大規模メンテ完了! 世界樹のパワーで、王国のインフラが『超絶進化』しました
「……あ、繋がった。……しかも、なにこれ。爆速すぎて、スクロールが追いつかないわ」
世界樹の再起動から数日。王都へと戻る馬車の中で、私は自身のL-Padを操作しながら驚愕していました。以前は文字情報の受信すら数秒のラグがあったのに、今は高精細な画像データはおろか、地脈を通じてリアルタイムで配信される「王宮中継」の映像すら、カクつくことなく再生されています。
《解。……現在の通信プロトコルは、世界樹の『生体ファイバー』に最適化されています。……実効スループットは、メンテ前の約12,000倍を記録。……遅延はほぼゼロです。》
(……12,000倍。……これ、三歳児が持っていいインフラの数値じゃないわね。……前世の光回線を超えて、もはや量子通信の域に達してるんじゃないかしら)
馬車の窓の外を見ると、王都の景色も一変していました。
大通りの街灯には、世界樹の枝を模した小さな魔導アンテナが設置され、そこから王都全域に「公衆魔導Wi-Fi(L-Air)」の電波が飛んでいます。
「……見てよ、レティシア。……市場の商人たちが、みんなL-Padを片手に取引をしている。……在庫管理も価格交渉も、すべてリアルタイムだ。……君が言っていた『情報の速度が経済の速度を変える』という言葉、ようやく理解できたよ」
隣に座るシエルお兄様が、感慨深げに窓の外を指差しました。
以前は情報の伝達に数日かかっていた地方の農作物の価格が、今や一瞬で王都に伝わります。買い叩きや情報の非対称性は消え、市場には活気が溢れていました。
「……ふん、お兄様、これはまだ序の口よ。……インフラが整ったということは、その上で走る『アプリケーション』の可能性が無限になったということ。……今日からは、単なる通信機じゃない。……王国全土を一つの巨大な『思考回路』にするのよ」
「……相変わらず、三歳児とは思えない野望だね。……でも、そんな君の『わがまま』を形にするのが、僕たち大人の仕事、なんだろう?」
馬車の向かい側に座るユリウス王子が、悪戯っぽく微笑みました。
彼は王都に戻るなり、すぐに「魔導インターネット開通」の布告を出し、国家予算を投じて全世帯に(安価な)L-Padの普及を開始しました。
E_efficiency = (Total_Transaction / Energy_Consumed) * log10(Bandwidth)
馬車が王宮の正門に到着すると、そこには信じられないほどの群衆が詰めかけていました。
しかし、彼らが手にしているのは、プラカードでも武器でもありません。
「――レティシア様! ありがとうございます! 遠くに住む孫の顔が、この板(Pad)で見られました!」
「聖女様! おかげで、病気で動けない母が、教会のミサをリモートで受けられるようになりました!」
人々から次々と投げかけられる感謝の声。
中には、私が開発した「魔導翻訳アプリ」を使って、他国の商人と楽しそうに談笑している市民もいます。
「……レティシア、見てみろ。……みんな、お前が作った『新しい世界』を、自分たちの手で使いこなしているぞ」
お父様が、誇らしげに私の頭を撫でました。
その手は相変わらず岩のようにゴツゴツしていましたが、私を抱き上げる仕草は、壊れ物を扱うように繊細でした。
「……お父様、重いわよ。……それに、私はただ『環境』を整えただけ。……それを使って何を表現するかは、彼ら自身の自由だわ」
「……ハハハ! 自由か! ……いいな、その響きは」
私たちは王宮のバルコニーに立ちました。
眼下に広がる王都の夜景。そこには、魔導街灯の光だけでなく、無数のL-Padの画面が星のように瞬いています。
「……さて、ユリウス様。……インフラ整備は終わりました。……次は、何をするかお分かりですね?」
私は隣に立つ王子を見上げました。
「……ああ。……『コンテンツ』の拡充、だろう? ……君が言っていた、王立図書館の全書籍の電子化、そして……」
「……そして、世界初の『魔導型検索エンジン』のリリースよ。……情報を『持っている』だけじゃ価値はない。……必要な時に、必要な人が、一瞬で『見つけられる』ようにしなければならないわ」
私が指を鳴らすと、世界樹から届く膨大な魔力パルスが、王宮の空中に巨大なホログラムを形成しました。
そこには、シンプルで美しい「検索窓」が浮かんでいました。
《システム。……『王国検索(L-Search)』、サービス開始。……インデックス済みの魔導書、1,200万冊。……リアルタイム地脈ログ、10億レコード。……すべての叡智に、一瞬でアクセス可能です。》
人々が歓声を上げ、手元のPadを叩きます。
歴史上の難問、伝説の魔道具の製法、遠く離れた街の天気。
これまで特権階級だけが独占していた「知識」が、今、すべての人々に開放された瞬間でした。
「……これは……もはや革命という言葉ですら生ぬるいね」
シエルお兄様が、検索窓に自分の名前を打ち込んで、過去の成績表が出てきたのを見て苦笑いしています。
「……さぁ、これで王国の『OS』は完璧にアップデートされたわ。……でも、忘れないで。……システムが便利になればなるほど、人は『自分の頭で考えること』を忘れがちになる」
私は、夜風に吹かれながら、どこまでも続く光の海を見つめました。
「……テクノロジーは、人を幸せにするための道具であって、人を支配するための神様じゃない。……それだけは、私がこの三歳の体でいる限り、ずっと言い続けてあげるわ」
ユリウスが私の小さな手を握りました。
「……わかっているよ、レティシア。……君が導くこの未来を、私たちは一歩ずつ、大切に歩いていこう」
こうして、世界樹をメインサーバーに据えた「魔導インターネット」の開通により、王国は世界で最も進んだ『情報国家』へと進化を遂げました。
しかし、その圧倒的な進化の影で、隣国である「聖教国」の監視網が、不気味なほど静かに動き出していることを、レティシアたちはまだ知りませんでした。
【第12章 完】




