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理想の王子様なんていなかったので、自分で目指すことにしました。  作者: 空飛ぶひよこ
第三章 はりぼての理想

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私を、憐れんでください

【あの女を生贄にして殺して、僕と契約を結べばいい。王子様を自分だけのものにしたいんだろう? その願いを僕が叶えてあげるよ。可愛い、カーミラ。僕と、最も近しい人間のオトモダチ。難しい事じゃないよ。僕が協力してあげる。他の人間なら駄目だけど、カーミラだけは特別に契約を結ぶ前に手を貸してあげる。……だから僕と契約を結びたいと、そうお言い】


 久方ぶりに聞く悪魔の声は、かつて聴いた時以上の甘さを持って私の脳裏に響いた。


 契約を結びたいと、ただ一言さえ口にすれば、あの忌々しい女を殺せる。

 殺してレイ様を自分のものに出来る。


【以前君に告げた言葉を、覚えてるかい? 君が望むなら、僕は君に世界をあげるよ。君と王子様が幸せに暮らせる世界……王子様が他の誰のものにならず、君が望む王子様のままで永久に生き続ける世界を。きっと王子様だって喜ぶ筈さ……だって現実の世界はあまりに不条理で醜いもの。王子様を誰より敬愛する君が、王子様の幸福の為に作る世界は、現実の世界よりずっと素晴らしいに決まっている】


『レイ様も……喜ぶ』


【そう、君の望みは愛する人をも幸せにする望みなんだ。あんな、口が悪い、下品な女といるよりずっとね】


 そうだ……あんな女といるより、私といる方がレイ様も幸せになれるに決まっている。

 あんな女、消してしまった方がレイ様の為になるに決まっている。

 悪魔から貰った世界を、レイ様にあげる……それはとても魅力的に思えた。

 レイ様が、レイ様らしく生きていける世界を、私が作ってあげるんだ。

 そしてそんな私の愛の深さを知れば、レイ様は私に振り向いてくれる。……私だけの王子様になってくれる。


 ……ああ、だけど。

 だけど、私は。


『……そんな恐ろしい事、私には出来ないわ』


 私は善良な存在だから。

 いくらこの世から消えた方が良い女でも、それがレイ様の幸せの為でも、殺人なんて罪は犯せない。




 それから三年間、悪魔は数え切れない程私を誘惑したけれど、私はその誘惑を確固たる意志で跳ねのけた。

 レイ様と、あの忌々しい女が仲睦まじくしている様を見る度に、心の奥にはどす黒い感情が広がったが、必死に押さえ込んだ。


 私は、善良です。

 私は、善良です。

 私は、善良です。

 善良、なのです。


 悪魔の誘惑になぞ、けして屈したりはしません。


 三年間必死に誘惑に耐えて、あと一年弱。

 あと残り一年にも満たない時に、悪魔が決定的になる言葉を吐いた。


【ねえ、カーミラ。……君は僕の誘惑を跳ねのけて、あと一年と必死に耐えているけど、一年後に君には一体何が残るの? 同じ学園にいてもなお、王子様に存在も認識されてもいない君が、まさか卒業後も王子様と関わり続けることが出来ると思っていないよね?】


「……っ!?」


【ああ、でも君と違って、あの女は卒業後も王子様と関わり続けるのだろうね。……なんたって、「親友」だものね。君が噂でしか知ることが出来ない王子様の未来を、あの女はこれからも共に過ごすんだろうね……隣で共に月日を重ねて行くのだろうね。……可哀想な、カーミラ。卒業後には、あの悪魔崇拝のイカれた家しか待ち受けていない君とは、雲泥の差だね】


 ――ただ悪魔の誘惑を跳ねのけるのに必死で、卒業後のことなんて、すっかり忘れていた。

 卒業後の私には、狂ったあの家と、娘を嬉々として犯罪者に仕立て上げる最低の父親しかなくて。

 あの女は、卒業後もレイ様の隣にいることが許されていて。


 ……何だ、それ。

 不公平だ。

 最初に救い上げられただけでも、十分不公平だったのに、これからもずっとだなんて理不尽にも程がある。

 何で、あの女ばかり。


 いやだいやだいやだいやだいやだいやだいやだ

 ゆるさないゆるさないゆるさないゆるさないゆるさないゆるさないゆるさないゆるさない




 コロシテ、ヤル




「――こうして、まんまと悪魔の誘惑に乗ってしまいました」


 涙に潤む紫水晶の瞳で私を真っ直ぐみ見つめながら、カーミラは切々と訴える。


「だけどレイ様……私は三年間必死に耐えたんです……必死に耐えたけれど、悪魔があまりに巧みに私を誘導するものだから……四六時中誘惑の言葉を口にして私を洗脳するものだから、つい流されてしまったんです。……私はまだ年端もいかない、愚かな小娘で、人を誑かすのに長けた悪魔の言葉に抗えなかったんです」


 カーミラは哀れっぽく啜り泣きながら、手の甲で涙を拭った。


「でもレイ様、思いません?……もし、私と同じ境遇だとしたならば、きっと誰もが私と同じ過ちを犯した筈です。同じように、悪魔に流されて、闇に染められた筈……もし、私がこんな紫水晶の瞳なんて持って生まれなかったら……それか、紫水晶の瞳を持っていても、気にしない寛容な両親のもとに生まれていたならば……こんなことには、きっとならなかった……私は善良な、私が望むままの自分でいられた。……そうは、思いません?」


 カーミラの白い両手が、縋るように私に向かって伸ばされる。


「私は不幸なんです……私だって、被害者なんです。レイ様……私の、王子様。どうか、どうか私を憐れんでください。憐れんで……今度こそ、私を救いあげて下さい。忌まわしい呪いを解いて、私を善良な普通の少女に戻してください」


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