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赤い糸が見える悪役令嬢らしい私は王子との婚約を破棄したい  作者: あお


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いつものように図書室に向かおうとしていたアイリスは方向を変え、ウィリアムの元に向かっていた。

伝える言葉は決まっている。


『あなたたち何をしているの』


だ。


図書館へこもりがちなアイリスは、実家へと帰宅すると家族から報告を受ける。

母からはエミリーの礼儀作業の進捗について、兄たちからはアイリスが開発した製品による領民たちの反応についてを聞いているからこそ、現在の状況を確認出来ていた。

だが兄たちは既に学園を卒業し、通っているのはアイリスのみ。

学園内の情報は然程世に出回らないために、アイリス自身が収集しなければならなかったが、すっかり魔法学にのめり込んでいたために疎かになってしまっていた。

だからこそ、人目もはばからない程にいちゃついているのだろう二人に釘を刺さなければならない。

アイリスは背筋を伸ばし、にこやかな笑みを浮かべながら優雅な歩行でウィリアムの元へと向かった。


各クラスへと向かったアイリスは、ウィリアムとエミリーを呼び出した。

「遂に女王が動いたぞ」などと言葉が聞こえたような気がしたが、アイリスは野次馬のように向けられる視線ごとまるっと無視をした。

そして二人を引き連れ、空き教室へとやってきたアイリスは鍵を閉め、更に防音結界を張る。

学園に通い始めてたった1年しか経っていないが、魔法学に没頭していたアイリスにとっては簡単すぎる魔法だったが、エミリーにとってはそうではない。


「わぁ……凄いです」


と口にしている様子から見ても、魔法学は一般的な進み具合なのだろうことが伺える。

だがそれも仕方ないことだ。将来の王太子妃、そして王妃として魔法学よりも礼儀作業や語学や経済などの教養を先に身に着けてもらわなければならないからだ。


「さて、私が言いたいことはわかっているかしら?」


アイリスは2人に尋ねた。

にこりと笑みを浮かべてはいるものの、何故か影が差しているような笑みに二人は恐ろしいものを見ているかのように体を震わせる。

そしてウィリアムが言った。


「……な、なにかしただろうか?あ、もしかして茶会の事か?案ずるな。俺の方で問題なく行っていることを報告している」


「あら、ありがとう。とても助かるわ。……でも私は参加できていないけれど、どうやって報告しているのかしら?」


「そりゃあエミリーに代わりに参加してもらって―」


「はあ?」


「……え?」


まるで柄の悪い山賊のような声を出し、顎を上げて喉を見せてくるアイリスにウィリアムは驚いた。

「な、なにか問題でもあったか?」と恐る恐ると言った様子で問いかける。


「問題でもあったか?ですって?大ありよ!そりゃあ私が婚約者としての義務を放棄していたことが一番の元凶だけれども、どうして私を呼びに来ないでエミリーを参加させたの!?」


「な、なにをいってるんだ?俺たちは愛し合ってるんだ。お前だってそれを応援してくれてるだろう?代わりに参加させることのなにが悪いんだ」


「本気で言ってるの!?バカ!?バカなの!?あれだけ勉強させたのになにもわかってなかったの!?」


「お前から教わったのは歴史と経済学、それに算術だ!そのほかについては教わってないし成績だっていいぞ!」


「馬鹿!!!」


反論するウィリアムにアイリスは大きな声で罵倒する。


「いい?!普通の貴族同士の婚約ならまだしも、王家との婚約の期間は王家の影たちが逐一報告しているのよ!私たちが揃って、エミリーを茶会に呼ぶ、というならともかく、婚約者である私がいないのにエミリーを参加させたりなんかしたらどうなるかわかっているの!?」


「ど、どうなるんだ?」


「きっと今週末にでも呼び出しを受けちゃうわ。そして問いただされるでしょうね。エミリーのことも含め」


「だがこの一年何もなかったじゃないか!」


「あなたは様子見って言葉を知らないの?試されていたに決まっているでしょう」


アイリスの言葉にウィリアムは愕然とし、顔を青ざめさせた。

そしてエミリーもまた不安げな眼差しでウィリアムを見つめる。


「……ちなみにエミリーと茶会をしていた時、防音魔法はかけていたの?」


「ガゼボを利用する際に提供される魔道具でなら、だが」


「貴方自身で魔法は使っていないのね。まぁいいわ。ないよりはマシでしょう」


「どういうことだ?」


「影はあくまでも様子を見守るだけな筈、防音魔法の中でどのようなやり取りをされたかまでは把握していないでしょう。勿論あなたたちが乳繰り合っていなければ、十分誤魔化しようがあるってこと」


「それなら大丈夫だ!俺たちは勉強しかしていないからな!」


「勉強?」


アイリスは首を傾げた。若い男女が二人で過ごすというのだから、甘い雰囲気になっても可笑しくない。それなのに勉強をしていた、だなど随分健全な付き合いをしているのねと。

そんなアイリスの視線に込められた意味をくみ取ったのだろう、エミリーがこういった。


「あ、あの、私がお願いしたんです。授業が終わると公爵家での教育があるので、予習も復習も出来なくて、このままだと授業についていけそうにないからとウィルに……」


「そういうことね」


アイリスはエミリーの言葉に納得した。アイリスほどではないがエミリーも忙しくしていることは確かなため、学園で学ぶ時間だけでは足りない部分もあるからだ。

それならばそれを二人であっていた理由にすればいいとアイリスは考えるも、何故“婚約者ではない令嬢が王子であるウィリアムにお願いする必要があるのか”その理由が思いつかない。

エミリーのクラスはウィリアムとは離れているため、接点も少ない。それに男爵という低い身分を自覚しているのならばおいそれと王族にも話しかけるべきではない。

答えようによってはエミリーの評価を著しく下げてしまう可能性があるからこそ、アイリスは頭を悩ませた。


「………まぁいいわ。私がどうにかして誤魔化して見せるから、貴方たちは他の生徒たちに怪しまれないように行動なさい。いいわね?」


「わ、わかった」

「は、はい」


話を終えるとアイリスはエミリーだけを部屋から退室させた。

仮にも婚約者として、他の令嬢と二人っきりになる機会を与えるわけにはいかないからだ。

エミリーもそれを理解しているのだろう、名残惜しそうにウィリアムを見つめていたが、申し訳なさそうにアイリスに頭を下げて大人しく退室する。


「……全く、円満な婚約破棄には貴方たちの協力も必要なんだからね」


「わかってるよ」






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