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赤い糸が見える悪役令嬢らしい私は王子との婚約を破棄したい  作者: あお


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それから日が経ち、戦闘実習に生徒たちが慣れてきたころ、先輩による引率がなくなった。

同い年とはいえ、先に学園へと入学していたシアンとは授業という機会がなければ関わることがない。その為シアンに会うことが出来なくなるとアイリスは大層落ち込みながらも、それを表に出さないように笑みを張り付けた。

そのアイリスの笑みは仲がいい友人関係であってもおいそれと見破ることが出来ない程に完成されていたが、シアンの目には不自然に映っていた。

そしてシアンは最後の授業までに、声だけではあるものの通信が出来る魔道具を完成させるとアイリスにプレゼントした。

アイリスはとても喜んだ。

これからは会うことが出来なくなると考えていた時のサプライズだったため、張り付けた笑顔は瞬時にはぎ取られ、満面の笑みを向けられたシアンは思わず抱きしめたい衝動にかられたが、グッと堪えた。

それほどの破壊力だったのだ。


アイリスはウィリアムの婚約者として勤めていた一方で、シアンとの会話を楽しんだ。

そして、ふとこんな質問をした。


「男の人って女性を見るとき、同じような目で見るものなのね」


と。

シアンは思いがけない言葉に『は?』と声色を低くする。すると怯えたようなアイリスの声に慌てて言葉を続けた。


『すまない、アリーを邪な目つきで見る野郎を想像したらつい殺意が溢れてしまった』


「えっと、そうなの、ね?……私に対してじゃないのならよかったわ」


『アリーにそんな感情を覚えるわけがないだろう』


声だけでもわかるほどに雰囲気が変わったシアンにアイリスは戸惑ったが、誤解を解き、そしてすぐさまアイリスの言葉を否定したシアンにアイリスは笑う。


「よかったわ」


『それで、どこのどいつがアリーをふしだらな眼差しで見つめているんだ?』


「ふしだらって……、でもシアンのような眼差しに似てるとは思ったわ。半分でも血が繋がっている兄弟だからかしら?」


『………それって第二王子の事いってるの?』


「そうよ」


シアンは意味が分からないと困惑した。


事の始まりはシアンが引率しなくなってからの一か月前に遡る。


ウィリアムはアイリスの言葉通り、エミリーとの逢瀬をやめた。それは婚約者がいる身としては、男性にも女性にも不適切な行為だと言われたためだ。

そしてエミリー自身、王子妃となる未来のために励んでいる。

授業についていけないというエミリーの不安な気持ちを解消すべく、ウィリアムは勉強の場を設けていたが、それはウィリアムでなくてもいいと諭されたこと、今ではアイリスの家族が総出で支えていた。

だから今ではエミリーとの交流の場は全てアイリスとの交流へと変わっていた。形だけだとしてもそれは婚約者としては当たり前のことで、幼少期だって同じように過ごしてきた。

なにも変わらない。その筈だった。


だがウィリアムの気持ちに変化があった。

美しく成長していく今のアイリスは子供らしさも残し、まるでサナギから蝶へと変わる、まだ未完成な魅力。だが、心に余裕のある者が浮かべる柔らかい微笑み、そして愛する気持ちを知ったアイリスはふとシアンを思い出すと色っぽさを醸し出す。

だがそれだけならまだよかった。まだ問題なかったのだ。


授業では婚約者同士という事で、二人は同じ班となることが多かった。

幼少期、アイリスはウィリアムに勉強を教えるほどに優秀で、それは今でも変わらない。

本来ならば劣等感を抱くことが考えられるが、完全にウィリアムに味方だという姿勢を見せてきたアイリスに対して、ウィリアムはそのような感情を抱くことはなかった。

そして優秀なアイリスは生徒にもかかわらず、他の生徒も守っていた。その中には当然同じ班であるウィリアムもいた。

吊り橋効果。

そして幼少期に芽生えかけていたウィリアムのアイリスへの小さな恋心。

例えその恋心という蕾が完全に咲く前に、エミリーへ向けられる恋心に変わってしまったとしても、芽生えていた気持ちは消え去りはしない。

ウィリアムはエミリーと会わなくなって、アイリスの魅力に抗うことが出来ず、再び恋心を芽生えさせてしまったのだ。


そんなこととは思いもよらないアイリスは、完全に誤解していた。

思うところはあったとしても、ウィリアムがアイリスへと向ける眼差しは、シアンと血の繋がりがあるからこそ、同じ目を向けるのだと考えていたのだ。


アイリスはポーンと音を鳴らす時計に目を向けると、いつの間に日付が変わっていたことのかと慌てる。

日頃から勉強熱心、そして研究熱心なアイリスに家族だけでなく使用人からも早い就寝を求められていたからこそ、アイリスはシアンとの会話が途中であっても切り上げようと腰を上げた。


「あ、もうこんな時間。明日も実習があるし切るわね。おやすみなさい」


『………え、ちょっと待ってア―』


そうして魔道具へ流すマナを止めるといとも簡単に通話が切れる。

便利ではあるものの、時に一方通行となってしまう魔道具に、慌てた様子で呼び止めようとするシアンの声は、残念ながらアイリスには届かなかった。

アイリスは小さく灯る明かりを消すと、肩にかけていた布を椅子へと掛け、ベッドへと潜り込む。


「……明日もいい日でありますように」


アイリスは小さく呟くと目を閉じ、夢の世界へと旅立った。





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