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理想の王子様なんていなかったので、自分で目指すことにしました。  作者: 空飛ぶひよこ
第三章 はりぼての理想

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間違いなく正しいと言えること

 ……ほら、ね。


「……というか、それ以外私が答えられる筈がないでしょ!! ついさっき、離れて行かないでって言ったばかりなのに!! こんな一択しかない質問、ずるいわ!!」


 目尻に涙を溜めたまま、赤い瞳で睨み付けて来るマーリーンに思わず笑みが漏れる。


「……何よ。そのしてやったりって言う顔……レイの癖に生意気なのよ!!」


「痛い、痛い、痛い。分かったから、あんまり叩かないでよ。マーリーンだって、まだ完治しているわけじゃないんだから、動いたらあんまり良くないよ」


 ぽかぽかとお腹の辺りを叩いてくるマーリーンの手を(本当はそこまで痛くないんだけど、そう言わないとエスカレートするのが分かっているから)、手首を掴んで止めさせた。


「……ねえ、マーリーン。私ね、君と友達になった日に言った言葉を、今思い出したよ」


 マーリーンの攻撃が止んだのを確かめてから掴んでいた手首を離すと、指先でそっと、マーリーンの目尻の涙を拭いとる。

 あの日と同じように。


「『私は君を全ての傷から守ることは出来ないけど、君の傷の一端を背負うことくらいは出来る。……君が泣くのは止められなくても、こうやって、泣いている君の涙を拭うことくらいは出来るから』……あの頃の私は確かにそう言っていたのに、いつから私は全ての傷から君を守れると勘違いしていたんだろうね」


 傲慢にも、程がある。

 一人の人間を全ての傷から守ることが出来る程、私は強くはないのに。

 一体、いつからだろう。

 マーリーンが大切になればなるほど、けしてなくせない存在になればなるほど、そう言った当たり前だったことが頭から抜けて行っていた気がする。


「守るとは、もう言わない。……守っても、欲しくない。ただ、対等な立場で一緒にいたい。避けられる傷があるときは、二人で乗り越える方法を考えよう。どうしても君が一人で負わないといけない傷がある時は、傍でその涙を拭わせて」


 いつだって私は、自分の行動が正しいのか迷ってばかりで。


 その場の感情に振り回されて、意見がころころ二転三転する。


 だけど、今。はっきり分かった。


 私がしてきたことで、間違いなく正しいと言えること。


「だから、もう一人で傷ついたりしないで。君の苦しさを、私に分けて。これからもずっと私に君の傍にいさせて。……どうかずっと私の友達でいて下さい」


『だから、一人でいさせてなんて言わないで。君の淋しさを、私に分けて。私に君の傍にいさせて。……どうか私の友達になって下さい』


 あの時マーリーンにそう懇願したことは、けして間違いではなかった。


 マーリーンといたから、私の世界は広がった。

 マーリーンといたから、私は知らなかったものを知ることが出来た。

 マーリーンが、全部教えてくれたんだ。


 マーリーンが、友達になってくれたから。


「……当たり前でしょ。馬鹿レイ」


 こつりと額を合せながら、マーリーンが唇を尖らせる。


「言ったでしょう?……一人を望んでいた私の世界に、無理矢理入り込んで来たのはあんたよ。責任は取って貰うわ」


 一瞬の沈黙の後、二人で顔を合せて笑った。

 胸の奥に、温かいものが広がってくるのが分かった。




 そのまま二人で、戻って来たネルラ先生に「夜も遅いからいい加減寝なさい」と怒られるまで、ひたすら喋っていた。

 マーリーンと別れた後も、胸の奥は温かいままで、何だかぽかぽかした気分だった。


 ……もし、カーミラにもこんな風に、対等な立場で笑い合える相手がいれば、あんな事件は起こさなかったのかな。


 一瞬脳裏に過ぎったそんな疑問は、そっと飲み込んでなかったことにした。




 翌日。

 カーミラ・イーリスという少女は、ひっそりと学園から消えた。

 精霊から存在自体を消されたアーシュの時と違い、残された生徒の中からカーミラの記憶が消されることはなかった。

 それにも関わらず、学園の生徒達は皆、さもそれが昨日と何一つ変わっていないかのように、普段通りの生活を続け出した。

 カーミラの喪失を惜しむ人も、悲しむ人も、「家の事情で学園を去ることになった」という簡素な説明を疑問に思う人すらいないままに。

 その事実が、どうしようもないまでのカーミラの孤独を示しているようで、ちくりと胸が痛んだ。




「――言っておくが、お前が罪悪感を抱く必要なんて、全くないのだからな」


「え?」


 マーリーンのベッドを移した後の書庫を、荒らしてしまったお詫びを兼ねて二人で片づけていると、不意にアルファンスがそんなことを言い出した。


「罪悪感って……ああ、【姿消しの首飾り】のことかい?」


 一つで城が二、三買えるという国宝級の魔具は、残念ながら私の分しか返却は出来なかった。

 アルファンスが持っていた分は、カーミラの契約書を破り捨てた後も、残念ながら黒焦げのままだったのだ。

 素材を使って作り直すと言う手もあるけれど……流石にあれだけ真っ黒になってしまったのは無理だろうな。

 借りたのはアルファンスだし、身に着けていたのもアルファンスだから、私は別に悪くないといえば悪くないんだけど、値段が値段だけに流石に申し訳ない。……そもそもマーリーンのことでアルファンスに協力を頼んだのは私だしな。


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