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赤い糸が見える悪役令嬢らしい私は王子との婚約を破棄したい  作者: あお


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■■■




ウィリアムのアイリスに対する誤解が解けた後、アイリスは笑顔を浮かべ告げた。


「では早速婚約解消しましょうか」


と。


するとウィリアムは焦ったように首を振り、アイリスの言葉を否定した。

運命の相手に惹かれているからアイリスを拒否していたのではないか。そんな男が何故婚約解消を提案しているのに拒否するのかと、アイリスが白い眼を向けるとウィリアムはこういった。


「実は母上からお前との婚約は解消できないと伝えられていたんだ……。家柄だけでなく教養まで身についていた女はお前だけだと、彼女は社交界のトップとして君臨し、いずれ王妃として国を導く王位の隣に相応しい令嬢だといわれていたんだ……」


ごにょごにょと告げるウィリアムにアイリスは、まるで叱りつけられた犬のように耳が垂れ下げている幻覚が見えてしまった気がしたが、アイリスは幻像を振り払うよう頭を振り、大げさな程に息を吐き出した。


「なのに、私にあんな態度をとった、と?」


「すまない……、親に我儘を言い、我を押し通すような女なんて少し悪態を付けばすぐに泣いて尻尾巻いて逃げると思ったんだ……」


「なんですかそれ……」


アイリスは呆れながら言うと、痛む頭を押さえた。

心配なのか不安なのか、眉尻を下げて様子を窺うウィリアムの視線を感じたアイリスはわざと視線を合わせなかった。


(大体、王家に逆らえる貴族なんているわけないでしょう……、発言権を持っているお父様のような人ならまだしも、まだまだ子供の私が……)


勿論子供だから言えることもある。

だがアイリスは『王子と婚約なんてしたくないいいい!やだやだやだやだあああ!!』なんて言葉は流石に言ってはいけない言葉だということはわかっていた。

それはアイリスだけではなく、アイリスよりも小さな子供だってわかるはずの言葉だと思っている。

何故なら明らかに不敬罪が適用されてしまう言葉だからだ。


(まぁ“王妃”という立場を本来の意味で理解していないから、殆どが嬉しそうにするでしょうね。もっとも、私の場合は“赤い糸で王子と結ばれた女の子の存在”を知っているし、なにより王子と婚約してしまえば“悪役令嬢”になってしまう可能性もしっているから“嫌”だと思ったわけだけど)


七歳のアイリスは教養は学んでいても王妃のするべきことなんて正確に把握していない為、王妃に対する魅力よりも第二王子と婚約して悪役令嬢になりたくないことだけを考えていた。


(まぁ、その悪役令嬢も私が意地悪しなければ大丈夫ってわかったから、肩の荷は軽くなったけど)


だが不安要素はいまだに残っていた。

第二王子であるウィリアムとエリたんことエミリーが繋がれた赤い糸の存在だ。

このままアイリスとウィリアムが婚約を続けてしまえば、少ない可能性ではあっても悪役令嬢となってしまう道も残されているのかもしれない。

いっそのこと糸が見えなければ何も感じることはないのだが、アイリスは既に知ってしまっているため、逆に見えなくなってしまえば余計に気になってしまうだろう。

ちなみにアイリスはエミリーのことを調べたわけではない。

では何故というと、夢の中の女性が持つゲーム機から情報を得たからだ。


「…怒って……いるよな…」


窺うように尋ねられたアイリスは思考を止めてウィリアムへと視線を向ける。


「怒っていました。でも誤解も解け、謝ってもいただけたので、もう怒ってはいませんよ」


苦笑気味に笑ってそういえばウィリアムは表情を明るくし、嬉しそうに目を輝かせた。

やはり犬のような幻覚がウィリアムの顔に被さるように浮かんだが、きっと気のせいだろうとアイリスは思う。


アイリスは今まで立ちながらウィリアムの傍にいたが、ウィリアムの向かい側に設置されているソファへと向かうと腰を下ろした。

そして背筋を伸ばしウィリアムと顔を合わせる。


「ではこれからのことをお話ししましょうか」


「これからのこと?」


アイリスの言葉にウィリアムは首を傾げた。

純粋に不思議なのだろう。

婚約解消は出来ない。

何故ならアイリス側のエクシロン公爵家は問題なくとも、ウィリアム側の王妃殿下が意を唱えるからだ。


アイリスはウィリアムの言葉を聞いて思った。

“私が優秀だから王妃に相応しいと思えたのなら、エリたんも優秀にしてしまえばいいのよ”と。

ちなみにアイリスがエミリーをエリたん呼びなのは、夢の女性の影響が強いためだった。

実際にあった時、エリたんと呼ばないよう気を引き締めなければと思いながら、アイリスは不思議そうに首を傾げるウィリアムに頷き、答える。


「ええ。ウィリアム殿下には既に思い人がいる。だからこそ選ばれたのが私で不服だった」


「な、ななななな!!!」


顔を真っ赤にしながら驚くウィリアムに、アイリスはなんてわかりやすいのだと真顔で思う。

そして、“あれ、王族って感情を読み取られないように幼い頃から叩き込まれるんじゃなかったっけ?”という知識が頭をよぎった。

それがアイリスが受ける令嬢教育からか、夢の中で見た情報なのか、すぐに答えを導き出すことは出来なかったが、後になって”現実世界の話だったわね”と思い出す。


とはいえ今はウィリアムのことだ。

「なんでそれ知ってるんだよ!?」と茹蛸のように真っ赤に染まったウィリアムは立ち上がるとアイリスに向かって吠えた。

キャンキャンとうるさい子犬のようだが、睨まれたり怒鳴られたり、不愉快に感じる感情をぶつけられるよりは断然可愛い反応だと、アイリスは自然と口角をあげる。


「貴族にとって政略結婚は普通のことです。それは王族にも当てはまること。それなのに殿下は激しい感情を私にぶつけてきた。これで察することが出来なかったら、それこそ“なんでだよ”案件ですよ」


「うっ!」


「それにあの時殿下はずっと同じ方向に顔を向けていましたね。途中で退室した私はこれ以上はわかりませんが、きっと視線の先に気になる令嬢がいたと考えていますが、私の推測は合っていますか?」


「な、あ、!」


「どうやら当たっているようですね。さぁさぁ、殿下の意中の女性が王妃殿下に認められるよう計画を立てますよ」


「~~っ!」


アイリスはウィリアムの反応をみると楽し気に笑った。

くすくすと笑い、思い出したかのように髪留めに手を伸ばすとそっと触れる。


アイリスが触れたのは髪留めに紛れ込ませていた隠しカメラだ。

本来ならばウィリアムの暴力的な姿を捕らえ、後々の証拠として保管するためとして備えていたものだったが、ウィリアムのアイリスに対する態度が改善されたことで不要だと考え録画を止める。

「どうした?」と尋ねるウィリアムに、アイリスは首を振った。

アイリスの表情には柔らかい笑みが浮かんでいた。





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