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『死ぬほど愛されたい』と願ったら、最強の公爵家に転生して家族の愛が重すぎます!〜赤ちゃん令嬢は『慈愛の眼』で今日もデレを解析中〜  作者: 五十嵐紫
第9章:聖女の里帰り編:地元に帰ったら、領地のIT化が爆速で進んでいました

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領民全員エンジニア? 公爵領で始まった『ハッカソン』に聖女が参戦します

「昨日の今日でこれなの……?」


私が朝、目覚めて最初に目にしたのは、天井に投影された巨大な『イベントスケジュール』のホログラムでした。


(……ねぇ、システムさん。私の部屋の壁、いつの間にか全面プロジェクター仕様になってるんだけど。誰が施工したの?)


《解。……昨夜、レティシア様が就寝された後、領都の『工務魔導エンジニア・ギルド』の有志100名が、音消し魔法サイレンスを併用して超高速施工を行いました。……目的は、本日開催される『第1回グランヴェル・イノベーション・ハッカソン』の告知です。》


(……領民の技術スキルが、もはや隠密ステルスの領域にまで達してるじゃない。……っていうか、ハッカソンって何よ。誰がそんな単語を教えたのよ)


鏡を見ると、パジャマ姿の三歳児が、絶望的な顔で頭を抱えていました。

階下からは、お父様の豪快な笑い声と、お兄様の興奮した声、そして……何やら「カチカチ」という、大量のキーボード(魔導板)を叩く音が聞こえてきます。


公爵邸の広場。そこは、私が知っている「優雅な貴族の庭園」から、完全に「テック企業の展示会」へと変貌を遂げていました。


テントが並び、その中では領民たちが熱心にL-Pad(魔導板)を操作し、空中に浮かぶ半透明のソースコードを弄っています。

中には、農作業着のまま「コードの最適化こそが真の肥やしだ!」と叫んでいるおじさんまでいます。


「レティシア! お目覚めかい? さあ、見てごらん! 今日は君の帰還を祝して、領地で最も優れた『プロダクト』を決める大会……君の言葉を借りれば『ハッカソン』を開催することになったんだ!」


お父様(アラリック公爵)が、満面の笑みで私を迎えました。


「……お父様。……まさか、私が審査員なの?」


「もちろんだ! 我が娘に認められることこそ、領民たちの最高の名誉だからな!」


(……いや、三歳児に審査される大人たちって、どうなのよ)


その隣では、お兄様のシエルが、すでにスタッフ用のTシャツを着ていました。


「レティシア、僕は今日は『技術部門のサポートスタッフ』だよ。……いやぁ、領民たちがこんなに自主的に技術を開発するようになるなんて、感慨深いね」


「……お兄様まで、すっかりイベント運営側じゃない」


「だって楽しそうじゃないか」


お兄様は、いつになく楽しそうに笑いました。


さらに、その後ろではセバスがL-Padを片手に、参加者の管理を行っています。


「参加者登録、完了しました。……現在、エントリー数は327件です」


「……327!?」


「はい。農業部門、工業部門、生活部門、魔導研究部門など、多岐にわたっております」


「……一晩でよくそこまで集めたわね」


「皆様、レティシア様に成果を見ていただきたい一心で、昨夜はほとんど眠っておりません」


「…………」


私は頭を抱えました。


(……私が帰ってきたことで、領民たちの技術競争に火がついちゃったのね)


《通知。……領内の技術開発意欲が前日比で340%上昇しています》


(……数字で言われると余計に怖いわ)


やがて、会場中央の巨大な時計型魔導具が光り始めました。


《第1回グランヴェル・イノベーション・ハッカソン、開始します》


「「「おおおおおおおおっ!!」」」


大歓声が上がりました。


私は審査員席へと座らされました。


左右には、お父様とお兄様。


そして、正面には大勢の領民たち。


(……本当に始まっちゃった)


「エントリーナンバー1番!」


最初に壇上へ上がったのは、農家の男性でした。


「俺が作ったのは、『完全自動・作物健康管理システム』です!」


彼がL-Padを操作すると、畑の映像が空中に表示されました。


「土壌の水分、温度、養分、日照量を全部リアルタイムで計測し、作物ごとに最適な水やりと肥料の量を自動計算します!」


「……これはいいわね」


私は思わず身を乗り出しました。


「去年までの『スマート・アグリシステム』を、さらに個々の作物単位まで細分化してる。……無駄な散水も減るし、収穫量も上がるわ」


「本当ですか!?」


男性の顔が輝きました。


「はい。合格候補ね」


「ありがとうございます!」


会場から拍手が起こりました。


続いて、二番目の参加者。


「俺は、『自動お掃除ゴーレム』を開発しました!」


小さなゴーレムが壇上を走り回り、床に落ちた埃を吸い込んでいきます。


「……なるほど」


私はゴーレムを観察しました。


「障害物回避機能は?」


「あります!」


「階段は?」


「対応しています!」


「水場は?」


「……まだです!」


「じゃあ、次のアップデート課題ね」


「はい!」


領民たちは、私の言葉を一つ一つ真剣にメモしていました。


(……なんだか、学校の先生になった気分ね)


三番目。


「私は、家畜の健康管理システムを作りました!」


豚の体温、食事量、睡眠時間、活動量までL-Padに表示されます。


「……豚に睡眠時間まで必要なの?」


「はい! これを導入してから、豚のストレス値が大幅に下がりました!」


(……畜産DXが進みすぎてる。豚にメンタルケアが必要な時代なのね)


四番目。


「私は、商店向けの在庫自動管理システムです!」


そして五番目。


「エントリーナンバー5番! 鍛冶屋のトムです! 『無限・高速・自動研磨機(クラウド同期型)』を作りました! 研ぎ具合のデータをクラウドに上げれば、他の鍛冶屋と『切れ味の偏差値』を競い合えます!」


(……職人の世界にまで競争アルゴリズムを導入しちゃった。砥石のIoT化なんて聞いたことないわよ)


プレゼンが進むにつれ、会場の熱気は高まっていきます。


しかし、エンジニアとしての私の目は、ある深刻な問題に気づき始めました。


(……ねぇ、システムさん。彼らのコード……っていうか術式の構成、見て。……動いてはいるけど、かなり『無理』をしてるわよね?)


《肯定。……全プロダクトにおいて、過剰な魔力消費オーバーヘッドが発生しています。……特に、バックエンドの処理をすべて地脈のメインサーバー(私)に丸投げしているため、このままでは30分後に領地のネットワークがパンク(ダウン)します。》


(やっぱり……。……みんな、『動けばいい』の精神でコードを書きすぎなのよ。これ、典型的な『技術的負債』の山じゃない!)


その時、一人の若い女性が壇上に上がりました。


彼女は、私が以前「回覧板のデジタル化」を手伝った、村の受付嬢のマリーさんでした。


「レティシア様、見てください! 私たちが作ったのは……『レティシア様・追っかけ専用・高精度位置トラッキング・システム』です! 領内のどこにレティシア様がいても、0.1秒で捕捉し、全領民のL-Padに『今、右側の頬っぺたを膨らませました!』と通知が飛びます!」


会場から「おおおおぉぉぉ!」という地響きのような歓声が上がりました。


お父様に至っては「素晴らしい! 採用だ! 国全土に展開しろ!」と立ち上がって拍手しています。


(……プライバシーの侵害(個人情報漏洩)もいいところよ! しかもこれ、無駄にリアルタイム・レンダリングしてるから、魔力の帯域をめちゃくちゃ食ってるじゃない!)


《警告。……領内ネットワークの負荷が95%を超えました。……メインコア(レティシアの自室の水晶)が臨界点に達します。……カウントダウン開始。》


「……ちょっと、お父様もお兄様も盛り上がってる場合じゃないわ! このままじゃ、領地中の魔導板がショートして爆発するわよ!」


私はたまらず、審査員席を飛び出して壇上に上がりました。


三歳児の小さな体が、巨大なステージの真ん中に立ちます。


「……静かにして! ――『システム・割り込み(インタラプト)』!!」


私の声がスピーカー(拡声魔導具)を介さず、全領民の脳内に直接響きました。


一瞬で静まり返る会場。


「……みんな、やる気は認めるわ。でも、これじゃあダメよ。……コードが汚すぎる(スパゲッティすぎる)わ!」


「……汚い……? レティシア様、私たちの精一杯の魔術文字が……?」


ショックを受ける領民たち。


私はL-Padを操作し、会場の空中に巨大なデバッグ画面を展開しました。


「……いい? この『追っかけシステム』だけで、領地の魔力の半分を無駄遣いしてるわ。……おじさんの研磨機も、わざわざクラウドに上げる必要のないゴミデータまで送信しすぎ。……これ、全部一気に『リファクタリング(最適化)』するわよ!」


私は指を高速で動かし始めました。


三歳児の指先が残像となり、空中の文字が次々と書き換えられていきます。


[実行コマンド: Optimize_All_Active_Scripts ]

[処理: 不要なループの削除、パケットの圧縮、および非同期通信の実装 ]


「……豚のお悩み相談AIは、エッジ計算(端末側)で処理。……研磨機は、差分データだけを送信。……そしてこの『追っかけシステム』は……――『恒久的にアクセス禁止(アクセス拒否)』よ!!」


私がEnterキー(を模した魔法陣)を叩いた瞬間、会場中のL-Padが一斉に青い光を放ち、それから静かに安定したリズムで点滅を始めました。


《通知。……全ネットワークの負荷が8%まで低下しました。……処理能力が以前の100倍に向上し、地脈のストレスも解消されました。》


「…………あ。……魔導板の反応が、さっきよりずっと速い……」


「……術式が……透き通って見える……。これ、こんなに短く書けるものだったのか……?」


魔導師やエンジニア化した領民たちが、自分の手元の画面を見て震えています。


お父様も、感動したように私を見つめています。


「……レティシア。お前は本当に、すごいな……」


「……お父様。感心してる場合じゃありません」


「な、何?」


「このコード、まだ直すところが山ほどあります」


「…………」


お父様の顔が引きつりました。


お兄様は、なぜか嬉しそうです。


「僕も手伝うよ」


「お兄様……ありがとうございます」


「もちろん」


私は会場全体を見渡しました。


「……みんな、やる気はあるみたいね」


領民たちが一斉に姿勢を正します。


「だったら――」


私はL-Padを掲げました。


「今日から一週間、全員強制的に私の『コードレビュー』を受けてもらうわ。……覚悟はいいわね?」


会場は、一瞬の静寂の後、これまでで最大の歓声に包まれました。


「聖女様の直接指導だ!」


「これで俺たちのコードも『神の領域』に行けるぞ!」


(……この人たち、M(デバッグ属性)なのかしら。……まぁ、やる気があるのはいいことだけど)


お父様は「レティシアが壇上で皆を叱る姿も、天使のように神々しい……」と、新しい通知設定が消されたことにも気づかず感動していました。


こうして、『第1回ハッカソン』は、いつの間にか「レティシア先生による地獄のブートキャンプ」へと姿を変えました。


その夜。


私は自分の部屋で、領民たちが提出した「修正後のコード」を一枚ずつチェックしていました。


(……ふふ。……でも、この自動散水システムの改善案は、なかなかセンスがいいわね。……私の教えた基礎を、ちゃんと自分たちの生活に合わせて応用してる……)


《通知。……領地内の技術指数(IQ)が平均20ポイント上昇しました。……称号:【最強のCTO(最高技術責任者)】を獲得しました。》


(……CTO。……もう、どこまで出世させれば気が済むのよ)


私は、少しだけ誇らしげに微笑みながら、窓の外に広がる、今までよりもずっと静かで、けれど力強く明滅する領地の光を見つめました。


三歳の聖女兼CTOの夜は、まだまだ終わりそうにありません。

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