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The erosion world  作者: 友畑 朱華
序章:ヴィシャスワーズという世界
5/6

『ゲンの店』にて・4

ギルドとは、使徒の集合体である。

その元をたどれば何かの相互扶助というよりは、突然見知らぬ異世界に迷い込んでしまった使徒たちが情報交換のために定期的に場を設けることから始まった、と言われている。


しかしその後、ある日いきなりギルドという概念がヴィシャスワーズに出来上がり、その結成ができるようになり、大小様々なものが生まれては消えていき、現在に到っている。かくいう護も『夢幻泡影むげんほうよう』というギルドを結成して、そのリーダーを、GMギルドマスターを務めていた。


通常、使徒同士では自分の視界に入った相手を注視すると、その頭上に相手の名前が白字で表示される。それだけでもじゅうぶん通常・・というものとはかけ離れているのだが、どこかしらのギルドに所属している場合にはその名称も一緒に表示されるのだ。


もっとも、視界の左上部には常に自分の名前やレベル、LP、SP、その他の情報が表示されているのだから相手の名前が見えるくらいは驚くに値しない。


ことヴィシャスワーズにおいては、この『突然○○ができるようになる』という事象があまりにも多い。

その最たるものが、スキルだ。


仮に使徒の用いることができるスキルが100種あったとして、一晩寝て起きたら101種になっていたりもするのだから戸惑うばかりである。


現在では、使徒が用いることが可能なスキルは2千種を超えていた。当然個々人によって使用できる、できないがあるために、正確には『ヴィシャスワーズに存在するスキルの総数が』ということになるのだが。


そのすべては大まかな括りによって6種類に分別される。



レベルや既定の条件を満たせば習得可能な『ノーマル』スキル。


特定のNスキルの熟達度が一定値を超えると習得可能な『Grグロウス』スキル。


特定のスキルを複数習得することで習得可能な『コンパウンド』スキル。


特定の、あるいは設定された複数のスキルの熟達度が上限に達すると習得可能な『マスター』スキル。


個々人に最初から一つないし二つずつ与えられている、新たには習得不可能な『インディビドゥアル』スキル。


そして最後に新たには習得不可能、かつ所持者さえ不明な『Goゴッド』スキル。



細かく言えば戦闘時のみに使用できるもの、非戦闘時しか使用できないもの、その中でも常時効果を発揮するもの、使用してから時限的に効果を発揮するもの、使用した瞬間のみ効果を発揮するものなど様々だ。


「少なくとも、今の時点ではギルドの拠点は都市町村しか指定できない・・・と思われていた。でも、サウザンド・クランはそうじゃない。このカンバルから西に位置する、戦闘区域の中の塔を拠点にして結成されているんだ」

「イレギュラーか?・・・でなけりゃヴィシャスワーズお得意の新展開、ってわけだ」


仕切り直し、とばかりにグラスの中身を空にしてから口を再度開いた護だったが、神音にしてみればそれでもまだそのギルドが『問題』だとは思えなかった。


ヴィシャスワーズに何かしら新しいことが起きうるとすれば、神音が言った二通りしかない。


新展開・・・とはまさに『ある日突然』で発生する事象だ。


その条件こそ予想できないが、概ね世界中に、若しくは使徒全員に適用される。ギルドのように制度的な、影響範囲が大きい変化をもたらすものもあれば、スキルのように個々人に、狭い範囲で影響を及ぼすものもある。


そしてもう一つがイレギュラーと呼ばれる突然変異的な事象である。


当然こちらも条件を予想するのが不可能なうえに、それがどんな変化であっても適用されるのはごく狭い範囲の、限定された対象だけ。その後汎用化されることもあるが、大抵の場合恩恵を受けるのは最初に適用された者のみだ。有利になる事象だけではなく、不利になる事象が起こることもあるので、一概には幸運だとは言えないのだが。


「言いたいことは分かる気もするが、気にしても仕方ないんじゃないのか?結局のところ、そういうのは『早い者勝ち』だろ?」


神音にとっては都市町村以外の拠点でギルドを結成するというのは、有利なこととしか思えない。実際にその塔がどんな場所なのかは分からないが、このヴィシャスワーズという世界の視点で考えれば―――――おそらくは戦闘区域の中にぽつんとある非戦闘区域、若しくは安全地帯が存在する迷宮ということになる。


有利であると思う理由は明白で、前者であっても後者であっても『常に退路を確保した闘いができる』からだ。通常、戦闘区域や迷宮に安全地帯は存在せず、行ったが最後都市町村に戻るまでは神経をすり減らさなければならない。すぐ近くに確実に死の危険を回避できる場所で戦闘ができるというのは、実現できたならばメリット以外の何物でもないだろう。


さらに言えば使徒が一度に持ち運びできる所持品は、実は重さではなく設定された『枠』に依存している。使徒用語・・・・では『宝櫃の所持枠』と言うのだが、個人であれギルドであれ、拠点と定めた場所にはその『枠』が無制限の大宝櫃そうこが構えられることになる。つまり、失われたLPを回復させるための傷薬も補充し放題ということだ。


都市町村以外を拠点にする。それがイレギュラーなのかどうかの真相はともかくとして、一番先にそれを発見したものが得をするのは当然の権利だ。それについてどうこう言うのは、所詮は負け惜しみか難癖をつけているだけと思われるだけだろう。


「まぁな。それについてはお前の言うように仕方がないと俺も思うし、つべこべ言う気もない。・・・んで、ここからが本題だ」


その反応が予め分かっていたのか、肩を竦ませた護はゲンへと次の酒を注文する。氷那が少しだけ眉を顰めるが、当の護はどこ吹く風、間に挟まれているというだけで神音の方が冷や汗をかく結果となった。


「連中が拠点にしてる塔の周りには、鬱蒼とした森があってな?何日か前、ウチのやつが二人ばかり・・・そこで行方不明になった」

「行方・・・不明?」

「あくまでも希望的観測での話だ。実際のところ、死んでいたら確かめる術がない」


元よりヴィシャスワーズに住んでいる住人たちとは異なり、使徒がその命を落とすと遺体は残らず、白い光になって砕け散る。図らずも魔物と同じような形の最後を迎えるわけだが、だからこそ死亡してしまった使徒を確認することはできないのだ。


唯一の確認法としてはカンバルの中央、街のシンボルである大鐘楼の地下に存在している地底湖のみ。そこに手を浸して念じれば生死が、生きていればその現在地などが判明するのだが、一度でも直接会話をしていなければいけないという条件があり、かつ使用は週に一度のみという制約もある。利便性を考えれば『なくても構わない』という程度だ。


「確かに」

「・・・サウザンド・クランがあの塔を拠点にして結成されて以来、同じようなことが頻繁に起きるようになってきてる」

「それが連中の仕業だと?」

「ここ数カ月の間で、あの森で消息不明になってる奴が続出してるのは事実だ」


本来は有り得ない場所で結成されたギルド、そしてそれから始まった行方不明事件。単純な事実を繋ぎ合わせた確証のない憶測にすぎないが、何の手がかりもない現状であれば護がそこから疑うのも当然だろう。


「噂や与太ならともかく。ウチの連中にまで被害が及んだとなれば、俺の立場として黙ってるわけにはいかない・・・ここまでは分かってもらえるか?」

「大体は。で、結局のところ俺にどうしろと?」

「簡単だけど、難しい話だ。確かにウチの奴の一件で動くことを決めたんだが、GMギルドマスターの俺が動くと必然的に『ギルド同士の抗争』に発展する可能性が高くなる。それは・・・それだけは、ちょっと避けたい」


とは言え、取っ掛かりとしてはともかく事を大きくするには弱すぎる。それが分かっているからこそ、こうして実際に調査に乗り出そうとしているわけだ。


だが、同時にひどくナイーブな問題であるのも確かだ。


規模的な差はあるにしても一つのギルドの長があからさまに『お前たちが原因だろう』と言わんばかりの行動を取れば、当然互いに軋轢が生じる。もちろん実際にウザンド・クランが関わっているならば最終的には戦闘に及ぶのかもしれないが、現時点では尚早だ。


「事情は理解したし、お前の立場も分かる。聞いてやりたいのは山々だけど・・・」

「いや、もちろんタダとは言わない。じゅうぶんに謝礼は出す」


調査はしなければいけないが、直接護や夢幻泡影の人間が動くわけにはいかない。

その葛藤ジレンマを解消する方法として、神音に依頼をするという結論を導き出したのだろう。


何しろ事が事だけに、軽々しくゲンを通じて不特定の人間に依頼を出すのは憚られた。

行方不明者が出ているのは、未だ情報が少ない戦闘区域だ。

そこへ行って無事帰って来られるほどの実力を持ち、さらに極秘裏に調査ができるほどの斥候能力を持ち、かつその報告を聞いて護が無条件に信じられるくらいに信頼できる人物でなければ、その役目は務まらない。


もちろん神音の周囲を探れば容易に護の存在は見えてくるのだが、ギルドの構成員ではないのでいくらでも言い訳が立つ、という算段もあるだろう。


話を聞く限りでは、神音が二の足を踏むような区域ではない。いくら未知の戦闘区域でも普段から闘っている場所に比べれば、ワンランクどころかそれ以上にグレードの低い魔物との戦闘になる。


だが、そんな事情はともかくとして。


神音が誰かと一緒に闘うことを好まないのは、付き合いの長い護は承知しているはずだった。それでも依頼をしてくるのだからよほどのことだろうとは思うが―――――


「神音、私からもお願い。今回行方不明になっているうちの一人が・・・友達の、その、恋人なの。落ち込みようが酷くて、見ているこっちも辛くて」


腕組みをして黙り込んでしまった神音の右隣から、付け加えるように氷那が口を挟む。普段は凛としている彼女が眉尻を落として沈んだ様子というのは、あまり見られるものではない。


トップギルドに数えられる夢幻泡影のGMギルドマスターSGMサブギルドマスターの二人に、と言うよりは神音にとって追い目のあるこの兄妹にここまで頼み込まれては、もはや断るという選択肢は取りようがない。


大きく息を吐くと、閉じていた目をゆっくり開いた。


「・・・・・分かったよ。護はともかく、氷那ちゃんに頼まれたら『嫌だ』なんて言えないじゃないか」

「私を『ちゃん』付けで呼ばないで。・・・でも、ありがとう神音」

「ちっ、何だよ『護はともかく』って。まぁ、結果的に引き受けてくれるなら理由は何でもいいんだけどよっ」


拗ねたように言った護の言葉に三人でひとしきり笑った後、会話の内容は依頼についてのものに移った。店内の客はずいぶん減っていたが、当然その音量は控えめだ。最も近くにいるゲンには聞こえたかもしれないが、その辺りは心配することでもない。三人とゲンの関係もあるが、明らかに犯罪行為に関するものでない以上聞こえないふりをして、他人には一切漏らさないようにするのが情報屋も営むゲンのスタイルだからだ。


「じゃあ最後にもう一つ。行方不明者が最後に確認された正確な座標位置を教えてくれ」


報酬の総額やそれを前金で三割渡すこと、期間を設けてそれが過ぎたら定期的に報告に来ることなどが決められ、最後に神音が締めくくろうとしたその時。


「あ、それは心配しなくてもいいわよ。だって私も一緒に行くから」

『・・・・・はあぁぁ!?』


当然という表情で同行を告げる氷那に、驚いて振り返る神音と護。突然の大声に店に残った客の耳目が集中するその中で、その二人の反応を彼女はきょとん、として見返していた。


導入部最後なので、少しだけ長くなってしまいました(汗)


次回からは、ついに本編に突入です!!

まだ説明し足りない部分もありますが、それは適宜。



・・・ですが、皆様に緊急報告がございます。

お手数ですが活動報告に詳細を書きますので、ぜひお越し下さいませませ。

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