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『死ぬほど愛されたい』と願ったら、最強の公爵家に転生して家族の愛が重すぎます!〜赤ちゃん令嬢は『慈愛の眼』で今日もデレを解析中〜  作者: 五十嵐紫
第13章:セキュリティ・ウォー編:隣国からの『論理爆弾(ロジックボム)』が、王国の戸籍システムを狙っています

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学院突入! 地下の秘密サーバー室で、狂った魔導師(システム管理者)と対峙します

「……この空気の淀み。ただの魔力枯渇(リソース不足)じゃないわね。……古い規格のサーバー室特有の、埃と、焦げた回路の匂い。……それに、何より『絶望』のパケットが充満しているわ」


夜の静寂に包まれた王立魔導学院。その最深部、かつては禁書庫とされていた地下空間の入り口で、私はL-Padの出力を最小に絞りながら、目の前の重厚な石扉を睨みつけていました。


《警告。……扉の向こう側から、非人道的なサイクルで繰り返される『魔力抽出振動』を検知。……被験体(学生)のバイタルサインが著しく低下しています。……この領域の管理者権限(Root)は、学院の正規パスワードを無視して強制変更されています。》


(……やっぱりね。……あいつら、学生たちを『並列プロセッサ』として使い潰しているんだわ。……前世のブラック企業の末期症状を、魔法で再現するなんて……)


「……レティシア、この扉。……僕の解析魔法(デバッグ)でも解呪できない。……複数の術式が重層的に絡み合っていて、無理に開けようとすれば、中の『演算機』ごと自爆するようにセットされているよ」


シエルお兄様が、青白い顔で扉に手をかざしながら報告してきました。彼の指先が、扉から漏れ出る不浄な魔力に触れて、小さく震えています。


「……フン、小細工を。……レティシア、下がっていなさい。パパの剣で、自爆する暇も与えず細切れにしてやる!」


「待って、お父様! ……物理攻撃は厳禁よ。……中の学生たちの意識が、今この瞬間もシステムと『同期(シンクロ)』しているの。……サーバーが物理的に壊れれば、彼らの脳(メモリ)まで一緒に焼き切れてしまうわ」


私がお父様の腰に手を回して必死に止めると、背後からユリウス王子が冷徹な足音を響かせて歩み寄ってきました。


「……私が行こう。……王族にのみ与えられた『緊急停止コード』がある。……本来は学院の暴走を止めるためのものだが、この異常事態なら、システムのバックドアをこじ開ける鍵になるはずだ」


ユリウスが扉の紋章に手を触れ、古の呪文を唱えました。

ゴゴゴ、と地響きと共に石扉が左右に開き、そこから溢れ出したのは、吐き気がするほど濃密な「黒い魔力」の霧でした。


霧の向こう側に広がっていたのは、悪夢のような光景でした。

かつての禁書庫は、巨大な魔力水晶と、そこから這い出す無数の「魔力の蔦(ケーブル)」で埋め尽くされていました。そして、その蔦に繋がれているのは、意識を失った数十人の学院生たち。彼らの頭部からは常に光る粒子が吸い上げられ、中央に鎮座する巨大な演算機へと送り込まれていました。


「……ハハハ! ……素晴らしい。……これこそが、魔導の『真の最適化』だと思わないか?」


部屋の奥、巨大な演算機の上に座っていたのは、ボサボサの髪に狂気を宿した瞳の男――かつて、私の『L-OS』の設計思想を盗もうとして追放された、元王立魔導師のマルファスでした。


「……マルファス。……あなた、まだこんな『非効率』な研究を続けていたの?」


私は一歩前に出て、冷たく彼を指差しました。


「……学生たちの精神を魔力マイニングの動力源(バッテリー)にするなんて。……それ、単なる『搾取』であって、技術でも何でもないわよ」


「黙れ、三歳のガキが! ……お前の作るシステムは、あまりに『綺麗』すぎて面白みがないのだ! ……人間の感情、苦痛、焦燥。……それらを変数として組み込めば、演算能力は指数関数的に向上する! ……見ろ、この計算式を! 教皇庁から提供された、究極の『魔力マイニング効率式』だ!」


マルファスが狂ったようにL-Padを叩くと、空中に醜悪な数式が投影されました。


M_yield = Sum(V_student * C_synapse) / (R_entropy * Vitality_Loss)


変数の定義:


 ・M_yield: 得られる総魔力出力(マイニング成果)


 ・V_student: 学生一人の基礎魔力量


 ・C_synapse: 精神同期によるブースト係数


 ・R_entropy: システムの不安定性(ノイズ)


 ・Vitality_Loss: 犠牲となる生命力の減衰率(これが高いほど高出力)


「……見ての通りだ! ……死なない程度に生命力を削り続ければ、無限の計算能力が手に入る! ……これを使って、我らは王国の資産データを書き換え、新たな『神の帳簿』を作り上げるのだ!」


「……最低ね。……『Vitality_Loss』を分母に入れている時点で、それは持続不可能(サステナブル)なシステムじゃないわ。……ただの使い捨てよ」


私は、怒りで手が震えるのを抑えながら、L-Padのコマンドラインに入力を行いました。


「……お父様、ユリウス様! ……私が今から、学生たちとサーバーの『セッション』を強制切断(ログアウト)させるわ! ……その瞬間、システムが不安定になって、マルファスを守っている『防御障壁』が消える! ……そこを叩いて!」


「了解だ、レティシア! ……貴様、わが校の生徒をよくも……! ……パパが、その腐った根性ごと叩き斬ってやる!」


お父様の全身から、黄金色の闘気が噴き出しました。ユリウス王子も、静かに剣を抜き、マルファスの死角へと回り込みます。


「……シエルお兄様、私の演算のバックアップをお願い! ……マイニングの逆回転(デ・マイニング)を行うわよ!」


「……任せて、レティシア。……あんな醜い数式、僕が今すぐ論理破綻させてみせる!」


私は、空中に浮かぶマルファスの数式に、直接「介入(インジェクション)」を開始しました。

マイニングによって得られた魔力を、逆に学生たちのバイタルを回復するためにリダイレクト(転送)するコード。


M_yield -> 0 where Vitality_Loss -> Recovery


《実行。……逆パッチ適用開始。……魔力マイニングのプロセスを逆転させます。……学生たちの精神状態、回復フェーズに移行。……システムの同期率、急落中。》


「な、何だと!? ……私の完璧なシステムが、書き換えられている……!? ……馬鹿な、三歳の指で、これほどの速度のコーディングができるはずが……!」


「……前世で何千回、何万回と『サーバー障害の緊急復旧』をこなしてきたと思っているの? ……あなたの書くスパゲッティコードなんて、一瞥するだけでデバッグ完了よ!」


私は最後の『Enter』キーを強く叩きました。

部屋中の魔力水晶が、眩しい白光と共に激しく明滅し、学生たちを繋いでいた蔦が、力なく崩れ落ちていきました。


「――今よ! お父様、ユリウス様!」


「――『不動・破邪一閃』!!」

「――『王家の審判(ロイヤル・ジャッジメント)』!!」


黄金の斬撃と、白銀の刺突が同時にマルファスの防御障壁を貫きました。

「ぎゃあああああ!!」という悲鳴と共に、マルファスは演算機から吹き飛ばされ、壁に激突して気絶しました。


静寂が戻った地下室。

学生たちは、深い眠りに落ちたような穏やかな表情で、床に横たわっていました。


「……バイタルチェック。……全員、無事だ。……精神的な後遺症も、レティシアの逆転術式のおかげで最小限に抑えられているよ」


シエルお兄様が一人一人を確認し、安堵の溜息をつきました。

私は、機能停止して沈黙した巨大演算機の前に立ち、その基盤に残された「最後のログ」を読み取りました。


「……やっぱり。……マルファスはただの実行犯。……彼にこの『マイニング技術』と、王国の戸籍システムへの『アクセスキー』を渡した本当の黒幕がいるわ」


「……聖教国か?」


ユリウスが、剣の血を拭いながら尋ねました。


「……ええ。……でも、それだけじゃないわ。……このログの暗号形式……。……聖教国の中にある『教皇直属・デジタル異端審問官』の署名(シグネチャ)が残っている」


私は、L-Padの画面を閉じ、部屋の隅で震えている「マルファスの手下」の魔導師たちを冷たく見据えました。


「……王国の戸籍を消そうとした罪は重いわよ。……お父様、彼らを近衛騎士団の『特別独房』に連れて行って。……そこは、Wi-Fiも届かない、完全な『オフライン空間』だから」


「ああ、レティシア。……彼らには、筋肉による『物理的な反省会』もたっぷりと用意しておこう」


お父様が拳を鳴らし、魔導師たちは腰を抜かして泣き崩れました。


こうして、王立魔導学院を舞台にした「サイバー魔導戦争」の第1戦は、レティシアたちの完全勝利に終わりました。


しかし、盗まれた「資産データ」の暗号を完全に解き、領民たちの財産を取り戻すためには、さらに過酷な『デコード(解号)作戦』が必要になります。


そして、レティシアの心には、ある一つの懸念が芽生えていました。


(……聖教国の連中、私の『L-OS』の設計図を、どこまで把握しているの? ……もし、私の前世の知識に匹敵する『転生者』が向こう側にもいるとしたら……?)


三歳の聖女は、救出された学生たちの寝顔を見つめながら、これから訪れるであろう「開発者同士の決戦」を予感し、表情を引き締めるのでした。

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