人に合わせることもないため気楽だった。


だがそんなエミリーにとある噂が流れてくる。

相思相愛である筈のウィリアムに関する噂だった。


『やっとあるべき姿に戻りましたわね』

『ええ本当に。あんな低俗な女に優しくするだなんて……、いくら殿下が優しくともアイリス様のことを考えると私、心配でたまりませんでしたわ』

『私もよ。でもアイリス様に向けられるあの眼差し、殿下の愛しているという感情が伝わってきて、心配した分、二人を見ているだけで幸せになりますわ』

『あら、貴女も?私もなの。アイリス様も愛されているからかしら、最近とても美しくなったと思わない?』

『思うわ!元々綺麗でしたけど、愛される女性は美しくなるって本当でしたのね』


そんな会話がエミリーの耳に届く。


(……大丈夫、大丈夫よ。私とウィルは愛し合ってるもの。アイリス様も言っていたわ、円満な婚約解消の為には私の努力は欠かせないって。だから私は早くウィルの隣に立てるような立派な淑女になるよう努力しなければいけないの)


エミリーは聞こえてくる話を振り切るよう、歩行の速度を上げるとその場から立ち去った。





「礼儀作法はこのくらいで問題ないわね」


エミリーはアイリスの母親であるマリアベルからそのような言葉をもらうと嬉しそうに笑みを浮かべた。


エミリーの実家は男爵家だ。王都よりも遠く離れた場所の小さな領地を管理しており、資金面からみても公爵家とは雲泥の差がある。

その為令嬢としての受ける教育にも差が生まれた。

優秀な家庭教師を雇うほどの余裕がない男爵家では、親や年配の親族から礼儀作法を教わる。その為、少し古い作法や田舎独特の癖というものが抜けないまま、社交界に出ることとなるが、公爵家のような高位貴族では、王宮に仕えるような一級の教師を雇う。

最新の流行、ダンス、扇の使い方、また貴族の頂点でもある公爵家では「いかに威厳を保ち、場を支配するか」という統治者としての作法を学ぶのだ。

そして歩く速度、座る姿勢、表情や言葉以外にも「人を従わせる雰囲気」を仕込まれる。

そんな作法をエミリーは毎日受けてきた。

学園の授業後という短い時間ではあったものの、ウィリアムの為に、そしてウィリアムの隣に立ちたい自分の為に、エミリーは必死に努力してきたのだ。

そして及第点ではあるものの、合格点をもらえたことがエミリーは嬉しかった。


まだ知識面に関する教養は進んでいないものの、エミリーはマリアベルに一日の休息を与えられた。

教養は礼儀作法よりも難しいからだ。

低位貴族として礼儀作法についてはある程度の型は身に着けているが、教養に関してはそうではない。

低位貴族は領地経営に必要な算術や法律、読み書きや軍事面などの、生きていくための実学が中心だが、高位貴族は歴史、哲学、古典文学、詩作、楽器、多言語など、すぐには役に立たない知識を身に着けるのだ、

また他国の情勢、新しい芸術傾向などの情報、それを培う鑑定眼も必要となる。

令嬢としての礼儀作法よりも遥かに高い教養をエミリーは学ばなければならないため、マリアベルは一日だけでもリフレッシュとしての意味を込めて休息を与えた。


エミリーは与えられた時間をウィリアムとの時間を過ごそうと考えた。

一度アイリスから注意されたが、教育に関する進捗報告だといえば同席することも許されるだろうと思いついたのだ。


だからエミリーは公爵家から、まだ学園にいるであろう二人の元へと急いだ。




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