1 婚約解消希望
私は、レベッカとの婚約解消に再び失敗してしまった。
以前にも考えたことはあった。
家同士の問題で、解消しては困るということ。
あとは、ヒナタの気持ちの問題もあるようだ。
学園に戻る日。
私は自室に置かれていた自分の荷物をチェックした。
クロウが持っていて私にはめさせた、レベッカに変身する指輪が出てきた。
返さないといけない。
私はコリンの姿で学園に行き、
目立たない場所で変化の指輪でレベッカに変化し、
女子寮のレベッカの部屋を訪ねた。
ヒナタには連絡してある。
彼は部屋に入ってきた私を見るなり
「じゃあ入れ替わろうか」
にこやかにそう言ってきた。
「ちょっと待って。その前に話がある」
私はレベッカの変化を解いた。
入れ替わってしまえば、ヒナタはすぐに出かけてしまうだろう。
そういう人なのだ。
「何?早くして。早く早く」
入れ替わってすぐにでも出かけたいみたい。
「婚約を解消したい。
コリンとして人生を生きていきたい」
「えー、またその話?」
ヒナタは面倒くさそうに顔を顰める。
あんな顔をしても美少女だからかわいいなと思ってしまった。
前世では普通のメガネ男子なサラリーマンだったのに。
そのギャップに何故かキュンときそうになる。
「風子は女として生きて行った方がいいんじゃないの?
もともとそれで悩んでいたんだったよね?
入れ替わった方が都合がいいんじゃない?」
「そうだったんだけど、
時間が経つうちにいろいろ何だか違う感じがしてきたんだよ。
私の選択の自由がないというか……」
「今さらそれを言うかなぁ。何が不満なの?」
「入れ替わってそのままレベッカの人生が手に入って、
その後の恋愛も結婚も自分で選べるなら良かったんだけど…。
自分の納得のいく形ではもうそれが叶わなくなっているから」
エド王子のことが大きい。
彼は前世ではいろいろありつつも、ちゃんと好きな人だったと思う。
好きだった人が王子になって現れて。
しかも前世の嫌だったところは改善されていて、自分を好きでいてくれて。
どれだけ恵まれてるんだ、パーフェクトじゃない?
彼がルーナさんに心変わりしたり、女の子が好きそうな疑惑はある。
それでもかなり理想に近い男性と言える。
でも目の前に差し出されたその最上を、手に入れることはできない。
私は本来男性。どうせ恋愛対象にもなり得なかった関係。
この世界では、レベッカにさえならなければ
エド王子から恋愛対象と思われることもなかっただろう。
ニワトリが先か卵が先か…という言葉が浮かんでくるわけだけれど。
女性として生きるにはヒナタとの入れ替わりが必須。
でも入れ替わったらエド王子の関心まで引いてしまった。
入れ替わっていなければエド王子と恋愛関係になることはなかった。
なんて状況だろう。
手に入らないものを目の前に差し出されることほど残酷なこともない。
前世でも、いつでもそうだった気がする。
自分が望むものは手に入らない。
自分が思っていた人生と違う。
なりたい自分になれなかった。
被害妄想?
そうかもしれない。
前世のお姉ちゃんが易々と手に入れている(ようにみえる)ものが、
自分には全然手に入らない。
むしろ時には、近しい人に妨害されたり、捻じ曲げられたりもする。
大人しいからという理由で。
だったらせめて足掻いてみよう。
「私はレベッカになったとしても、納得した形で誰かを選びたい。
ヒナタにもそうして欲しいと思ってる」
ヒナタは驚いたような顔をした。
「俺がコリンとして他の人を選ぶという可能性もありってこと?」
「うん。そうなるね…」
本当は嫌だけど。
コリンと他の女の子が付き合うなんて抵抗あるけど。
こういう迷いが良くないのだろうか。
考え至ってモヤモヤしていると、ヒナタが覗き込んできた。
「本当に手のかかる人だね」
呆れたように呟いた。
そして口付けてきた。
「…ちょっと!…」
「言いたいことは理解したから。いいでしょ?」
「ダメだよ!」
美少女レベッカに迫られる、気弱なコリンの図。
私は抵抗した。
いつもいつも流されてばかりではだめだ。
「……わかった。
じゃあ、卒業する時に一旦身体を返すよ。
それまではお互いに考える時間にしよう。
今は婚約も解消しない。
とりあえず、そういう感じでいい?」
「うん。わかった…」
結局、私達はまた入れ替わった。
「エド王子に処女を奪われないでよ?」
そう言って、レベッカとなった私の胸元を指差した。
服の上から触ってみる。
「これ…ペンダント…?」
私はブラウスのボタンを外し、ペンダントを取り出した。
緑の石がついた、あの即死回避のペンダントだった。
石はひび割れていない。
たぶんヒナタが持っていた方だ。
「気をつけるね」
荷物を交換して、クロウが持っていた変化の指輪も返した。
どうやら、この指輪がなくなっていたことに気づいていなかったようだ。
持ってる指輪が多すぎるんだと思う…おっちょこちょいだなぁ。
ヒナタはそろそろ部屋を出て行こうという雰囲気だった。
1つ気になってたことが浮かんできた。
「そういえば、ヒナタは前世では全然私と結婚する気がなさそうだったのにね。
この世界ではなんかやたらと婚約とか結婚とか持ち出すよね?」
一瞬の間を置いて、
「まっ…まあまあ!それはいいでしょ。
えっと、ほら、こういう世界だし……」
ヒナタは焦った様子だった。
「風子だって、結婚する気がないなら俺と別れるとか言ってたじゃん」
拗ねている。
「そんなこと言ったっけ?
……えっ?言ったの?私…。
ああ、でも言いそうな気がする」
「ちょっと、風子の記憶ってどこまでなの?
俺と結婚してたところまでじゃないの?」
そういえば、どこまでだったっけ?
その時、ドアを開けようとガチャガチャした後に、ノックする音が聞こえた。
「はい」
私はドアを開けた。
そこには、青い目のレベッカが立っていたのだった。




