聖域への道:物理的な『スパム(魔物)』を蹴散らして、世界樹の根元へ
「……ねぇ、システムさん。ここ、空気中の魔力の密度が異常すぎて、L-Padのセンサーが『ホワイトアウト』してるんだけど。……これって、自然の霧じゃなくて、情報の『ノイズ』よね?」
王都を離れ、北の最果てにある聖域へと続く断崖絶壁。
馬車が通れない険しい山道を、私はお父様のガッシリとした肩に乗せられながら、手元のL-Padに流れる真っ赤なエラーログを睨みつけていました。
《解。……聖域周辺の地脈に、強力な『電磁干渉』を確認。……さらに、前方300メートル地点に、不自然な魔力反応の『バースト』を検知しました。……生物学的特徴と、人工的な術式コードが混在しています。》
(……人工的なコード? ……やっぱり。……ただの野生の魔物じゃないわね)
「お父様、止まって。……前方に『悪意のあるプロセス』が待ち伏せしているわ」
「プロセス……? よくわからんが、敵がいるということだな! 腕が鳴るぞ、レティシア!」
お父様(アラリック公爵)は、私の警告を聞くや否や、嬉々として剣の柄に手をかけました。隣を歩くお兄様のシエルは、自身のL-Padで周囲の索敵結果を確認し、顔を青くしています。
「……レティシア、これはひどい。……地脈から溢れ出した魔力が、形を成して襲ってきているんだ。……まるでお菓子の袋を無理やり開けた時に、中身が飛び出してくるような……」
「……お兄様、それは『バッファオーバーフロー』に近い現象ね。……あそこにいる魔物たちは、聖教国が放った『物理的なスパム』よ。……倒しても倒しても、地脈から無限に生成(インスタンス化)されるように細工されているわ」
霧の向こうから現れたのは、全身が黒いモヤで包まれた巨大な狼の群れでした。しかし、その動きは生物としては不自然で、時折カクカクとコマ送りのようなノイズが混じっています。
「――フン。……聖教国の連中、バックドアを壊された腹いせに、世界樹のセキュリティを意図的に下げて、バグ(魔物)を増殖させたというわけか」
最後尾を歩いていたユリウス王子が、冷徹な瞳で狼たちを見据えました。彼の周囲には、王室直属の隠密魔導師たちが影のように控えています。
「……レティシア、あれの『根源』を叩くことはできるか? ……騎士団に任せてもいいが、数が多すぎて消耗戦になる」
「……ユリウス様、今の私の帯域では、遠隔でのコード書き換えは無理ですわ。……でも、お父様の剣に『パッチ』を当てることならできます」
私はL-Padを高速で叩き、お父様の剣に付与されている魔力回路へ、直接データを送信しました。
「――お父様、今よ! ……剣の振動周波数を、私の指定した数値に固定して! ――『不純物除去・ストライク』!!」
f_opt = 1 / (2 * π * sqrt(L * C_patch))
「……よぉし、なんだか知らんが、剣がめちゃくちゃ軽く感じるぞ! ……いくぞ、バグども! ……一括削除してやる!」
お父様が地を蹴り、黒い狼の群れへと突っ込みました。
通常、地脈から生成された魔物は、物理的な攻撃を受けてもすぐに霧に溶けて再生してしまいます。しかし、私がお父様の剣に施した『最適化パッチ』は、魔物の構成式を直接分解する高周波振動(物理演算)を伴っています。
ドォォォン!!
お父様が一振りするたびに、狼たちは悲鳴を上げる暇もなく、塵一つ残さず「消滅」していきました。
「……すごい。……お父様の攻撃が、まるで『消しゴム』で消しているみたいだ……」
シエルお兄様が呆然と呟きます。
「……お兄様、感心している暇はないわよ。……次が来るわ。……あっち、崖の上から『大容量』のやつが降りてくる!」
地響きと共に現れたのは、体長十メートルを超える、岩石の皮膚を持った巨大なゴーレムでした。その背中には、聖教国の国章に似た術式が刻まれており、そこから常に新しい『スパム・ウルフ』が射出されています。
「……あれが『スパム・サーバー(親玉)』ね。……あいつをシャットダウンしない限り、この道は開かないわ」
「……私が行こう、レティシア」
ユリウス王子が一歩前に出ました。彼は優雅な動作で自身の宝剣を抜き放ち、私に微笑みかけました。
「……君が道を示し、公爵が露払いをする。……ならば、最後に『承認(Enter)』を押すの




