23 脱出(エド王子視点)
王城の塔に幽閉されていた俺は、
ベンジャミンに、この塔から出してくれるよう頼んでいた。
この数日、王都北部から感じる異様な気配。
あれは学園の辺りから感じる。
王族として、強くなった者として、ここは表に出るべき場面だと思う。
たとえ親に止められたとしても。
考えていたベンジャミンが口を開いた。
「王族としての考え方。それは立派だと思う。私も賛成よ。
協力しないこともないけど、エド様を外に出してしまった場合、
私は仕事をクビになるぐらいじゃ済まないのよ」
脱走させた俺に何かあった場合は、ベンジャミンが罪に問われることになる。
母上のお気に入りだというベンジャミンだが、
そういう後盾は確実に失うことになるのだろう。
「じゃあ、お前に行く場所がなくなっていたら、
俺がお前を引き立ててやる。約束する」
俺は、ベンジャミンの後ろ盾となることを約束した。
それだけじゃ足りないからと、いくつか条件も付けられた。
必ず戻ってくること。
1人で行動しないこと。
ガイアを連れて行くようにと言われた。
ガイアには特殊な能力があるらしい。
独特な気配があったのはそのせいなのか。
ベンジャミンに、塔の警備の魔法を緩めてもらい、
自力で脱出したように見せかけることにした。
ベンジャミンを突破して逃げたことにするのだ。
まずドアの鍵を、周囲に防音の結界を張り音が漏れないようにしてから爆破。
その後はベンジャミンを手加減して殴り、縄で縛る。
「エド様…もっとキツく縛られても平気よ?」
寒気がした。
いくら美形な男でも、縛って、結果興奮されてもゾッとするだけだ。
でも、出られるだけでありがたい。
気を取り直して、
「済まないな」
声をかけると、
「どうぞご無事で」
そう返事が返ってきた。
仕上げに猿ぐつわを噛ませる。
微妙にうっとりしている気配が感じられ、またゾッとしてしまった。
でも気にしたら負けだ。
こいつのためにも、無事で戻って来ないとな。
学園の辺りには、相当強い魔物がいるのだろう。
塔から降りていき、見張りの兵士数人を眠らせると同時に記憶を消した。
どうやら、見張りの兵士はいつもより少ないようだ。
移動しながら風魔法で人の声を拾った。
『ドラゴン』という言葉が聞き取れる。
竜か。
王都にドラゴンが出るとは。
2年前の記憶が蘇る。
王都に向かっていたドラゴン。
あの時レベッカに、コリンを引き止めるように言われたな。
今思えば、あれがヒナタだったんだよな。
レベッカはあの時からドラゴンを倒せるほどの力があった。
今はコリンも俺も、そのレベルに近づきつつある。
行けば何か役に立てるだろう。
でも、その俺を塔に閉じ込めるとは一体どういうことなのか。
どういう状況なのか。
念話が使える範囲に移動して、ヒナタと風子に念話をかけてみたが、
着信拒否されてしまった。
忙しいのか、話したくないのか。
話せない状況にあるのか?
俺は苛立った。
城の塀を目立たない場所から越えられる穴場へ向かっていると、
アイリスとばったり出会った。
「お兄様」
「ああ、なんだ…これは王族として必要なことでだな…」
「やっぱり行ってしまうんですね。
せめてこれを着けていってください」
黄色い宝石のついたペンダントだった。
なんでも鑑定する習慣があるから聞かなくてもわかった。
即死回避のような効果がかかっている。
「ああ…」
受け取ると首から下げた。
「途中でアルバートさんと合流してください。必ず」
「わかった」
アイリスの真剣な顔を見ていたら、危険な何かがあるんだなと思った。
そうして城の外で、ベンジャミンから呼ばれていたガイアと、
念話でアルバートとも待ち合わせて合流することができた。
馬車で学園に近づけるだけ近くに行って、途中からは歩いた。
「エド様!あれは何でしょう?」
ガイアが叫ぶ。
学園から大きな黒い影が二体飛び去るのが遠目に見えた。
「ドラゴンか?」
「もう学園に危ないものはないのでは?」
ガイアは楽観的だ。
アルバートはさっきから
「地竜と戦うな」の一点張りだったが。
考え込んでいる感じだ。
学園にあるいくつかの門の周りには、騎士が立って見張っていた。
俺たちは学園の北東の人がいない部分から塀を乗り越え、敷地に侵入した。
その時、レベッカに似た気配がした。
微かだが。
地下から感じる。
「お前らは、そこにある入り口から地下に潜れ。
瀕死の状態で倒れているやつがいる。
アルはガイアを援護しろ。
俺はやらなければいけないことがある」
「え?エド様?」
戸惑ったようなガイアの声が聞こえた。
俺は本能的に、自分が向かうべき所はここではないとわかっていた。
何故だかはわからない。
風子から、ここがゲームの世界だと聞いたが、
そのルールに沿った流れのように、自然と別の方向に足が向かっていったのだ。




