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『死ぬほど愛されたい』と願ったら、最強の公爵家に転生して家族の愛が重すぎます!〜赤ちゃん令嬢は『慈愛の眼』で今日もデレを解析中〜  作者: 五十嵐紫
第11章:王太子編:初恋の相手(?)が、私のシステムに『プロポーズ(ハッキング)』してきました

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ログに刻まれた『恋文』? ユリウス王子の不穏なアプローチ

「……ねぇ、システムさん。もう一度昨夜のアクセスログを、バイナリ単位で精密スキャンして。……特に、王太子の私室から発信された、あの『暗号化パケット』の中身よ」


聖教国の攻撃を退けた翌日の午後。


私は王宮の一角にある東屋で、お兄様に用意してもらった特製ハーブティーを飲みながら、L-Padの画面を睨みつけていました。


《了解。……パケットの解析(デコンパイル)を完了しました。……内容は軍事的な攻撃コードではなく、極めて高度に暗号化された『定型文』です。……翻訳します。――『親愛なる管理者に告ぐ。君のシステムに、私の全資産(ロイヤル・リソース)を統合し、共同管理者としての永久的な読み書き権限(フルアクセス)を要求する』。》


(……はぁ? ……これって、まさか)


《補足。……前後の文脈と、王宮の古い婚姻法に基づいた術式構成から推測するに、これは現代のIT用語で言うところの『事業統合(M&A)』、一般的には『プロポーズ』に該当する暗号文です。》


「……ぶっ!!」


私は思わず、口に含んでいたハーブティーを吹き出しそうになりました。


三歳の幼女が、真っ昼間から真っ赤な顔をしてL-Padを叩いている姿は、周囲から見れば微笑ましいお遊びに見えるでしょうが、私の脳内は現在、未曾有の「セキュリティ・アラート」が鳴り響いています。


「……レティシア、行儀が悪いよ。……どうしたんだい? そんなに激しいパケット(動揺)を隠さないなんて、君らしくないじゃないか」


隣で優雅に読書をしていたお兄様のシエルが、呆れたようにハンカチを差し出してくれました。


「……お、お兄様。……聞いて。……ユリウス王子が、私のL-NETに『勝手にポエムを流し込んできた』のよ。……しかも、婚姻関係による『管理者権限の共有』っていう、最悪に非効率な条件付きで!」


「……えっ!? ……ユリウス様が……君に? ……いや、彼は確かに君の才能を高く評価していたけれど、まさかこのタイミングで『直接ログイン』を試みるとはね」


シエルが眼鏡を押し上げ、鋭い視線を空へ向けました。


「……王家にとって、君の構築したネットワークは、もはや喉から手が出るほど欲しい『最強のインフラ』だ。……それを手に入れる最も手っ取り早い方法は、システムを買い取ることじゃない。……開発者(レティシア)を、自分たちの『身内』に取り込むことだ」


「……あいつ、私を『独占禁止法違反』で訴えるどころか、自分が独占する側に回るつもりなのね……」


私が苛立ちまぎれにキーボードを叩こうとした、その時でした。


「――お邪魔かな、愛しき『聖女様』」


背後から、柔らかく、しかし有無を言わせぬ圧を持った声が響きました。


そこに立っていたのは、光り輝くような金髪をなびかせ、完璧な微笑みを湛えた第一王子、ユリウス・フォン・王太子その人でした。


「……ユリウス様。……昨夜は、私のサーバーに不法侵入してくださったそうで。……おかげで、セキュリティの脆弱性調査(ペネトレーションテスト)の手間が省けましたわ」


私は椅子から降りることなく、冷ややかな視線を向けました。


三歳の幼女が第一王子に対してとる態度ではありませんが、私にとって彼は現在、「勝手にシステムにバックドアを作ろうとしている不届きなユーザー」でしかありません。


ユリウスは、私の無礼を気にする風もなく、むしろ楽しそうに笑って私の隣に腰を下ろしました。


「……ははは、相変わらず手厳しいな。……だが、不法侵入だなんて人聞きが悪い。……私はただ、私自身の『未来の仕様書』を君に共有したかっただけだよ」


「……その仕様書、だいぶ『設計ミス』が目立っていましたけど? ……特に、私のプライベートな領域に共有フォルダを作るっていう項目、あそこは永久に『アクセス拒否(403 Forbidden)』ですから」


「……おや、それは残念だ。……君のシステムと私の権限(ロイヤル・オーソリティ)が完全に同期(シンクロ)すれば、この国は千年続く『バグのない楽園』になるというのに」


ユリウスは身を乗り出し、私のL-Padの画面を覗き込んできました。


彼の瞳には、純粋な好意だけでなく、レティシアという「最強の道具」を手に入れようとする、冷徹な計算高さが混じっています。


「……ユリウス様、一つ教えて。……あなたは、私という人間が好きなの? ……それとも、私の作った『システム』が欲しいだけ?」


「……どちらも、と言ったら信じてくれるかな? ……君という開発者がいてこそのシステムだ。……君の描く数式、君の紡ぐコード、そして、それらを操る君の冷徹なまでの美しさ。……私はそのすべてを、王室の『秘密(変数)』として保護したいんだ」


「……『保護』という名の『暗号化(ロック)』でしょ? ……ごめんなさい、私、オープンソース(自由)な環境が好きなの。……一人のユーザーのために、全リソースを割くつもりはありません」


私はL-Padを操作し、ユリウスの目の前に一枚の「論理回路図」を投影しました。


R_access = { 1 if (User = Public), 0 if (User = Royal & Request = Exclusive) }


※ここで R_accessはアクセス許可、条件は「王族による独占要求」があった場合に「0(拒否)」を返す。


「……これが私の答えです。……あなたが私と対等に話をしたいなら、まずは『管理者ログイン』なんて卑怯な真似はやめて、一人の『一般ユーザー』として、私のサービスの品質向上に貢献してください」


ユリウスは、投影された回路図をしばらく眺めていましたが、やがて小さく、しかし低く笑い声を上げました。


「……くくっ、……あははは! ……素晴らしい! ……やはり君は、私の想像を遥かに超えている。……数式で振られるなんて、王族の歴史始まって以来の快挙だよ」


彼は立ち上がると、私の手首をそっと取り、その手の甲に恭しくキスをしました。


「……いいだろう。……昨夜の『不法ログイン』は、私の負けだ。……だが、レティシア。……システムの脆弱性は、いつか必ず見つかるものだ。……君がいつか、一人では処理しきれない『無限ループ(孤独)』に陥った時、そのバックアップを受け持つのは私だと、改めてログに刻んでおいてくれ」


ユリウスは、最後まで完璧な王子の微笑みを崩さないまま、優雅な足取りで去っていきました。


彼の姿が見えなくなると、私は深く、深く溜息をつきました。


「……お兄様。……あの人、絶対に諦めてないわよね」


「……そうだね。……昨夜のログインは、ただの『ポートスキャン(様子見)』だったんだろう。……ユリウス様は、君のガードが固ければ固いほど、より高度な『ハッキング』を仕掛けてくるタイプだ」


シエルが眉をひそめながら、私のL-Padに新しい暗号キーを生成してくれました。


「……レティシア、次のアップデートでは、王族専用の『ハニーポット(罠)』を設置しておいたほうがいいかもしれないよ」


「……賛成だわ。……あんなに顔が良くて頭も切れるユーザーに、毎日『管理者権限をください』なんて粘着されたら、私の開発効率が落ちてしまうもの」


私は、ユリウスのログイン履歴を強制的に「スパムフォルダ」へと移動させました。


しかし、心拍数のログが微かに乱れているのを、システムさんは見逃しませんでした。


《解析。……レティシア様の心拍数に、不自然な『オーバークロック(高揚)』を確認。……原因は、ユリウス王子の外見パラメータによる物理的な影響(顔が良すぎること)と推測されます。……冷却ファン(扇風機)の使用を推奨します。》


(……っ、うるさいわよ! ……あれはただの『電圧の乱れ』よ!)


三歳の聖女と、野心溢れる王太子の「管理者権限争奪戦」。


それは、甘いプロポーズという形を借りた、この国で最も危険なハッキング対決の幕開けでした。


その夜、レティシアのL-Padに、ユリウスから一通の「公式メッセージ」が届きます。


それは、彼が主催する「王立魔導学院の設立パーティー」への招待状――。


そこには、レティシアの技術を公に「査定」しようとする、王室側の罠が待ち構えていたのでした。

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