6 婚活(ルーナ視点)
私には結婚願望がなかった。
もともとが黒髪で、片目が黒くもう片方が紫色の瞳を持つ私は、
この世界で異端者だった。
母親も、弟妹たちも黒髪や黒い瞳だったけれど。
異母兄弟や世間からは冷たい目で見られて育ってきた。
世間の目はなかなか厳しい。
少数派の私たちに対しての差別を意識しない日はなかった。
でも、それがなかったとしても、
いい年をした女が独り身でいるということは、いろいろと噂されるものである。
こんな世の中で、結婚せず生きられるものならそうしたいと思ってきた。
妹のレベッカを近いところで見てきて、
彼女が貴族令嬢としては破天荒な人生を歩むのを見ていると、
自分にもそういう生き方ができるんじゃないかと思えてきた。
彼女は、女でも強くなれるということを証明してきたし、
私のレベルも、身体を交換しつつ、ある程度上げてくれた。
私は適齢期を過ぎ、宮廷魔術師としての仕事は順調だったけれど、
これで良かったのだろうかという思いも少しはあった。
しかし、縁談を持ちかけられても、
すでに悪条件の話ばかり。
地方の貧乏貴族の後妻だったり。
禿げて太った中年男性だったり。
そういうお相手が圧倒的多数だった。
闇属性魔法と、適齢期を過ぎていることが大きく影響しているのだ。
足元を見られている。
結婚できたらそれでいい…なんて思えない。
女だからという理由で、ただでさえ虐げられがちな環境なのに、
自分が損をしたりだとか、精神的苦痛を受ける相手と添い遂げることを要求される。
そういう世の中ってどうなのだろう。
……それに、私は自分の子孫を残したいと思っていない。
黒髪、黒瞳だと苦労するだろう。
そういう子供が生まれたなら、子供にも不憫な思いをさせるだろうから。
幸い、お父様は理不尽な要求はしてこなかった。
お母様は、時々ヒステリックになった。
そうして、悪条件の相手のプロフィールを集めて突きつけてくる。
お母様は、レベッカやルークには何も言わない。
あの2人は強大な魔力を持ち、物騒な術を使うのだ。
昔、別荘の一部分が消し飛んだ事がある。
それからはあの2人のことを恐れているようで、あまり深入りしなくなった。
王都の本邸はその時期から、レベッカとルークが主に使っている。
…彼らは留守にしてることも多いのだけれど。
そんな頃。
第2王子のエドモント殿下が、
弟のガイアの護衛としてうちの屋敷に出入りするようになった。
意外なことに、ガイアが懐くようになった。
私は…初めは彼が偽名を使っていたので、表向き見て見ぬ振りをしたが、
すぐに第2王子だと気がついた。
ガイアは気づかなかった。
ガイアが、彼を王子だと知るのは、王太子殿下の結婚があったからだ。
公式行事で、王太子殿下の弟である彼をどうしても目にすることになる。
ガイアも驚いていたが、「お兄ちゃん」から「エド様」と呼び方を変えただけで、
彼らの関係は変わらなかった。
あれは結婚パーティーが終わって10日ほど経ってからだっただろうか。
最初に彼が接触してきたのは。
レベッカに合わないように協力して欲しいという謎の要望を出された。
正確には、レベッカの姿の風子さんに合わないように、ということだった。
レベッカは婚約者のコリン(風子)と常に入れ替わっている状態なのだ。
彼らが時々彼女を『風子』と呼んでいて、その理由はよくわからないけど。
彼女が、気持ちの上で女の子なのだということは、雰囲気から察した。
私が持つ特有の魔術を欲して、レベッカ (風子)が来るだろうが、
相手にしないで欲しいとのことだった。
レベッカに関することだという触れ込みにしては、
王子はだんだんと私個人に接近してきた。
噂で知ったところでは、彼の女性関係は派手で有名だったとか。
何人もの女性と噂があったそうだ。
嫌だなと思った。
それまではガイアとの交流が多かった彼と、
私も近い関係になっていった。
お茶を飲んだり、話をしたり、
外国の公務に出る彼の護衛について行ったりするうちに、
彼の気遣いや、優しさなどに次第に好感を持つようになった。
自分にはない破天荒な感じにも惹かれてしまった。
薄々感じてはいたが、レベッカに気があるのだ。エド王子は。
だから、深い関係になることは徹底的に避けた。
一度、私のメガネを外されてしまったことがある。
黒い瞳の色を変えるメガネだ。
瞳の色が左右で違うなんて、兄弟の中で自分だけ。
親類にいないわけではないけれど。
小さい頃は、黒い瞳の方をずっと眼帯で隠していたぐらいだ。
でも、メガネで瞳の色を誤魔化せるようになってからは、ずっとメガネだった。
両目とも紫色の瞳でいられる。
気持ち的にもずっと楽になった。
でも、エド王子にその秘密を知られてしまった。
私のメガネを取った彼は驚いていた。
綺麗な彼の目が見開かれ、いつも別の人に見られると嫌悪されるのに、
彼は宝物を見つけたかのようにその目を煌めかせたのだった。
それから何回も接触しているうちに、迫られ、
とうとう唇を奪われてしまった。
キス自体は…軽いものなら過去に何度もレベッカとしたことがある。
身体を入れ替えるためだ。
実験のために他の兄弟とも試したりしていた。
だから平気だと思っていたのに。
男性…しかも、意識している相手にされるのは全く意味合いが違っていた。
ドキドキして、最初は怖かったけれど。
求められていると思うと、気分が高揚するというか。
その一時、心が満たされるようだった。
初めての感覚だった。
もっと触れていて欲しいと思ってしまった。
だけど、彼は自分のことを本気ではないのだろうと思うと、苦しくなった。
キス以上の関係を求められそうなのも怖くて、
なるべく2人きりになってはいけないと、強く思った。
ガイアは私の味方ではなく、エド王子の指示で動く。
私と彼が2人きりになるときは
ガイアが協力してそういった状況になることが多かった。
ーーーーでも、そんな日々も終わりを迎える。
また彼との距離が離れてしまった。
レベッカと入れ替わっていた風子さんが記憶を取り戻したと、レベッカ本人から聞いた。
年末の魔法学園のパーティーの日のことだったらしい。
エド王子は風子さんの元に戻っていったのだ。
私のことは、本気ではなかったのだろう。
私はその頃から、母の勧めてくるお見合いに、時々出かけるようになった。
エド王子のことは忘れなければいけない。
それに…彼はもともと女性関係が派手だったらしいし、
自分とは合わないんじゃないかと思うところもある。
気持ちに区切りをつけたかった。




