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赤い糸が見える悪役令嬢らしい私は王子との婚約を破棄したい  作者: あお


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10/36

じゅう





そして一月が経つ頃、私は再び夢をみることができた。


夢の中の女性はやはり私に気づくことはなく、楽しげに小さな魔道具を手に持ちポチポチとボタンを押しながら操作をしていた。

ちなみにこの魔道具の名前はどうやらゲームキというものらしい。

『あれ、ゲーム機どこだっけ?』と魔導具を探す女性の言葉から知ることができた。


私はゲームキの画面を覗き込む。

前回と違って歌や動画はなく、歌詞のないメロディーが流れながら人物の静止画と何語かわからない言葉が並んでいた。

見たことも聞いたこともない言葉だが、夢の中だからか自然と言葉が分かった。


『…それにしても本当にアイリスはムカつくわね。子供の頃からエリたんに殺意向けてるじゃない。ありえないわ』


突然女性が不機嫌そうにそういった。

確かに画面上では惹かれ合う王子とエリちゃんを睨みつけるように見ているアイリスが描かれている。

でもちゃんと見てほしい。

それは“私”だけではなく、周りの令嬢たちも同じように怪訝な表情を浮かべている。

何故なら場は学園。

しかも王子の婚約者は既に私と決められており、例え赤い糸で結ばれているからといって、2人だけの雰囲気を作り出すべきではない。

不誠実すぎる行動を取っているのは王子とエリちゃんなのだ。


(それにしても本当にこうなるのかしら…)


女性の持つゲームキの中の第二の世界と私が過ごす現実世界では明らかに違うことはわかる。

それでも進められていくと、私の現実世界と同様にアイリスと王子が婚約したこと、そして王子に疎まれているという事実は一緒なのだ。

ならばもしかして、この先を女性が進めていくと未来がわかるのではないかと、私は考えてしまう。

ゴクリと唾を飲み込み、私はより一層画面を注視した。







「……悪役令嬢ってそういうことね……」


私は目を覚ますと思わずつぶやいてしまった。

そしてタイミングよく開けられた扉に私は口を閉じる。

聞かれているわけでもないのに、焦ったような気持ちになるのは、人には言えないことだと思っているからだ。


(赤い糸みたいにね)


夢の話は、もしかしたら赤い糸の話よりは信じてもらえる可能性の方が高いが、それでもやっぱり“夢なんだから”という一言で片づけられてしまう可能性が高い。

それに現実世界に似ていたとしても全てが同じことではないのは身をもって知っている。

何故なら私自身がゲームキに映し出されているアイリスと違うのだから。


「お嬢様!おはようございます!」


私が起きていることに気付いたサリーは嬉しそうに近づく。

手に持っている顔を洗うための水を零さないよう運んだサリーは、ベッドのサイドに乗せるとカーテンを開けた。

明るい太陽の日差しが差し込むと、私はまぶしさで目を細める。


「最近お嬢様は起きるのが早いですが、今日は一段と早いですね!」


「夢見が悪かったの」


「夢?悪い夢でも見たのですか?」


そう尋ねるサリーに私は「わからないわ」と答えるとサリーは何でもなさそうに笑って「夢は忘れやすいですからね」と答える。

確かに夢は忘れやすい。

私もあの女性の夢以外は起きたらよく「なんだっけ?」と思えてしまうくらい簡単に忘れてしまうから。


「それより今日は王宮に向かう日です!気合を入れていきましょう!」


張り切るサリーに私は苦笑しながら顔を洗うとベッドから降り立ち上がった。

引き出しの中にしまい込んでいた一通の手紙と、お母様に買ってもらったカメラを取り出すと、後ろから覗き込んだサリーが不思議そうに首を傾げる。


「なんですか?それ」


「これは私の身を守るための魔道具よ」


「身を守る?王宮にいって、婚約者に会うだけなのに?」


「そう。婚約者に会いにいくから必要なの」


サリーはよくわからないと更に首を傾げた。

疑問符が頭の上に浮かんでいるのが見えるような、そんな様子に私はくすりと笑う。


だがサリーの反応も当然だ。

実は私はサリーに一か月前にあった第二王子との茶会のことは話していない。

そもそもサリーは平民生まれで、王族は尊い存在だという意識が強いのだ。

でもそういう意識がなければ誰が税を納めるために働くのか。

ある種洗脳のようだが、それでも近年は優秀で民に寄り添う心を持った人が王位に着いていたことが多かったため、暴動もなくうまくいっていると歴史で習ったことを思い出す。

それならば猶更王族に対して非難するような考えはないだろう。いや、非難してはいけないとすら思っていそうだ。

つまり私が第二王子の悪口を言ったところで、実際の状況を知らないサリーはいくら私付きの侍女見習いだとしても「お嬢様……そういうこと言っちゃだめですよ?」とめっと注意されてしまうだけだろう。

だから私は今の状態でサリーに話すことはない。


「…あとで教えてあげるね」


「っ!はい!」


私はお母様に買って貰った魔法具を握りしめるとサリーに言った。

サリーは嬉しそうに笑みを浮かべる。

王族への夢を壊してしまいかねないが、私は私の味方を作るために必死なだけだ。

サリーは私の侍女になる人だし、早々に味方でいてもらいたい。

なにより早く安全な場所で愚痴を言いたい。

あの王子の婚約者なんてホント嫌だ。


「そのお手紙はなんですか?家門の印章が押されているようですが…」


「これはお父様から第二王子への手紙よ。私が書いてってお願いした物なの」


「お嬢様が?」


なにやらキラキラとした瞳で私と手紙を往復するサリーに、私は口元を引きつらせる。

なにをどう勘違いしているのかわからないが、きっとサリー自身が恋人と幸せだから、私のこともいい方向に考えてしまうのだろう。

二人をくっつけた身では大変誇らしい事であるが、絶対に勘違いしてほしくない私は念を押す様に告げた。


「……言っておくけど、目を輝かせるような内容じゃないからね?」


「わかってますって!」


「ううん、その反応!その表情!絶対わかってないわ!」


「さーて!着替えましたら朝食に向かいましょうね!」


「もう!!」


明らかに楽しそうに話題を変えたサリーに私は唇を尖らせながら手を差し出した。

パパッと着替えさせていくサリーに身を任せながら"(あの王子の本性をとっとと話してしまいたい!!)"と私は心の中で叫んだ。



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