君と一緒にいる為に
「マーリーン……」
くしゃりと、マーリーンの顔が、置いてかれて泣いている子どものように歪んだ。
「だから、レイ……あの時、私に話かけなければ良かっただなんて、絶対に言わないで……私と出会わなければ良かったなんて、例えそれが私の為だとしても、けして思わないでよ……!! ……レイ、お願いだから、私から、離れていかないで……!!」
マーリーン。君を傷つける原因になった私だけど、君はこれからも私が、傍にいることを許してくれるのか。
このまま私が親友として隣にいても、いいのか。
尋ねようと思ったことは、嗚咽に変わり言葉にならなかった。
何も伝えられないままに、ただ目の前の親友の体をかき抱いた。
マーリーンの体は確かに熱を持って、鼓動していて……生きていた。
当たり前だったそのことが、今の私にはどうしようもない奇跡のように思えた。
一番大切な友人が、生きていてくれる。生きて、これからも私の傍にいたいと言ってくれる。
彼女を傷つける原因になった私を、それでも大好きだと言ってくれる。
それは彼女を失うかもしれなかった私には、奇跡以外の何ものでもなかった。
「……マーリーン……君は、滅茶苦茶だよ。……私に自分を犠牲にしてまで、守って欲しくないと言いながら、自分は私の為に自分を犠牲にするだなんて……私がそんなこと望んでいなかったことだって分かっている癖に」
「……そうよ。私は滅茶苦茶で、自分勝手なのよ。あんたの気持ちなんて、知らないわ。私はただ、いつだって私がしたいようにするだけ。私が一番後悔しない道を選ぶだけだわ……これからだってあんたが私の為に傷つこうとしたら、その度私は心から怒るし、あんたが傷つくくらいなら何度だって、自分の身を犠牲にするわ」
「ひどい……ひどいよ。マーリーン……その上で、私が君を傷つけない為に離れて行くことすら、許さないのだろう……?」
「……当たり前でしょう。最初に手を差し伸べたのはあんたなのだから、一人でいさせてくれなかったのは、あんたなんだから、今更放り出すなんて許さないわ。責任は取ってもらうわよ」
「マーリーン……本当に君は、滅茶苦茶で自分勝手だ」
滅茶苦茶で自分勝手で……何て、愛おしいのだろう。
その赤い髪に鼻先を埋めるように、一層強くその体を抱きしめた。
「……大好きだ……私も君のことが大好きだよ、マーリーン……これからもずっと、私は君に親友として、隣にいて欲しい」
――だからこそ、このままじゃ駄目なんだ。
このままだと、私はきっと、いつかマーリーンを失ってしまうから。
「マーリーン……君が私が怪我を負った時に怒った気持ちが、私は身に染みて分かったよ。……だから私は、これからもう二度と、自分の身を犠牲にしてでも、君を守ろうとなんてしないよ」
「……それでいいのよ。馬鹿レイ」
「っだから! だからこそ、マーリーン、君にもそうして欲しいんだ……!」
マーリーンの言葉を遮って、私は訴える。
「一番、後悔しない道は、自分が犠牲になってでも大切な友人が無事なようにすることじゃないよ……全てが終わった後に、お互いが無事な状態で笑っていられるようにすることなんだ」
『だから、何でそこでお前は二者択一になるんだ? 何故、自分の犠牲を再前提に置こうとする? 本当、お前は学習しないな!!』
アルファンスの叱咤の声が、脳裏に蘇る。
『自分の身を犠牲にして、相手を助けることを真っ先に考えるのは、美談なんかじゃなくただの思考放棄だ。賢い人間は、まず真っ先に自分の安全を確保したうえで、相手も助ける道を考えるんだ。まずお前は頭を使え! 話はそこからだ。元々地頭はある筈なのだから』
アルファンス。君は正しいよ。
私に……マーリーンに、足りなかったのは――何があっても二人共無事な状態で、問題を解決するという強い意志だ。
「マーリーン……今度、君の身に何か困難が降りかかった時は、ちゃんと全てを打ち明けたうえで、私に頼って欲しい。君は私を巻き込むことを恐れるかもしれないけど、もう二度と私は、君が私を頼って来たことで傷ついたりなんかしないと誓うよ。二人で話し合って、二人共安全に助かる道を、一緒に考えよう? これからも二人で一緒にいる道を、二人で見つけよう?」
「………」
「そう約束してくれないなら……私は君が、どれほど今更と罵っても、君から離れることにする」
「……っ」
動揺とショックを隠せないでいるマーリーンに、にっこりと微笑みかけた。
「二つに一つだよ。約束するか、ここでお別れにするか。……マーリーン選んでよ」
マーリーン。君は滅茶苦茶で自分勝手だ。
……だからこそ、私も滅茶苦茶で自分勝手になることにするよ。
「……私のことひどいっていうけれど、あんただって十分ひどいじゃないのよ。そんなことを、言うだなんて。いつもの偽善王子はどこに行ったのよ」
「そうだね。酷いね。……だけど、どんな酷い人間になっても、理想の王子様像を捨ててでも、守りたいものがあるって気付いたから」
「大体約束なんて……したところで、破らないとは限らないでしょう!! あんただって、絶対に呪いに関して手を出さないっていう約束を破ったじゃないの!!」
「そうだね……だけど、私はともかく、私の大切な親友はけして約束を違えない人だって私は知ってるよ。出来ない約束は、最初からしない娘だから」
不安はなかった。
だってマーリーンの答えは一つしかないことを、私は知っていたから。
「――……約束、するわ」




