20 ドラゴン
学園の、校舎が建ち並ぶ北側で待っていた私の前に、ヒナタがやってきた。
「ごめんね、呼び戻しちゃって」
「正門から来たら、めちゃくちゃ目立ったよ」
私は思い出して、両手で顔を覆う。
うわあああーっ、思いっきり目立ってしまった!!
目立つのが嫌いなのに。
「ああ、ごめんね」
ヒナタが近づいてきて、ヨシヨシと頭を撫でてくれた。
「レベッカの姿を見せることで安心感を与えられるかなと。
ドラゴンはこっちでなんとかするから大丈夫だよ」
是非そうしてほしい。
「ルークさんとレベッカで対処するって聞いたよ。
あっ、そういえば!
ジョン先生そっくりな、先生のお兄さんだっていう人に会ったの。
先生が学園の中にいるとも言ってた」
「ああ、その人はジョン先生の旦那さんだね。
ジョン先生は実はジュリアっていう名前で、
普段は旦那さんの見た目を借りているんだよ」
「えーっ!」
ヒナタが詳しく知りすぎててびっくりだ。
ジョン先生はジョン先生の旦那さんの姿。
先生の旦那さんはさっき、私に兄と名乗った。
その意味は……夫ですと名乗れば、
自動的に先生が実は女性だということがわかってしまうから、らしい。
私が、先生が女性だと知っているか不明なわけで。
普段は兄と名乗るように…という取り決めをしているそうだ。
「風子大丈夫?
ところで、ルークのことなんだけど」
「そういえば、どこにいるの?」
「わからない。
でも、このドラゴン騒ぎには恐らく兄さんが関わってるから、
できたら身内として責任を取りたいんだ」
「責任?どういう意味?」
「2年前のドラゴンの騒動の時、兄はドラゴンの卵を持ち去っていた。
あの時、怒った親のドラゴンが王都を目指して暴れた」
「そうだったの?」
「うん。その時の卵が、恐らく今回の……」
それで、身内で何とかしようと?
「でも、卵から育ててきたなんて、
そのドラゴンは彼にとって家族みたいなものなんじゃ…」
「どうかな〜。
実はドラゴンのことについてはあまり聞いたことがないんだ。
俺は育てることに反対だったから。
兄さんとはここ数日連絡が取れていなくて。
その前までは連絡が取れていたのに…」
苛立ったように言った。
「ドラゴンはずっと学園の地下にいたってこと?」
「うーん、正直詳しいことはわからない。
ただ、ドラゴンは兄さんに懐いてるってことと、王都近くで育ててるとは聞いてたけど。
こんな騒動を起こすとは思えなかった」
そういえば、前に、エド王子が『ヒナタは動物を隷属させる術がある』とかなんとか言ってた。
そういう術がルークさんにもあるのかもしれない。
「ヒナタもドラゴンを手懐けられるの?
私と入れ替わる必要があって呼んだの?」
「レベッカの時だったら余裕なんだけど……」
ヒナタはボソリと言った。
「いや、でも、今は入れ替わるつもりはない」
んん?
ヒナタはなにを考えているんだろう。
何かを決意したように真剣な表情を見せた。
《ゴゴゴゴゴゴ》
地面が揺れた。
私はあのブーツを履いているのでダメージはなかった。
「ふ…風子?…何それー。ズルいよ。ノーダメージ?」
意外にも、ヒナタは浮遊するブーツまでは入手していなかったようだ。
「風魔法がかかってるみたいだよ」
「なるほど……でももう話してる時間はなさそうだ」
校舎と反対側の、北側の地面が揺れ、割れた。
花壇があった場所の土が盛り上がって、植えられていた植物がバラバラと土と一緒に落下していく。
「……ええっ……あっ……」
びっくりしすぎて、言葉にならなかった。
揺れが収まった後に、
ドラゴンが地面から這い出てきて、私たちの方を見下ろしていた。
長い首に恐竜のような恐ろしい顔。
紫色の大きな目。
赤茶色の巨大な身体。
爬虫類を思わせるような質感。
薄く開いた口元から鋭い牙が覗いている。
がっしりとした前足からも鋭い爪が生えている。
攻撃されたらひとたまりもないだろう。
その背後から大きな2枚の翼が現れ、強い風を起こした。
ひんやりとした湿った土の匂いがした。
ヒナタが私の上腕を抱き寄せるように後ろから支えてくれた。
そうだ、ヒナタがいたら大丈夫…なのかな?
コリンになったヒナタも、ドラゴンを倒せるほど強いのだろうか。
頭の片隅でぼんやり思った。
……これがドラゴン。
前世での伝説上の生き物に、遭遇してしまった。
私は、ただただ、足が竦んで動けなかった。




