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第16話 同時刻に二人

 久美子から送られてきた数々の情報を前に、僕は頭を痛めていた。

 芳しくない。

 そして、いまも久美子と情報のやり取りをしている最中だった。


『最近、いろいろとあって、胃潰瘍になりそうだって言ってたらしいよ』


 そうだろうな。

 夏樹の失踪と捜索、時間制限付きで夏樹となった僕のフォロー。胃の休まる暇がない。精神的にも胃腸的にも疲弊するというものだ。


『原因わかるか?』


 ピコン。


『トイレの回数が多い理由は、知り合いの子の手料理だって。どんな料理か興味あるね』


 いや、興味などこれっぽっちもない。

 あの料理テロは知り合いの子だったのか。

 阿鼻叫喚の料理を作る人間がこの世に三人もいるとか恐ろしすぎる。

 だが、これだけで白と判断するのは早計といえるだろう。


『いつから小山さんのところにいるか、わかるか?』


 ピコン。


『えっとね……先月の初め頃だって』


 先月初め……夏樹が『自分探しの旅に出ます』とふざけたことを書き残して出奔した時期と被るが……。

 わからん。


『なんか怪しいところとかあったか?』


 ピコン。


『それなんだけど、いまひとつなんだよね。あたしのマネージャーも雰囲気が変わったわとか言ってたけど、仕事については、前より熱心?鬼気迫る感じがするって言ってたよ』


『ありがとな。また、頼むな。エヘッ』


 ピコン。


『いいよ、いいよ。夏樹ちゃんとあたしの仲だもん(//∇//)おやすみ♡』


 僕はスマホを閉じた。

 小山さんもわからんが、久美子のあの顔文字の意味はなんだ?

 これ以上、僕を悩ますな。

 しかし、夏樹がいなくなった時期に知り合いの子が現れたか……。

 偶然か。

 それとも……。

 真相は霧に包まれたままだ。

 五里霧中……いや、手探りで調べているこの状況なら暗中模索と言ったほうがいいな。

 う〜ん……。

 ますます迷路にはまっていくようだった。



 少年老い易く学成り難し。

 この言葉が示している意味は重い。

 そこをどう思っているのか、母とテレビ局に問い詰めたい。

 土曜の朝、いそいそと英語リーダーの単語調べと物理のノート整理をしようと計画していたのに、急遽収録が入り涙ながらに断念した。

 どうしてくれよう。


「ごめんね、柚樹君」


 迎えの車から降りた小山さんが、開口一番、すまなさそうに言った。


「日課の勉強を邪魔して。ホント、無理を言ったよね」


「どうせ、母さんのごり押しなんでしょう?」


「ははははは」


 小山さんが空々しく笑った。

 夏樹だからとスカートを履いているせいか、足元がすかすかする。

 無駄に物覚えがいいせいもあり、母から教わった夏樹に似せるメイクもいまや完璧だ。

 どこにも胸を張れないが。

 黒いバンに乗り込み、シートに座った。

 僕はリュックから単語帳を取り出した。

 バックミラー越しに単語帳をめくっている僕に小山さんは苦笑いを浮かべた。

 予定していた勉強ができないのであれば、他のことをするまでだ。

 ……。

 ちょっとまて。

 さっき小山さん、なんて言った?

『日課の勉強』って言ったよな。

 僕が学校が休みの土曜の朝に日課として勉強するって、家族と秋葉しか知らないことだ。

 なぜ、小山さんが知っているんだ?

 誰かから聞いた。

 その誰かが問題だ。

 候補としては、母か夏樹。

 いつ、誰に聞いたか確かめねばならないだろう。

 まずは、車を降りてから母に電話で確認して、裏を取る。

 その上で、小山さんに確認だ。

 単語帳を持つ僕の指に力が入った。

 車がテレビ局の駐車場に着いた。

 車を降りて、テレビ局に入る。

 廊下ですれ違うスタッフやタレントに頭を下げ挨拶をしながら、違和感を覚えた。

 なんだか僕を見るスタッフやタレントの目が、いつもと違う。

 なんだろう……なんか嫌だな。

 控え室に入り、ハリウッドミラー前の化粧台にリュックを置いた。

 小山さんがハンガーラックに衣装を掛けていた。

 母に連絡をとスマホを取り出したとき、


 バンッ!!


 という音と共に血相を変えた母が転がり込んできた。

 な、なにがあった、母。

 小山さんも目を見開いている。

 母の手には、今日発売の写真週刊誌が握られていた。


「ゆ、柚じゃない、夏樹、大変よ、一大事よ!」


 そう言うと、母は写真週刊誌を開いた。


「なっ、」


 それを見た小山さんは驚きのあまり、言葉に詰まった。

 僕は写真週刊誌を母からひったくった。


『春野夏樹、スーパーで買い物』


 そこには買い物をする夏樹の姿があった。

 いままで探しても見つからなかった夏樹がいたのだ。

 驚天動地と母が騒ぐのも無理はない。

 こんなところにいやがったか。

 秋葉が見たのはやっぱり夏樹だったな。

 これで捜索範囲が狭まった。

 秋葉に詳しくスーパーの場所を聞こう。

 そして、網を張り一網打尽とするのだ。

 ふふふ。

 これで僕は苦行ともおさらばだ。


「スーパーの場所はわかるから大丈夫だ、母さん」


「そんなこと、いまは、どうでもいいのよ、その辺に捨てちゃっても構わないわよ」


 なにを言うか。

 大事だろう、居場所の特定は!


「ちゃんと見なさい!あんた、最後まできちんと問題読まないで問題解くの?」


 そんな自殺行為をこの僕がするかっ!

 そんなことするのは夏樹だ。

 いや、あいつは問題すら読まないで、カンでがんがんいくタイプだ。

 僕は記事に目を通した。


「撮影日時、見たわよね?」


 この日がなんだって――

 ……。

 僕の読みが正しければ、もの凄くマズい展開だ。


「わかった?この日、あんたはどこでなにをしてたかしら?」


「確か全国ネットの生放送に出てた」


「そうよ、テレビに出てたの、しかも生放送で!」


 春野夏樹が同時刻に二人……。


 小山さんの顔色は真っ青を通り越し、土気色になっていた。胃の辺りに手を押さえ、前かがみになっている。

 僕の額から汗が一筋流れた。







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