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『死ぬほど愛されたい』と願ったら、最強の公爵家に転生して家族の愛が重すぎます!〜赤ちゃん令嬢は『慈愛の眼』で今日もデレを解析中〜  作者: 五十嵐紫
第9章:聖女の里帰り編:地元に帰ったら、領地のIT化が爆速で進んでいました

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領地入り口のバイオメトリクス認証と、進みすぎた自動化

帝国での「デバッグ」を終え、ようやく住み慣れた王国へと帰還した私たち。馬車が国境を越え、グランヴェル公爵家の領地に入った瞬間、私の脳内システムが奇妙なパケットを次々と受信し始めました。


(……ねぇ、システムさん。このエリアの通信強度(電波)、王都より強くない? 地脈の帯域幅が、私が発つ前より明らかに拡張されてるんだけど)


《解。……グランヴェル領全域において、独自規格の魔導リピーターが多数設置されています。……ネットワークトポロジーを確認。……これはもはや単なる通信網ではなく、高度な「自律分散型スマートシティ」の挙動です。》


(……スマートシティ? 誰がそんな設計図を描いたのよ。私、まだそこまでのパッチは当ててないはずだけど……)


馬車の窓から見える景色は、のどかな農村……のはずでした。


しかし、そこには私の想像を絶する「近代化」の波が押し寄せていたのです。


「レティシア、見てごらん。領民たちがなんだか……とても活き活きとしているね」


お兄様のシエルが、窓の外を指差して苦笑いしています。


街道沿いの田畑では、農民たちがクワを振るう代わりに、小型の魔導ゴーレムたちが整然と列をなして種まきをしていました。


農民たちはその傍らで、私が開発した『L-Pad(魔導板)』を片手に、何やら複雑なグラフを確認しています。


「おお、我が領民たちよ! 私がいなくて寂しかっただろう! ……ん? なんだ、あの門の前の妙な光は?」


お父様(アラリック公爵)が首を傾げました。


領地の中心部へと続く大きな門の前には、以前はなかった水晶の柱が二本、立っています。


馬車が近づくと、その柱から青い光が走りました。


《スキャン中……。個体識別コード:001(アラリック・ド・グランヴェル)、002(シエル・ド・グランヴェル)、000(レティシア・ド・グランヴェル)を確認。……おかえりなさいませ、管理者様。……門を開放します。》


「……な、なんだ!? 門が勝手に喋り、勝手に開いたぞ!?」


「お父様、あれは……私が以前作った『簡易識別陣』を、誰かが勝手に『顔認証および魔力紋認証システム』にアップグレードしたみたいですね……」


私は額を押さえました。


どうやら、私が王都や帝国で暴れている間に、領地に残した「ベータ版」の技術を、領民たちが独自の解釈で魔改造してしまったようです。


公爵邸に到着すると、そこには執事のセバスをはじめとする使用人たちが整列して待っていました。


しかし、彼らの手には掃除道具ではなく、一人一台のL-Padが握られています。


「お帰りなさいませ、旦那様、シエル様。そして……我らがシステムの女神、レティシア様」


セバスが深々と頭を下げました。


その胸元には、『領地システム・チーフエンジニア』という身に覚えのないバッジが光っています。


「セバス、この状況を説明してもらえるかしら? この領地、たった数ヶ月で何が起きたの?」


「はっ。レティシア様が残された『L-NET』の構築指針を元に、領民たちが自発的に『効率化委員会』を結成いたしまして。……まず、以前お願いされていた『回覧板のデジタル化』を完了させました。現在、領地内の連絡事項は0.1秒で全戸に配信されます」


セバスは誇らしげにL-Padを操作しました。


「さらに、農作物の水分量や地中の養分をセンサー(魔導具)で常時監視し、最適なタイミングで自動散水する『スマート・アグリシステム』を導入。……結果、今年の収穫予想は例年の300パーセント増となっております」


「さ、三百パーセント……。サーバーのオーバークロックじゃないんだから……」


「さらに、領地内の物流は、レティシア様が帝国で使われていた術式を参考に開発した『空中配送ゴーレム』が担っております。……あ、ちょうど一便来ましたね」


セバスが空を指差すと、小さなプロペラのような魔法陣を頭上に展開した木箱型のゴーレムが、庭にふわりと着陸しました。


「……これ、私が帝国でデバッグした『浮遊術式』のパクリじゃない。……まさか、私のL-Padのログを解析して実装したの?」


「はい。領民の中の若手魔導師たちが、『レティシア様ならこう書くはずだ』と推測プロファイリングを重ねまして。……現在、領内のパケット透過率は、王都を凌駕しております」


(……恐ろしいわ。開発者が不在の間に、ユーザーコミュニティが勝手に進化して、本家を追い抜く魔改造を施すなんて。……オープンソースの鏡だけど、進みすぎよ!)


夕食の席でも、驚きは続きました。


お父様がお肉を切ろうとすると、テーブルの上に小さな投影画面ホログラムが浮かび上がりました。


[ 本日の献立:A級牛のステーキ ]

[ 摂取カロリー:850kcal ]

[ 塩分:1.2g ]

[ アラリック様の推奨摂取量まで、あと200kcal余裕があります ]


「……レティシア。……パパは、ただ肉を食べたいだけなんだ。……なぜ、板がパパの健康状態を管理しているんだ?」


「……お父様。それは多分、セバスたちが『健康管理API』を勝手に実装したせいですね。……お兄様、どう思います?」


お兄様は、自分のL-Padで何やらコードを確認しながら、目を輝かせていました。


「……すごいよ、レティシア! この領地のソースコード、君が書いた基礎カーネルをベースに、驚くほど美しく、かつ効率的に『枝分かれ(フォーク)』している。……領民たちは、君がいない寂しさを、君の技術を磨くことで紛らわせていたんだね」


「……紛らわせ方が過激すぎるわよ。……お兄様、これ放置しておいたら、来月には領地ごと空に浮いてる(浮遊都市化)んじゃない?」


「ははは、まさか。……でも、地脈の出力計算を見る限り、不可能ではないね」


「笑えないわよ!」


私は溜息をつきながら、デザートのプリンを口に運びました。


……あ、美味しい。


[ 通知:プリンの糖分を検知。……レティシア様の幸福度が5%上昇しました。 ]


(……もう、何でもかんでも数値化ロギングしないで!)


食後、私は少し疲れた体を休めるために、自分の部屋に戻りました。


しかし、部屋の扉を開けた瞬間、そこには以前よりもさらに巨大化した「メインサーバー(魔力水晶)」が鎮座していました。


「……ちょっと、システムさん。私の部屋、データセンターになってない?」


《肯定。……領民たちからの熱狂的な要望により、レティシア様の居室は『領地基幹システム(L-Root)』のバックアップ拠点として強化されました。……現在、領民たちからの『聖女様へのお便り』が、毎秒100件のペースで届いています。》


(……お便り(スパムメール)……じゃないわよね、これ。……全部、領地の改善提案とか、感謝の言葉じゃない……)


私はL-Padを開き、届いたメッセージの一部を流し読みしました。


「レティシア様! 自動散水のおかげで、腰痛が治りました! ありがとうございます!」


「回覧板が光るようになってから、隣のおじいちゃんとチャットするのが楽しみです!」


「聖女様の最新のコード、感動しました! 真似して『全自動洗濯機』を作ってみました!」


(……。……ったく、しょうがないわね)


私は苦笑いしながら、ベッドに寝転びました。


勝手に進化したシステム、やりすぎな自動化、そして自分たちで世界を良くしようとする領民たち。


そこには、私が前世で夢見ていた「技術が人を幸せにする世界」の縮図がありました。


「……いいわ。……これだけインフラが整っているなら、次の『アップデート』はもっと楽にできそうね」


私は指先で空中にコマンドを入力しました。


[ 実行コマンド: Sync_Territory_Data(All_Sector) ]

[ メッセージ: 「ただいま。……明日から、全システムのコードレビューを行うわ。覚悟しておいてね」 ]


領地内の全L-Padにその通知が届いた瞬間、外から「おおおぉぉぉ!」という、領民たちの歓喜とも悲鳴ともつかない地響きのような声が聞こえてきました。


(……ふふ。……私の領地のデバッグ、やりがいはありそうね)


三歳の聖女は、愛する「魔改造された故郷」で、次なる開発計画を練りながら、安らかな眠りにつくのでした。

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