22 ドラゴン3
学園の敷地で現れたドラゴンは先生だった。
先生のドラゴンは、もう一頭現れたドラゴンとともに飛び去って、
ヒナタはそれを追いかけて行ってしまった。
ゲームに出てきたドラゴンは、あんな見た目じゃなかったと思う。
黄土色のような薄い色で、ゴツゴツしてて、
空を飛びそうな気配はなかった気がする。
こういう時に頼りになりそうなヒナタがいなくなって、一人きりで残されてしまった。
いや、でも、ゲームをやり込んでたとはいえ、私の記憶違いということもあるし、
何か設定が変わっている可能性だってあると思う。
私は無理矢理、自分で自分を納得させようとした。
さっき飛んで行ったのがイベントの地竜でありますように。
乙女ゲームの中でヒロインを庇って記憶を失ってしまうというエド王子のイベント。
でも彼はここにはいないのだ。
王都中心部で足止めされているはず。
ヒロインは不在。
私は悪役令嬢だ。
その時また、地面が揺れ始めた。
私は校舎に近い場所に立っていたせいか、
建物の外壁のようなものがパラパラと上から落ちてきた。
レベッカは、高いレベルのおかげか、比較的頑丈な身体を持っているのだけど、
落下物が当たった場合に痛みがないわけではない。
怪我をしないということもない。
建物が崩れたら生き埋めになるかも…という心配もある。
私は校舎からもっと離れることにした。
さっきドラゴンの這い出てきた穴の近くまで移動した。
土の匂いがする。
土砂や岩などが散乱し、普段の学園の風景から様変わりしてしまった。
地面にぽっかり空いた穴。
見える範囲で覗いてみたけど、深くて底の方までは見えなかった。
その時、念話がかかった。
エド王子だった。
ヒナタからは、極力エド王子からの念話に出ないように言われている。
私は嘘が得意ではなく、いざ話をしたとすれば、いろいろドラゴンの関係のことを聞き出されてしまい、
エド王子が学園に来てしまうことになりそうだからだ。
そういえばさっきも念話がかかってきたけれど、出なかった。
私はまた念話を無視した。
またかかってきた。
また無視しつつ、考える。
ドラゴンが這い出てきた穴。
近くにいたら危ないよね。
別の場所に逃げた方がいいんじゃないだろうか。
さっきのドラゴンが地竜ではなく、別の場所に地竜がいるとすれば。
私も避難したいところだ。
でも、さっき学園から離れないようにヒナタに言われたよね。
また念話がかかる。
また無視して私は女子寮を目指す。
女子寮は敷地の西の端にある。
C棟は他の建物より特に頑丈に作られていると聞いていたし、
学園から離れない方がいいのなら、
あそこに篭っている方が安全だと思ったのだ。
ドラゴンの出てきた穴から西の方角へと向かって歩いた。
また念話がかかる。
一度だけ出てみようかな。
何でもないかもしれないし。
でも…何でもなかったらこんなに何回もかかってくるだろうか?
急に不安になってしまった。
「はい」
『そっちに向かうな。そっちは危険だ』
「えっ…」
『戻れ、危険だ』
でも、戻ったらドラゴンの出てきた穴の方へ戻ってしまう。
そっちの方が危険だと思うけど。
「でも…」
『いいから言うことを聞け!』
すごい剣幕だ。
「………」
どうしよう。エド王子は気配を察することができるようだし、
本当に危険なの?
考えていると地面が揺れ始める。
向かおうとしていた先の地面が盛り上がり、波打つようにうねった。
「きゃっ…!」
宙に浮くブーツだったけれど、それでも衝撃を受けた。
辛うじて立ってはいられるぐらいだった。
逃げなければ!
そう思った時は遅かった。
再び下から突き上げるような衝撃があった。
それと同時に、何かにギュッと包み込まれるような感覚と。
……一瞬のことで何が起こったのかわからなかった。
不意に転んだ時のような感覚だった。
地面が勝手に近づいてきて、土の上に転がる。
もっと痛いはずなのに、そんなに痛くなかった。
「風子、無事か?」
「…エド…さま…?」
私は、ぐしゃぐしゃに隆起した地面の上に、
エド王子に抱きしめられる形で倒れていた。
「よかっ…た……逃げろ」
微かに笑ったような、でも苦痛に歪んだ顔が目に入ると同時に、
キツく抱きしめられていた彼の腕が緩む。
その時、彼の肩越しに見えたのは、
金色の瞳を持つドラゴン…地竜だったのだ。




