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『死ぬほど愛されたい』と願ったら、最強の公爵家に転生して家族の愛が重すぎます!〜赤ちゃん令嬢は『慈愛の眼』で今日もデレを解析中〜  作者: 五十嵐紫
第9章:聖女の里帰り編:地元に帰ったら、領地のIT化が爆速で進んでいました

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IT格差? 隣の領地から「うちの畑も自動化してくれ」と苦情(要望)が来ました

公爵領の境界線。そこには、物理的な柵以上に残酷な「境界」が生まれていました。


グランヴェル領側では、魔導ドローンが規則正しいハミングを奏でながら肥料を撒き、農民たちがカフェテラスのような休憩所でL-Padを眺めて笑っています。対する隣領、バロウ伯爵領側では、泥にまみれた農夫たちが重い腰をさすりながら、手作業で麦を刈り取っていました。


(……ねぇ、システムさん。このコントラスト、ちょっとマズくない? まるで未来都市と中世の村が隣り合わせになってるみたいなんだけど)


《解。……現在のグランヴェル領の生産効率は、周辺領地の平均を約1,200%上回っています。……また、最適化された物流ネットワークにより、当領地の産物は価格・品質ともに圧倒的であり、近隣領地の経済を無自覚に圧迫(魔導ダンピング)しています。》


(……あちゃー。悪気はなかったんだけど、市場独占モノポリー状態になっちゃってるのね)


公爵邸の応接室には、重苦しい空気が漂っていました。


そこに座っているのは、使い込まれた古い軍服を着た、頑固そうな老人――バロウ伯爵です。彼は、お父様に向かって拳を机に叩きつけました。


「アラリック公爵! お主のところの『魔法の板』だか何だか知らんが、いい加減にしろ! 我が領の若者たちが、『グランヴェルのように楽がしたい』と言って、夜逃げ同然にそっちへ流れているのだぞ!」


「落ち着け、バロウ。……それは当領地の魅力が……いや、私の娘のレティシアが天才すぎるのが原因だ。嫉妬は見苦しいぞ」


「嫉妬ではない、死活問題だ! お主の領地から流れてくる安くて美味い麦のせいで、我が領の市場は崩壊寸前だ。これはもはや経済戦争ではないか!」


お父様は鼻で笑いながら、優雅に紅茶を啜っています。しかし、その背後で控える私は、お父様の「無自覚な強者の慢心」が火に油を注いでいるのを感じ取っていました。


「……あの、お父様。バロウ伯爵様。少しお話よろしいでしょうか?」


私が三歳児らしい(わざとらしい)愛嬌を振りまきながらトコトコと歩み寄ると、バロウ伯爵は毒気を抜かれたように目を見開きました。


「……む、この子が噂の『聖女』か。……まさか、この小さな子がそんな恐ろしい仕掛けを……」


「伯爵様。……技術の進歩は、本来誰かを苦しめるためのものではありません。……もしよろしければ、バロウ領にも私たちの『L-OSレティシア・オペレーティング・システム』をライセンス提供(技術提供)しましょうか?」


「ら、らいせんす……? なんだ、その呪文は」


私はL-Padを操作し、空中にお父様の領地とバロウ領を繋ぐ「地脈の構成図」を投影しました。


「……見てください。バロウ領の土地は、実は私たちの領地よりも魔力の伝導率が良いんです。……ただ、適切な『プロトコル(規約)』が定義されていないために、マナが地表で散逸してしまっている。……これでは、せっかくの肥沃な大地も宝の持ち腐れです」


「……マナが……漏れているというのか?」


「はい。……そこで提案です。バロウ領の主要な農地に、当領地で使用している『魔導リピーター(中継器)』を設置させてください。……そして、当領地のメインサーバー(私の部屋の水晶)と『相互運用性インターオペラビリティ』を持たせるんです」


お兄様のシエルが、補足するように眼鏡をクイッと上げました。


「……なるほど。レティシア、君は『地域共同クラウド(リージョナル・クラウド)』を構築しようとしているんだね? バロウ領の地脈リソースをこちらに提供してもらう代わりに、僕たちの演算能力を共有する……。まさに、Win-Winの関係だ」


「……そうよ。……伯爵様。技術を独占すれば、短期的には私たちが儲かります。……でも、お隣が貧しくなって、治安が悪化したり、物流が止まったりするのは、私たちにとっても『リスク』なんです。……みんなで同じOSを使えば、開発コストも下がりますしね」


バロウ伯爵は、私の言葉の半分も理解できていない様子でしたが、投影されたグラフが示す「収穫予想のV字回復」を見て、喉を鳴らしました。


「……お、お主の言う通りにすれば……我が領の麦も、その……『スマート・アグリ』とやらに対応できるのか?」


「もちろんです。……ただし、一つだけ条件があります。……導入するシステムの設定コンフィグは、すべて私の管理下(グランヴェル方式)に従っていただきます。……勝手なパッチ当てや、独自の魔改造は禁止です」


私は、三歳児とは思えない鋭い目つきで念を押しました。……セキュリティホールを勝手に作られては困りますからね。


数日後。


バロウ領の農地には、グランヴェル領の技術者(という名の、教育された魔導師たち)が派遣されました。彼らは慣れた手つきで魔導板を操作し、地脈のノードを接続していきます。


「……よし、接続リンク完了! ……バロウ領セクターA、オンラインです!」


私の手元のL-Padに、隣領のデータが流れ込んできました。


《通知。……新規ノードを検知。……バロウ領の地脈同期率、80%を突破。……最適化ルーチンを開始します。》


すると、どうでしょう。


これまで茶色く乾いていたバロウ領の土壌から、キラキラとした魔力の粒が溢れ出し、枯れかけていた苗が一斉にシャキッと背筋を伸ばしたのです。


「……おぉぉ! なんだ、これは!? 土が……土が生きているようだ!」


バロウ伯爵が、地面に膝をついて叫びました。


「……伯爵様。……これが『共通基盤プラットフォーム』の力です。……今、バロウ領は当領地と同じ『マナ・アップデート』を受け取りました。……明日からは、そちらの農民の方々のL-Padにも、『最適な肥料の配合』や『天候予測』が届くようになりますよ」


私は、満足げに頷きました。


これで「IT格差」による争いは回避されました。……それどころか、隣領を私のシステムの「クライアント」にすることで、より広大なデータの収集が可能になったのです。


(……ふふ。……周辺領地を次々と『レティシアOS』で染めていけば……最終的にはこの国全体のシステムを、私が一括管理リモート・メンテナンスできるようになるわね)


私の脳内では、すでに「王国全土のスマート化計画」のロードマップが、ガントチャートとなって流れていました。


しかし、この「急速なデジタル化」は、思わぬ方向に波及し始めます。


「……レティシア様! 大変です! ……バロウ領とのネットワークが開通した直後から、領民たちの間で『オンライン・オークション』が爆発的に流行り始めました!」


セバスが慌てて駆け込んできました。


「……オークション? ……何を出品してるのよ」


「……それが、当領地の『全自動お掃除ゴーレム・マークⅡ』の試作機が、バロウ領の豪農たちの間で高値で取引されておりまして。……さらに、バロウ領の特産品である『熟成チーズ』が、こちらの領民の買い占めにあい、価格が暴騰しております!」


(……自由貿易の解禁による、市場の混乱ボラティリティね。……ECサイトの整備もしてないのに、勝手にCtoC取引を始めちゃうなんて、みんな順応性が高すぎよ!)


さらに追い打ちをかけるように、L-Padにある通知が届きました。


《警告。……周辺のさらに五つの領地(子爵領、男爵領など)から、『なぜバロウ領だけ優遇するのか』『うちの領地にも光回線(地脈通信)を引け』という嘆願書チケットが、現在1,500件以上スタックしています。》


「……あ。……カスタマーサポートがパンクした」


お父様とお兄様が、山積みになった手紙(物理)と、鳴り止まないL-Padの通知音を見て、顔を引きつらせています。


「レティシア……。……パパは嬉しいが、これでは領地経営というより、『システムの保守運用』で一日が終わってしまうぞ……」


「……お父様。……これが『プラットフォーマー』の宿命ですよ。……覚悟を決めてください。……今夜は、周辺諸領主を集めた『大規模オンライン説明会ウェビナー』を開催します!」


三歳の聖女は、溢れかえる「要望バックログ」を華麗にさばきながら、自らの影響力が国家レベルの「インフラ」へと進化しつつあることを、確信するのでした。


格差を埋めるために手を貸したつもりが、いつの間にか「全領地のシステム管理者」へと祭り上げられてしまったレティシア。


彼女の「里帰り」は、もはや休暇ではなく、王国史上最大の「システム統合プロジェクト」へと変貌を遂げていたのです。

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