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『死ぬほど愛されたい』と願ったら、最強の公爵家に転生して家族の愛が重すぎます!〜赤ちゃん令嬢は『慈愛の眼』で今日もデレを解析中〜  作者: 五十嵐紫
第11章:王太子編:初恋の相手(?)が、私のシステムに『プロポーズ(ハッキング)』してきました

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物理的なシステムダウン? 嫉妬に狂った侯爵が『物理的なウイルス(刺客)』を送り込んできました

「……ちょっと待って。今、私の『通知領域』が真っ白になったんだけど」


王立魔導学院の華やかな喧騒を離れ、公爵家の馬車へと向かう並木道。


月明かりに照らされた石畳を歩いていた私は、突如として襲ってきた「違和感」に足を止めました。


(システムさん? レスポンスを。……システムさん!)


《……。》


返事がない。ただの屍……ではなく、完全に無反応です。


視界の端に常駐していたはずの「ステータス・バー」がノイズと共に消失し、L-Padの画面には無情にも『No Signal(圏外)』のアイコンが点滅していました。


(……嘘でしょ。全土に張り巡らせたL-NETのパケットが、このエリアだけ完全に『遮断(ドロップ)』されてる……!?)


「レティシア、どうしたんだい? ……顔色が悪いよ。やっぱり、さっきの演算でリソースを使いすぎたのかな」


異変に気づいたお兄様が、心配そうに私の顔を覗き込みました。


しかし、次の瞬間、お兄様の手元にあったL-Padもまた、プツンと音を立ててブラックアウトしたのです。


「……! 私のPadも死んだよ、レティシア。これは……ただの通信障害じゃないね」


「……ええ。……誰かがこの空間に、強力な『電波妨害(ジャミング)』を仕掛けてる。……魔力そのものを遮断するんじゃなくて、特定の周波数――つまり、私の術式が使う『信号』だけを狙い撃ちにして、ノイズを流し込んでいるわ」


私は冷や汗を流しながら、周囲を警戒しました。


システムさん(OS)という強力な補助(API)を失った私は、今やただの「知識だけはある三歳児」です。


「――ククク。……『聖女』ともあろうお方が、板切れ一枚使えなくなっただけで、これほどまでに狼狽えるとは。……やはり、貴様の技術は『借り物の砂上の楼閣』に過ぎなかったようだな」


街灯の届かない植え込みの影から、ゆっくりと数人の人影が這い出してきました。


その中心にいたのは、先ほどパーティー会場で赤っ恥をかかされたはずの、デ・マルク侯爵です。


しかし、その表情には先ほどの屈辱は微塵もなく、狂気に満ちた歪な笑みが張り付いていました。


「……デ・マルク侯爵。……パーティーの途中でログアウトしたと思ったら、こんな『場外乱闘(DDos攻撃)』の準備をしていたんですか?」


「黙れ、小娘! ……お前がこの国に持ち込んだ『便利(毒)』のせいで、我ら魔導師の権威は失墜した。……だが、それも今日で終わりだ。……この『禁忌の魔導石』から放たれる『沈黙の霧』は、あらゆる術式を無効化し、空間そのものを『オフライン』にする。……貴様が誇るネットワークも、ここではただの塵だ!」


侯爵が掲げた黒い石から、不気味な紫色の煙が立ち昇り、私たちの周囲をドーム状に包囲していきました。


これが電波障害の正体――魔力的遮断空間(エアギャップ)です。


「……レティシア、下がっていろ!」


お父様が鋭い声と共に、私の前に立ちはだかりました。


腰の剣を抜き放つその背中は、どんな時でも揺らがない「物理レイヤー最強の壁」そのものです。


「……侯爵、公爵家への直接攻撃は、王国に対する反逆だぞ。……覚悟はできているんだろうな?」


「……反逆? ……いいえ、これは『浄化』です。……行け! 我が家の地下で数百年眠っていた、最高の『レガシー・ハードウェア』よ! ……あの生意気な小娘を、その物理的な質量で粉砕せよ!」


侯爵が叫ぶと、背後の闇からズシン、ズシンと地響きを立てて「それ」が現れました。


それは、錆びついた金属と岩石を無理やり繋ぎ合わせたような、全長三メートルを超える古代の自律ゴーレムでした。


「……あれは……『古代式重装歩兵(レガシー・オートマトン)』!? ……現存していたのか!」


お兄様が驚愕の声を上げます。


そのゴーレムは、最新の精密な術式など一切使っていません。


純粋な「命令(コマンド)」が刻まれた石版を動力源とし、物理的な重さで押し潰すことだけを目的とした、極めて単純(シンプル)で、それゆえに『遮断空間』でも影響を受けない厄介な代物でした。


「……やばいわ。……あれ、最新のパッチが当たってないから、私の『逆ハッキング』が効かない。……完全なスタンドアロン機よ」


「……レティシア、難しいことはいい! ……パパが、あの『不具合(ポンコツ)』をスクラップにしてやる!」


お父様が地面を蹴り、ゴーレムの懐へ飛び込みました。


超人的な筋力から繰り出される一撃が、ゴーレムの巨大な腕を叩き斬ろうとします。


しかし――。


ガギィィィィン!


「……なっ!? ……硬い! 剣が通らないぞ!」


お父様の愛剣が、ゴーレムの表面を覆う『物理防御結界』に弾かれ、火花を散らしました。


ゴーレムは無表情に腕を振り上げ、丸太のような拳をお父様へと叩きつけます。


「……くっ!」


間一髪で回避したお父様ですが、石畳がクレーターのように抉れるのを見て、戦慄が走りました。


あのゴーレムは、魔力による攻撃を完全に無効化し、物理的な攻撃も『古い、重い、硬い』という単純な理由で撥ね除けています。


「……ハハハ! どうした、最強の公爵! ……最新の技術が使えぬ場所では、お前たちはただの脆弱な肉の塊に過ぎん!」


「……クソっ、……ネットが繋がってさえいれば、こいつの『共振周波数』を割り出して粉砕できるのに……!」


お兄様が、無反応のL-Padを必死に叩きます。


しかし、通信は遮断されたまま。システムさんのナビゲーションもありません。


(……考えろ、レティシア。……前世の私なら、こういう『ハードウェア・トラブル』にどう対処した?)


私は目を閉じ、脳内の「ローカル・ストレージ」に保存された知識を、高速で検索(スキャン)しました。


ネットワークがない。魔力が使えない。


ならば、残されているのは――。


(……『物理学(古典物理)』と『数学』……これだけは、どんな遮断空間でも変わらない世界の基本プロトコルよ!)


私は落ちていた小石を拾うと、お父様に向かって叫びました。


「お父様! ……力で押し切る必要はありません! ……そのゴーレムの『重心』と『固有振動数』を突くんです!」


「……じゅう……しん? ……何だそれは、レティシア! パパには専門用語はわからん!」


「……右足の付け根にある、三番目のジョイント! ……そこに、お父様の魔力を『一点に圧縮』して、叩き込んでください! ……波のように、一回ではなく『三連続』の衝撃で!」


私は即座に、目視による「物理演算」を開始しました。


ゴーレムの歩幅、質量、空気抵抗、そして錆びた関節の摩擦係数。


システムさんのサポートがないため、すべて私の「生身の脳(CPU)」による手動計算です。


F_impact = m * (dv / dt)


(……三秒後の接地タイミング。……角度は45度。……お父様の出力を最大にすれば、共振(レゾナンス)で内部構造を破壊できる!)


「……お兄様! 予備の『魔力バッテリー』を私に投げて! ……信号がダメなら、直接(有線)で繋ぐわ!」


「……! 了解だ、レティシア!」


お兄様が投げたクリスタルを、私は三歳児の小さな手で必死にキャッチしました。


それをL-Padの外部端子に強引に差し込み、私の魔力を「ブースト用冷却材」として流し込みます。


「――お父様、今よ! ……『一、二、三』のテンポで、叩いて!!」


お父様は、私の言葉を1bitも疑うことなく、ゴーレムの懐へ再突入しました。


「――おおぉぉりゃぁぁぁ!!」


ドォォォン! ドォォォン! ドォォォォォン!!


三連撃。


お父様の放った衝撃波が、ゴーレムの右脚に吸い込まれるように着弾しました。


直後――。


ギギギィ……パキィィィィン!!


「……なっ!? ……ば、馬鹿な! ……我が家の守護神が、あんなデタラメな攻撃で……!」


デ・マルク侯爵が目を見開きました。


ゴーレムの巨大な身体が、まるでガラス細工が壊れるように、右脚から派手に崩壊し始めたのです。


私が計算した通り、特定のタイミングで与えられた衝撃が、ゴーレムの内部にある「命令石版(プロセッサ)」の耐久限界(エラー)を引き起こし、システムの緊急停止(カーネルパニック)を誘発させたのです。


「……ふぅ。……『オフライン・デバッグ』完了、ね」


私は膝をつき、激しい頭痛に耐えながら、崩れ落ちるゴーレムを見上げました。


演算負荷が高すぎて、脳がオーバーヒート寸前です。


「……レティシア! よくやった! ……さあ、仕上げだ!」


お父様が崩壊したゴーレムの瓦礫を蹴り飛ばし、逃げ出そうとするデ・マルク侯爵の襟首を掴み上げました。


「……お、降参だ! 離せ! ……私は王宮の功労者だぞ、こんな扱いは許されん!」


「……黙れ。……私の娘を、あんなゴミ屑で押し潰そうとした罪は重い。……お前はこれから、王宮の地下牢という名の『隔離サーバー』で、一生反省してもらうぞ」


お父様の殺気立った声に、侯爵は腰を抜かして失神しました。


その時でした。


「沈黙の霧」が霧散し、周囲に再びL-NETの電波が戻ってきました。


《……復旧。……通信を再開します。……申し訳ありません、レティシア様。……未知のノイズにより、一時的にシャットダウンしていました。……怪我はありませんか?》


(……大丈夫よ、システムさん。……おかげで、たまには『手計算』も悪くないって再確認できたわ)


私がふらつく足で立ち上がろうとすると、背後から誰かが私を抱きしめました。


ユリウス王子です。


「……無事か、レティシア! ……通信が途切れたのを見て、すぐに騎士団を向かわせたんだが……。……まさか、自分たちだけで解決してしまうとはね」


「……ユリウス様。……遅いですわよ。……『緊急サポート窓口』への電話が、一番繋がってほしい時に繋がらないなんて、仕様として失格ですわ」


私はわざと不機嫌そうな顔をして、ユリウスの胸を小さな拳でポカポカと叩きました。


ユリウスは、困ったように、しかし愛おしそうに私を見つめ、私の額に滲んだ汗を指で拭いました。


「……すまない。……次は、私が君の『専用回線(専属騎士)』として、どんなノイズの中でも君の声を聞き取ってみせよう」


(……もう、この王子様は……。……隙あらば『独占ライセンス』の契約を結ぼうとするんだから)


こうして、聖教国のハッキングに続き、国内のレガシー勢力による「物理攻撃」も退けたレティシア。


しかし、今回の事件で明らかになったのは、自身の「肉体(ハードウェア)」の脆弱性と、強力すぎる「管理者権限」が招く嫉妬の嵐でした。


「……お兄様。……明日から、私の『物理防御パッチ(筋トレ)』のメニュー、二倍に増やして」


「……えっ。……レティシア、三歳児に筋トレはまだ早いんじゃ……」


「……いいえ、筋肉こそが最強の『バックアップ』よ。……パパを見てればわかるわ」


月夜の下、公爵家の馬車はゆっくりと走り出しました。


三歳の聖女は、次なるアップデート――「全土ネットワークのセキュリティ強化」と「自身のフィジカル強化」という、相容れない二つのタスクを並列処理しながら、静かに眠りに落ちるのでした。


【第11章 完】

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