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理想の王子様なんていなかったので、自分で目指すことにしました。  作者: 空飛ぶひよこ
第三章 はりぼての理想

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四つ目の不幸の理由

 アルファンスの言葉で、眠ったふりをしていた先生達がカーミラを取り囲む。カーミラの行動を予期して、クオルドの風魔法によって、顔の周りに空気の防御膜を張っていた為、カーミラの魔法は効果を果たさなかった。


「なお、お前の捕縛に際しては王である父上の許可も貰っている。加えて王家からお前の実家にも兵が派遣されている筈だ。逃げ場はどこにもないぞ。神妙に、拘束を受け入れろ」


 完全に多勢に無勢の、孤立無援の状況。

 しかし、カーミラはそんな状況にも関わらず一切の動揺を浮かべなかった。

 カーミラはアルファンスの言葉を一切無視して振り返ると、その紫水晶の瞳を真っ直ぐに私だけに向けた。


「……良く気づきましたね。レイ様。私がこの女を呪ったのではなく、『生贄』に選んだということを」


 場違いなまでに艶やかに、カーミラは微笑む。


「私、この女の身に起こった不幸が人為的なものだとばれないように結構気を使ったつもりだったんですけど」


「……エルド・イーリスの事件の詳細を知らなければ、そこまで考えは行きつかなかったかもしれないね」


 突然の愛犬の死。

 トラドル地方の豪雨。

 地震による本棚の傾倒。

 毒によるマーリーンの自殺未遂。


 全て独立して発生したように見える不幸は、エルド・イーリスの事件で生贄であった少女の身に起こった不幸と重ねあわせた時、違う意味を持って映った。


 愛犬の殺害。

 性的暴行。

 足の切断。

 毒による責め苦。

 そして、生きたまま火をつけられることによる、焼死。


 ――その身に直接降りかかった行為の残虐さこそ違えども、その身に降りかかった不幸の数は、ちょうど五つ。


 逆五芒星が浮かび上がる度に起こる不幸と、同じ数だった。


 本の中に、生贄の少女の皮膚に逆五芒星が浮かび上がったという記載は一切なかった。

 しかし、彼女の遺体が見つかった時には、既にその皮膚は焼け焦げていた。焼ける前の皮膚に、逆五芒星が浮かび上がっていたとしてもおかしくはない。

 そう気がついた瞬間、私の中で全てが一本に繋がったのだ。


「エルド・イーリスの事件では、契約書には生贄の血を滲ませてあった。……そこで、思い出したんだ。マーリーンは右手に逆五芒星が浮かび上がる前に、見知らぬ相手から手紙を受け取って、指先を切っていたということを。そして、治療を受けている間に、いつの間にか手紙が消えてしまったことを。……あれは、君が作った悪魔との契約書だったのだろう? 手紙をあけた人物の指先を切って、その血に反応して君のもとに転送されるよう、魔法で細工がされていたんだ」


「………」


「マーリーンの家に最近入ったメイドは、調べてみたら元々君の家であるイーリス家で働いていた人物だと分かったよ。マーリーンの家に伝言鳥を飛ばして事情を伝えたら、君に買収されて犬の餌に毒を混ぜたことを認めたらしい」


「………」


「トラドル地方の集中豪雨も、学園で起こった地震も、君のように適正がある人物が、力を増幅させるような特殊な魔具を使って魔法を行ったならば、人為的に発生させられないことではない。呪術ならば廃人に成程負担が大きい行為だとしても、魔法ならばそうじゃない。君は呪術のように見せかけて、魔法を展開させたんだ。地震の時は、本棚を壊したうえで、わざとマーリーンが図書館に来るように仕向けたんだろう?」


「………」


「……ただ一つ、分からないのは四つ目の不幸だ。どうやって、君がマーリーンに毒を煽らせたのか。それだけが分からない。……心を操れる魔法を使えるわけでもないだろうに」


「………手紙、ですよ。手紙」


 黙りこくっていたカーミラはそこでようやく口を開いた。

 その口元には相変わらず微笑が湛えられたままで、カーミラの声はどこか嬉しそうに弾んですらいた。


「図書館の呼び出しも、毒の件も、私はただあの女に手紙を出しただけです。……ああ、レイ様。まず一つ先に言わせて下さい。私は確かに『お前の身に降りかかる不幸について知りたければ、図書館に行け』という嘘の手紙を出しましたが、あなたを連れて来いとは誓って書きませんでした。全てはあの女が勝手にしたこと。私はレイ様を巻き込む気なんて、これっぽっちもなかったんです。信じて下さい」


 カーミラは眉尻を下げて、悲しげに唇を噛んだ。


「生贄に降りかかる不幸の種類は五つ必要ですが、エルド大叔父様の事件でも分かるように、必ずしもそこに他者を巻き込む必要はありません。あの女が本棚の下敷きになって外傷を負うことでも十分だったんです。だって、内側から毒で焼かれるのと、外側から圧迫されて骨を折るのとでは、苦痛の種類だってまた違うでしょう? それなのに、あの女がレイ様まで図書室に連れてくるから、レイ様が本棚の下敷きになって怪我を負うことになって……自分の不幸を、大切な人に押し付けるなんて、本当最低な女です」


 違う、と叫びたかった。

 図書館に同行するのも、マーリーンを庇ったのも、私が自分で成したことだ。

 マーリーンが批難されるようなことは一切ないと、カーミラに噛みつきたかった。


 しかし、言葉は喉から出てこなかった。


 叫ぶ前に、気付いてしまったからだ。


「だから、次は手紙で忠告してやったんです。――『今度は大切な人を巻き込まないように、自分で不幸を負いなさい』って。親切に、毒まで調達してあげたうえで」


 マーリーンが毒を飲んだのが、私を不幸から守るためだったのだということに。


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