オフ会開催? 王立魔導学院のパーティーで『老害魔導師』を論破します
「……あー、帰りたい。今すぐログオフして、自室のベッドという名のサーバーにマウントされたい」
豪華絢爛な王立魔導学院の大ホール。
私はお父様に抱っこされながら、視界に入る「無駄に高出力な照明魔法」や「非効率な魔力循環を繰り返す噴水」を眺めて溜息をついていました。
今日の私は、公爵令嬢としての正装――フリルとレースをこれでもかと盛り込んだ、まさに「過剰なUI」のようなドレスに身を包んでいます。
「レティシア、そんな顔をしないで。今日は王太子殿下が主催する、この国の『知の最高峰』が集まる場なんだ。パパも鼻が高いよ!」
「お父様、知の最高峰っていうのは、効率を追求する人のことを言うのよ。……ここにいるのは、過去の栄光という名の『キャッシュ』に浸っているだけの人たちが多そうだわ」
お父様は私の皮肉を「賢い娘の独り言」としてスルーし、意気揚々とホールを進みます。
その後ろを、いつになく真剣な表情のシエルお兄様が、L-Padを抱えて歩いていました。
「……レティシア、油断しないで。今日のパーティーには、宮廷魔導師団の重鎮たち……いわば、この国の『レガシーな魔導OS』を保守してきた老人たちが大勢来ている。彼らにとって、君のL-NETは自分たちの仕事を奪う『未知のウイルス』に見えているはずだ」
「お兄様、それは最高の褒め言葉ね。……古いOSが新しいパッチを拒むのは、脆弱性が露呈するのを恐れているからよ」
私たちが談笑(?)していると、案の定、行く手を阻むように三人の老魔導師が立ちはだかりました。
その中心にいるのは、以前からL-NET導入に否定的な態度を見せていたデ・マルク侯爵です。
「……ふん、これが噂の『三歳の聖女』か。……公爵殿、子供のお遊びに国中の魔力を繋ぐなど、正気の沙汰とは思えん。魔導とは、選ばれし者が長年の修行の末に辿り着く『深淵』なのだ。それを……あのような板切れ(L-Pad)で、平民にまで開放するなど!」
デ・マルク侯爵は、私のL-Padを汚物でも見るかのような目で見つめました。
周囲の魔導師たちからも、同意するような囁き声が漏れます。
「左様。……先日の聖教国の攻撃を防いだというのも、どうせ偶然が重なったか、あるいは誇大広告でしょう。……あの程度の術式、我ら宮廷魔導師が本気を出せば、もっと優雅に解決できたはずだ」
(……出たわね。現場を見てもいないのに、後出しジャンケンで仕様変更を迫ってくる『老害クライアント』)
私はお父様の腕からぴょんと飛び降りると、ドレスの裾を摘んで完璧なカーテシーを披露しました。
外見は三歳の愛くるしい幼女ですが、中身は数々のバグを屠ってきたSEです。
「……デ・マルク侯爵、および宮廷魔導師の皆様。……皆様の仰る『深淵』という言葉、非常に興味深いですわ。……では、その『深淵』に基づいた、皆様が誇る『王宮守護結界』のソースコード……いえ、構成術式を、今この場で見せていただけますか?」
「……なっ!? ……構成術式だと? ……あれは我が国の最高機密。……三歳の小娘に見せてわかるようなものではない!」
「……いいえ、わかりますわ。……だって、今この瞬間も、そこにあるシャンデリアの魔力供給ラインが、結界の基幹回路と干渉して、魔力が30%も無駄に漏電しているのが見えていますもの」
私の言葉に、会場が一瞬で静まり返りました。
「……ろ、漏電だと!? ……馬鹿な、この王宮の結界は完璧に調整されている!」
「……システムさん、対象の術式を『可視化』して。一番分かりやすいところにエラーを強調して投影」
《了解。……王宮第一層結界の論理構成をL-Padの投影機能により展開。……重複定義(二重定義)および、不要な再帰処理を赤色で強調します。》
私がL-Padを操作すると、空中に巨大な、そして極めて複雑に絡み合った魔法陣のホログラムが浮かび上がりました。
それは美しく見える反面、無駄な回路が何重にも重なった、典型的な「スパゲッティ・プログラム」でした。
「……これを見てください。……ここ、第123層目の循環回路。……これ、三百年前に廃止されたはずの旧式コマンドが、消されずにそのままコメントアウトもされず残っていますわ。……そのせいで、常に無意味な演算が繰り返され、術者の魔力を無駄に消費し続けている。……いわば、システムの『肥大化』ですわね」
「……な、なんだこの赤い点滅は……!? ……そ、そんなはずは……我が師から受け継いだ完璧な術式が……」
老魔導師たちは、目の前に突きつけられた「自分のコードのバグ」を直視できず、顔を真っ赤にして震えています。
「……さらに言わせていただければ。……この『深淵』とやらを維持するために、毎年どれだけの予算(税金)が投入されているか、皆様はご存知かしら? ……私のL-NETなら、この結界の10倍の強度を、わずか100分の1のコストで、しかも『全自動』で維持できます」
「……こ、小賢しい! ……数字や効率だけで、魔導の真理が語れるか!」
デ・マルク侯爵が杖を振り上げ、威圧的な魔力を放ちました。
会場に緊張が走ります。
しかし、その魔力が私に届くより早く、涼やかな声が割って入りました。
「――そこまでだ、侯爵。……私の招待客に対して、随分な『コードレビュー(公開処刑)』を行ってくれているようだが」
人混みを割って現れたのは、ユリウス王子でした。
彼は楽しそうに私のL-Padに浮かぶホログラムを眺め、それから老魔導師たちを冷ややかな目で見据えました。
「……殿下! ……この娘は、我ら宮廷魔導師団の誇りを汚しております!」
「……誇り? ……侯爵、私はレガシーな誇りよりも、実動するシステムの方が好きでね。……レティシアの指摘は、先ほど王立アカデミーの研究員たちが検証し、『完全に正しい』との結論を出した。……君たちが『深淵』と呼んでいたものは、ただの『メンテナンス不足のゴミ箱』だったというわけだ」
ユリウスの一言に、老魔導師たちは力なく膝をつきました。
……完全勝利(完全論破)です。
「……助かりましたわ、ユリウス様。……おかげで、無駄な通信(押し問答)を終了できました」
「……礼には及ばないよ、レティシア。……だが、君がこれほど鮮やかに『旧勢力』を解体してみせるとは。……ますます君という『OS』を、我が国の独占ライセンス(王妃)として登録したくなったよ」
ユリウスは私の手を取り、周囲の視線も構わず、またしてもあの獲物を狙うような微笑みを向けました。
「……そのライセンス、使用料(保守費用)は世界一高いですわよ? ……それに、現在『マルチユーザー』への開放を優先しておりますので、専属契約(独占)は受け付けておりません」
「……ふっ、いいだろう。……ならば、私が君の『唯一無二のサーバー』になれるよう、まずはこの学院のすべての設備を君に開放しよう。……さあ、パーティーはこれからだ。……君の技術が、この国の未来をどう『再起動(再起動)』させるのか、全員に見せてやるといい」
ユリウスに導かれ、私はホールの中心へと進みます。
そこには、老害魔導師たちとは違い、目を輝かせてL-Padを見つめる若い研究者や学生たちが集まっていました。
(……ようやく、この国の『開発環境』が整い始めたわね)
三歳の聖女による、レガシーシステムの強制終了と、新時代のデプロイ。
パーティーの音楽が鳴り響く中、レティシアの野望は、王国の隅々まで広がる「光の回路」となって加速していくのでした。
しかし、その影で、論破されたデ・マルク侯爵は、手元の通信魔導具で不穏な連絡を取り合っていました。
「……ええ、準備を。……あの娘のシステムを、物理的に『シャットダウン(抹殺)』する時が来たようです……」




