3 エドモント王子
次の日。
エド王子にサロンに呼び出された。
そういえば伯爵邸で休んでいる間は、エド王子のことは全然見かけなかった。
2人で会うのは久しぶりで緊張する。
私は、乙女ゲームを思い出したこともあり、緊張していた。
あのエド王子か…。
攻略対象者の彼。キラキラした第2王子。
それを言うなら、この前記憶を取り戻してから、クロウにもはじめは緊張した。
彼はゲームに出ていた隠しキャラだった。
黒髪の眼鏡キャラの最強の色気を持つ、イケメン使用人。
……でも。
現実となると、ドSキャラは違う…って思った。
見ているだけなら……ゲーム上だけなら惹かれる。
でも現実となると、いじめられるの好きじゃない。
私はMっ気のある女じゃない。
気弱そうに見えるとそういう扱いをされがちというか。
誤解を受けることも多かった。
前世でも今世でも。
それも込みでいろいろ思い出してきたら、
乙女ゲームの記憶が戻る前の自分に、いつのまにか戻っていた。
クロウは単純に憧れなだけで、私にとっての恋愛対象じゃない。
そう思えたことで、普通に振る舞えるようになっていたし、
それも理由の1つとして考えつつ、正式に告白をお断りしようと思ったんだけど、
うまく伝えられなかった。
ゲームの中のエドモント王子は好きなキャラクターだった。
明るく快活な人物で。
よく言えば分かりやすいキャラクター。
最初にこの世界で前世を思い出した時は忘れてしまっていた。
エド王子には、絡まれたり、男同士の友人になったり、いろいろあったよね。
元彼ですか?と適当に言ったら当たってて。
レベッカと入れ替わったら婚約を迫られて。
ヒナタとギクシャクした間にダンスのパートナーになり、恋人状態になって。
ゲーム上ではもちろんそんなことは起こらない。
キラキラした王子なのだ。
(腹黒い部分も持ち合わせているけれど)
ゲームの進め方としては、
最初のうちは、好きなキャラの好みに合わせて自分のレベルを上げて、
数ヶ月後から、休日の外出などに誘う。
好きなキャラ以外も平均的に誘わないと誘われなかったキャラの機嫌を損ねる。
そうすると好きなキャラの好感度が下がって攻略が難しくなるので、
好きなキャラの好感度を上げつつ外出に積極的に誘うと同時に、
他の人もたまに平均的に誘うようにするのだ。
相手の好感度が上がってくると外出に誘われることもある。
そのキャラとのエンディングを迎えることが決まっていると、
それを証明するようにイベントがいくつか起きる。
そのシーンのスチル…画像…を集めることも、ゲームの楽しみの1つだった。
卒業のパーティーで、ダンスに誘われればその相手とのエンディングだ。
「待たせたな」
エド王子が現れた。
私はソファーから立ち上がって頭を下げた。
彼が近づいてきて隣に座ろうとするので、
「あのっ、あちらに座ってください」
と、正面のソファーを勧めたのだけど。
彼は隣に座って、私も腕を引っ張られて座らされた。
「どうしたんだ?様子がおかしいぞ?」
おでこに手を当てられた。
私の顔は赤くなっていると思う。
王子だ。この人は王子だ。
そう思うと挙動不審になってしまった。
距離が近いせいでいい匂いがする。
ゲームではありえない状況だ。
エド王子は手を離した。
でも距離は近い。
どうしよう、意識して見るともの凄い美形だ。
今まで全然意識してこなかったのに。
「お前は記憶を取り戻してどうなんだ?
最近落ち着いてるのか?
昨日も気になって寮に尋ねて行ったんだぞ」
彼は私の思いに気づくこともなく、普通に喋りかけてきた。
頼むからあまり喋らないで!って思ってしまった。
会話の内容がゲームと違う。違いすぎる。
私は思い切って言った。
「少し黙っていてください。
そして、しばらくこのまま見ていてもいいですか?」
「は?」
エド王子は呆気に取られていた。
私の目はハートになっていただろう。
ーーーーーーーーーー
「乙女ゲーム?この世界が?」
エド王子は言った。
「はい」
「…乙女ゲーム……って、なんだ?」
ええー?そこから〜?……って思ったけれど。
そう、エド王子の前世の貴くんはゲームにあまり興味がなかったらしい。
男の子向けならまだしも、乙女ゲームなんて存在すら知らなかっただろう。
彼はもともと体を動かすことが好きで、スポーツ観戦が趣味だった。
私とは真逆の人。
そのせいもあるだろうか。
付き合っている時期にギクシャクすることも多かったのだ。
まず、私は一生懸命、エド王子に乙女ゲームを説明した。
「ふーん。
要するに、少女マンガ的な話をベースにしてて、
自分が選んだ選択肢によって結末が変わる……ってことか」
少女マンガなのかなぁ?
乙女ゲームの種類によっても違ってくるとは思うけど。
まぁいいか。なんとなくわかってくれたようだ。
「なるほど、どうりで女にモテるわけだな…」
彼はブツブツ言いながら何やら納得していた。
そして私の肩を抱いて見つめてきた。
キラキラしている。
見とれていると、顔が近づいてくる。
「エド様、乙女の夢を壊さないでください!」
押し留めながら言った。
「キ…キスは最後です。
卒業するときに告白されて、オーケーしてからなんですっ!」
「そんなこと言っても、もうしただろう?何回も」
そうだった!
でも改めて言葉で言われると、顔から火が出そうだ。
「それに、お前こそ、乙女ゲームの参加者としては俺を落とすべきだろ。
もっと頑張って俺を籠絡しろよ」
頭にチョップされた。
王子らしくない行為だ。意外とキュンとくる。
そういえば、私はこの世界でエド王子を落とそうとしたことがなかった。
もともとは彼の方から寄ってきたんだ、何もしていないのに。
「あっ。そういえば私、ヒロインじゃなかった。
悪役令嬢だった!」
「悪役令嬢?」
ここでまた悪役令嬢の説明をした。
ゲーム内での当て馬的存在だ。
ヒロインの引き立て役。
ヒロインはどこかに行ってしまったけど…。
このまま学園にいると、2作目ヒロインのエミリーが入学してしまうのだ。
でもよくよく考えてみれば、私は悪役令嬢でもなかった。
それはヒナタだった。
コリンとして生まれた自分は攻略対象者だった。
いろいろ聞いているうちにエド王子が焦れてきた。
「面倒くせーな。どうでもいいからお前は俺に惚れてればいいんだよ」
ヒナタと入れ替わってレベッカになってるうちは悪役令嬢なのだろうか。
悪役令嬢は王子とデキているものなのだろうか?
混乱してきた。
抱きしめられて頭をわしゃわしゃされてしまった。
抵抗すればするほど寄ってきてしまうので、
今後はあまり刺激しないようにしてみよう。
絶対ゲームに出てくるエド王子と違うと思ったけれど、
一緒にいて心地いいと思ってしまったのだった。




