4 ブーツ
新学期。
私は相変わらず、真面目に授業に出ていた。
卒業がかかっている。
卒業できないと悪役令嬢になるのかもしれないのだ。
エド王子とは、また恋人同士の雰囲気に戻りつつある。
時々念話がかかってくる。
やはり以前と変わらず、わたしたちは人前で仲良くすることはできないのだ。
そんな中、呼び出されたので行ってみた。
今は使われていない教室に案内された。
ダンスの練習などに使われる部屋だ。
片隅にソファーとテーブルのセットが置かれていた。
授業をサボる時なんかには良さそうな部屋だなぁと思ってしまった。
そこで、この前エド王子が履いていて気になっていたブーツをプレゼントしてくれた。
この前も、風魔法で浮いていたらしい。
「ありがとうございます。
でもこんな高そうなもの、貰ってしまっていいんですか?」
「ああ。そんな高くもないぞ。いくつかあるし」
いや、たぶん高いと思う。
たぶんだけど。
王族の金銭感覚なのだろう。
「それはそうと、これって何のために浮くことができるんですか?」
「さあ。もともとは、変化のときの服のサイズ変化を解決したくてな。
そういうのに詳しい奴と知り合えて、
このブーツは面白そうだったから、いくつか譲ってもらったんだ。
足音がしないし、足跡がつかなかったりするぞ」
浮くことはおまけで、サイズの変化の方を気にしたチョイスらしい。
私もブーツを履いてみることになった。
履く前は、フリーサイズのためか大きめ。
履いてみると不思議な感覚で、少しだけ魔力が吸い取られる感じ。
足のサイズに合わせて縮んで足にフィットした。
床から自動で数センチ足が浮いている。
「おおーっ」
私は座っていたソファーから立ち上がってみた。
コツがいるのか、よろけてしまった。
エド王子が支えてくれた。
ドキドキしてしまった。
「あっ、ありがとうございます…」
顔が熱くなる。
「これはコツを掴むまで時間がかかるんだ」
自転車に乗るようなものかもしれない。
立ってみるとフワフワ感は少なくなり、滑るような感じだった。
バランス感覚が必要らしい。
しばらく練習することになった。
距離が近くて意識してしまう。
私の中で、まだ彼は乙女ゲームの攻略対象者だった。
顔を見ると眩しいので、直視しないようにしていたぐらいだ。
彼は、もうすでにそんな私の態度を見透かしていたのだろうけれど、
しばらく練習に付き合ってくれた。
2人きりで会うということに緊張していたけど、大丈夫みたいだ。
ちょっとだけ慣れたところで、そろそろ帰りたいと思い、
ソファーに戻ろうとすると腕を取られた。
よろけて抱きつく格好になってしまった。
「すっ、すみません!……エド様?」
彼は離れようとしてもがく私を離そうとはしなかった。
私の顎を持ち上げ、至近距離で顔を覗き込んできた。
いつもの彼らしくない。
どうしちゃったんだろうと思った。
凄まじい色気が感じられた。
「あ、あの……離してください」
彼は片手で、ふらつく私を支えながら、
顎を持ち上げていたもう片方の手は離してくれたけれど、
その手で私のメガネを外した。
私は焦った。
内心焦っていると、顔が近づいてくる。
私は横を向いた。
彼は構わずに私の頰に口づけてきた。
言葉を発しない彼は、私の顔をそっと彼の方に向けさせる。
唇が一瞬触れる。
私の様子を見ながら……
なにも言わないのは、雰囲気を作っているのだろうか?
私が『エドモント王子』に惹かれていることさえ、利用しているのかもしれず。
でも、それに乗ってみようと思ってしまうほどの破壊力が、彼にはあった。
気がつけば、ソファーに押し倒されてしまった。
何度も繰り返されるキスに身動きできないでいると、
服の上から体のラインに沿うように手で触れられ、私は身をよじった。
しばらくそんな状態だったけれど、
服を乱されて、服の裾から手を入れられ肌に直接触れられる。
ひえーっ……。
ここで、ようやく言えた。
「あのっ。エド様……。
この身体はレベッカのものなので、これ以上はだめです」
「……コリンの身体ならいいのか?」
そう言われる。
「え…ええっと…それはまぁ……」
いいのだろうか?
いつも雰囲気に流されそうになってしまっているけれど。
「いつコリンと入れ替わるんだ?」
「卒業するとき…ですかね?」
「お前、早くコリンと入れ替わってこいよ」
そんな無茶な!
最初にレベッカになってから、コリンに戻った時は、
レベッカと入れ替わってこいと言われたのに。
人というのは言う事が変わるものだ。
エド王子はやっぱり、乙女ゲームの中の王子様ではないのだ。
こういうところは元彼だなぁと思ってしまった。
そうだ。私は男に戻るつもりだとヒナタに言った。
なのに、エド王子とイチャつくなんて……。
『エドモント王子』を籠絡するというより、
いつのまにか私の方が彼に籠絡されてしまっている!
いけない、いけない。
「で、いつ入れ替わるんだ?」
「コリンと入れ替われるかどうかは、ヒナタ次第です」
困った私はそう言うしかなかった。
実際、ヒナタが入れ替わるのを嫌がるだろう。
入れ替わる必要がなければ、しばらくこのままのはずだ。
卒業時に入れ替わることになっていて、ちょうど良かったのかもしれない。
エド王子からもヒナタからも逃げ切れるだろう。
結局、私はブーツから元の靴に履き替えると、
逃げるように女子寮に戻っていったのだった。




