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赤い糸が見える悪役令嬢らしい私は王子との婚約を破棄したい  作者: あお


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前の出来事を思い出したウィリアムは、採点するアイリスをじっと見つめていた。

同い年だというのに自分よりも頭がいいアイリスに勉強を教わるというのがなんとも滑稽だと感じてしまうが、それでも同じ子供だからかウィリアムが飽きないよう、そして理解できるように丁寧に教えるアイリスに、ウィリアムはアイリスに対する態度だけでなく、抱いていた感情も変えていった。

一目見て惹かれたのは柔らかい雰囲気を持つピンクブロンドのエミリー・タブリンクだというのに、今ではアイリスの方が気になっていたのだ。


宝石のようにきれいな長い赤い髪の毛が、重力によって垂れ落ちる。

採点に邪魔なのか、アイリスは白くて柔らかそうな華奢な手で落ちた髪を耳に掛けた。

たったそれだけの仕草だというのにウィリアムの心は何故かドキドキと忙しなく動き出す。


第一印象は最悪だった。

勿論自業自得だとわかっているが、ウィリアムはいったいどうすればアイリスがもっと笑顔になるのか悩んでいた。


そんなウィリアムがアイリスに対して抱く感情は誰が見ても一目瞭然なのだが、ウィリアムは自身の気持ちに気付かない。

何故自分はこうもアイリスの気持ちを気にしているのかとさえ考えていた。


「うん!いい感じよ!やればできるじゃない!」


採点が終わったアイリスは嬉しそうな笑みをウィリアムに向ける。


「お、俺だってこれくらいできる」


勉強を開始してから、つまり婚約を結んでから二年が経った。

二人は9歳になっていた。


週に一度という少ない時間だったが、ウィリアムはアイリスと勉強するようになってから家庭教師から逃げることがなくなった。

それだけでも十分な成長だが、理解できることに面白さを感じ始めたのかウィリアムは自分でも勉強するようになっていたのだ。

その為9歳になるころには才女と呼ばれるアイリスと同等の知識を持つまでになっていた。


ちなみにアイリスが何故才女と呼ばれるようになったのかというと、夢の中の女性が持っている知識である。

本でも見たこともない数式や夢の中の女性の世界の歴史、女性が専攻したのか専門的な文献、垂れ流し状態の動画からさまざまなことを学んだ。

お陰様で黒い板という魔道具なるものはテレビと呼ばれることもわかったが、アイリスの世界ではない道具のためテレビという名前を口にする機会はない。

また、なぜアイリスが自分の仮の未来ではなく、別のことに興味を抱いたかというと、夢の中の女性が“セーブ”という機能を使い何度も同じ場面を繰り返すことで、さすがに飽きたアイリスは部屋の中のものに手を伸ばした、というわけである。

そして培った知識を突発的に発言し、それを再現するアイリスのおかげで、公爵領は他の領地よりも発展していった。


ウィリアムは採点結果がいい点数だったこともそうだが、アイリスに褒められたことがなによりも嬉しかった。

だが自分の気持ちを自覚していないために、素直に喜ぶことが出来なかった。

そんなウィリアムをアイリスはくすりと笑って受け流す。


「はいはい。これからも勉強頑張ってねー」


トントンとテストに使用した用紙を纏めるアイリスは立ち上がり部屋を出ようとすると、焦ったようにウィリアムは声をかけた。


「ど、どこ行くんだ!?」


「どこって……、帰るのよ?いつも勉強を終えたら帰っているでしょう」


アイリスは不思議そうに首を傾げるが、ウィリアムは視線を彷徨わせもごもごと口を動かしていた。

小さくてよく聞こえなかったが、「まだ早い」や「そんなに帰りたいのかよ」といった言葉が聞こえてきたために、きっと寂しいのだろうと察したアイリスはくすくすと笑って立ち上がったばかりの腰を下ろした。


「殿下の先生の一人として、私は鼻が高いです」


「な、なんだよ急に…」


「だってもう私から教えることがなくなるほどに、学んでくださいましたから」


アイリスはそういってクッキーに手を伸ばした。

保冷効果をかけた飲み物と茶菓子が用意されていたが、アイリスはウィリアムの邪魔をしないようウィリアムが勉強をする間はお菓子を食べることを我慢していた。


サクサクとクッキーを食していたアイリスは、何の反応も見せないウィリアムに視線を向ける。

鼻を高くして喜んでいると思われたのだが、予想に反してウィリアムは無言だったからだ。


「殿下?何故そのような顔をしているの?」


アイリスはウィリアムをみるなり驚いた。

そして不思議そうに首を傾げる。

アイリスに褒められ喜ぶかと思われたウィリアムは、驚愕と悲しみが混ざったような、そんな表情を浮かべていたからだ。


「だ、だって……勉強が終わったらお前、こなくなるんじゃないか?」


ウィリアムは言いづらそうにしながらも口にした。

恥ずかしいのか、話した後は俯くがすぐにアイリスの言葉に顔をあげる。


「これからも来るわよ」


「え…」


「だって王妃様に週一の登城を決められちゃったもの」


あっけらかんと告げるアイリスにウィリアムは嬉しそうに表情を明るくさせるが、すぐに我に返り表情を引き締めた。

流石に二年の付き合いになってくると、ウィリアムは素直じゃないと把握されているのか、そのような反応をするウィリアムに対してアイリスは無反応だ。

ただ“あ、喜んでる。”と思うだけで、クッキーに伸ばす手は止まらない。


(…婚約者の私とは一応対等かもしれないけど、それでもちゃんとした意味で対等な相手が殿下にはいないからね。淋しく思う気持ちも喜ぶ気持ちもわかるわ。……まぁ私には家族がいるし、サリーだっているから殿下と会わなくても寂しくないけど)


アイリスがそう思いながら同情の眼差しをウィリアムに向けていることを知らないウィリアムは、コホンと咳払いをしてアイリスに目を向ける。


「じゃ、じゃあこれからは勉強の時間を少なくするってことだな?」


「そうね」


「なら……普通の婚約者のように、茶を飲んだり、散歩をしたり、………そんなことをするのか?」



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