第九章 同盟(四)
若苗が整然と並ぶ田面はまるで鏡のように、晴れ渡る大空を映していた。
正面で玉砂利が鳴る。
イサセリは儀礼に意識を戻した。
イサセリたちは、ウラの邸を見下ろす北山の頂に立っていた。
山の嶺を削って築いたという巨大な円形の祭祀場だ。
祭祀場の北側には、人の背をはるかに越える六つの巨石が並んでいる。
楯だ、とウラは言った。
北からの敵を塞ぐ楯だと。
巨石を並べよと命じた先代ウラは、イサセリたちの足元で眠っているという。
その話を聞いた時、あまりの新鮮さにイサセリは唸った。
これほど巨大な墓を作ろうという発想も、その上に祭祀場を設えようという発想も、ヤマトにはないものだったからだ。
しかし、ネホコ曰く、漢より昔の大陸の国や遥か西方の国では、これよりも巨大な墓を築いた王がいたという。
どの王も最後には同じものを欲するのだろうか。
イサセリは、興味深そうにウラの話を聞いていたモモソヒメの顔を思い出し、そのうちヤマトにも巨大な墓が築かれることを確信した。
「なあ」
耳元でタケルの声がした。
「いつになったら終わるんだ」
彼の横腹をトメタマが突く。
「静かにしてよ。あ、ほら、睨まれた」
「トメタマがうるさいんだろ」
小競り合いをする二人を見てウメが笑う。
その傍らに――ワカタケがいた。
あの後、一命を取り留めたワカタケは剣を振るうまでに回復していた。
数ヶ月が経った今でもイサセリは、快活な弟を見て不思議な気持ちになることがある。
そのたびに現か確かめようと彼の肩に手を伸ばしては、気味が悪いと振り払われた。
強い風が吹き抜け、布のはためく音が響いた。
祭祀場の中央近くに立てられた木柱には、三つの旗がくくられていた。
ヤマト・キビ・イズモの文様を刻んだ旗だった。
風に導かれた三つの旗は、寄り添うように、ゆるやかに重なった。
儀礼は終盤に差し掛かっていた。
ヤマト族のモモソヒメ、キビ族のウラ、イズモ族のカラヒサ――三人は北面し、一列に並び立った。
彼らの前には、人の腰ほどの高さがある丹塗りの円筒土器が二つ。
華麗な装飾が施された土器の上には、丸みを帯びた壺が載っていた。
儀礼を司る巫女アズキが、二つの円筒土器の間へ進み出た。
三人の祝が、モモソヒメたちから見て左の壺を手に取り、アズキの元へ運ぶ。
アズキは壺に手を入れた。
モモソヒメたちに向かって中身を撒く。
宙を舞ったのは、米粒だった。
三度同じ動作を繰り返すと、祝たちは壺を元の場所に戻した。
次いで右の壺が持ち上げられると、液体の跳ねる音が響いた。
別の祝が、アズキに木製の大きな匙を、モモソヒメたちに手のひらほどの酒杯を恭しく配った。
アズキは壺に匙を入れ、まずモモソヒメの杯へ、次にウラの杯へ、最後にカラヒサの杯へ、白濁した酒を注いでいった。
三人は高らかに酒杯を掲げた。
日差しに照らされた酒は、清らかな輝きを帯びていた。
「新たな連合国家に!」
モモソヒメの力強い宣言が、祭祀場に響き渡った。
ウラとカラヒサも唱和した。
三人は同時に杯を呷った。
空になった三つの杯が、アズキの手の上で重なった。
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