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『死ぬほど愛されたい』と願ったら、最強の公爵家に転生して家族の愛が重すぎます!〜赤ちゃん令嬢は『慈愛の眼』で今日もデレを解析中〜  作者: 五十嵐紫
第7章:王都デバック編:ウイルスを駆除したら、聖女と祀られました

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聖女の休日? 王宮のセキュリティがザルすぎるので勝手に補強しました

旧市街の「デバッグ」から数日。


王都は平穏を取り戻しましたが、私の周囲はちっとも平穏ではありません。


「聖女様」

「幼き天使」

「救世の申し子」


……街を歩けば祈られ、公爵邸の門前にはお礼の品が山積み。


三歳児の日常としては、明らかに処理能力キャパシティを超えています。


(……ねぇ、システムさん。この『聖女』っていう称号、非表示にできない? 視線が痛すぎて、精神的なリソースが削れるんだけど)


《解。……称号:【王都の守護天使】はパッシブスキルのため、非表示にしても周囲への影響力カリスマは減衰しません。……また、あなたの行動ログが王宮に送信され、国王陛下による『緊急の謁見』がスケジュールに割り込まれました。》


(……強制的なシステムアップデート並みに強引なスケジュールね。断れないじゃない)


というわけで、私は今、お父様とお兄様に連れられて、王国の心臓部である王立宮殿へと向かう馬車の中にいます。


「レティシア、緊張しなくていいからね。陛下がもし変なことを言ったら、パパが責任を持って……そうだな、王宮の柱を一本か二本、景気よく折って抗議してあげるから」


「お父様、それは国家反逆罪になります」


お兄様のシエルが、即座に突っ込みを入れました。


「……レティシア、陛下は君の功績を純粋に称えたいだけだよ。ただ、少しだけ『伝説』を信じ込みやすい方だから、そこだけは注意して」


「わかりました、お兄様」


私は素直に頷きながら、窓の外へ視線を向けました。


王都の中心へ進むにつれて、建物はどんどん豪華になっていきます。


白い石造りの建物。


巨大な魔導灯。


王家の紋章が刻まれた門。


そして、そのすべてを覆うように張り巡らされた、幾重もの魔導結界。


一見すると、完璧な防御システムです。


……一見すると。


(……ちょっと待って)


私は目を細めました。


(……これ、本当に王宮の結界?)


《肯定。王立宮殿に設置された防護結界です》


(……うそでしょ)


私は思わず額を押さえました。


(……こんなの、セキュリティホールだらけじゃない!)


《警告。……王宮全体の魔導結界に、多数の脆弱性セキュリティホールを検知。……パッチ未適用のレガシーな術式が32箇所。……外部からの不正アクセス、および盗聴用のバックドアが設置されている形跡があります》


(……ちょっと待って。ここ、一国の重要拠点データセンターよね?)


私は改めて王宮を見上げました。


(セキュリティがザルどころか、もはや『どうぞ侵入してください』って看板が出てるレベルじゃない!)


「どうしたんだ、レティシア?」


お父様が心配そうに顔を覗き込んできます。


「……お父様」


「なんだ?」


「王宮の結界、少し触ってもいいですか?」


「もちろんだ!」


即答でした。


「……え?」


お兄様が固まります。


「父上。『もちろん』って……何をするつもりなのか聞かなくていいんですか?」


「レティシアがやりたいことなら、パパは何でも許可する!」


「……それはそれで問題だと思うよ、父上」


お兄様が深いため息をつきました。


馬車が王宮の正門前に到着します。


門番たちが一斉に敬礼し、私たちを迎えました。


「アラリック公爵閣下、シエル様。そして……」


門番の視線が私に向きます。


「レティシア様!」


「「「レティシア様、万歳!」」」


「……」


私は固まりました。


(……ここでもかぁ……)


「レティシア!」


お父様は感動したように目を潤ませています。


「王宮の門番まで、お前の偉大さを理解しているぞ!」


「……お父様、私は普通に入りたいだけです」


「そうか! ならばパパが抱っこして入ろう!」


「それも普通ではありません」


そんなやり取りをしながら、王宮の内部へと進みます。


そして――。


私は歩みを止めました。


(……見つけた)


壁の中。


床の下。


天井裏。


いたるところに魔導回路が張り巡らされています。


けれど、その構造はあまりにも古い。


同じ処理を何度も繰り返し、無駄な魔力を消費している。


さらに、術式の一部には古い暗号化方式が使われていました。


(……誰が設計したのよ、これ)


《解析。……約七百年前に構築された術式を基礎として、歴代の魔導師が継ぎ足しを繰り返した結果、現在の構造になっています》


(なるほど)


私は納得しました。


(つまり、誰も全体を把握していないまま、上から上からパッチを当て続けたのね)


《肯定。……俗に言う『継ぎ足し地獄』です》


(……エンジニアとして、一番見たくないやつね)


私は小さくため息をつきました。


そのとき。


「レティシア嬢!」


廊下の向こうから、数人の魔導師たちが駆け寄ってきました。


先頭にいるのは、王宮魔導師団の団長です。


「お初にお目にかかります! 私は王宮魔導師団を率いるガウェインと申します!」


「よろしくお願いします、ガウェイン様」


「こ、こちらこそ!」


ガウェイン団長は、三歳児の私を前にして緊張した様子で背筋を伸ばしています。


「本日は陛下がお待ちです。すぐに謁見の間へ――」


「その前に」


私は彼の言葉を遮りました。


「王宮の結界を直してもいいですか?」


「…………え?」


ガウェイン団長の顔が固まりました。


「結界……ですか?」


「はい。今のままだと危険です」


「危険……?」


「外部から侵入できます」


「……え?」


「盗聴もできます」


「…………」


「それから、魔力を逆流させることも可能です」


「………………」


ガウェイン団長の顔から、みるみる血の気が引いていきました。


「そ、それは……本当ですか?」


「はい」


私は指を一本立てました。


「まず、ここ」


壁に埋め込まれた魔導石を指差します。


「認証処理が古すぎます」


次に、天井を指差します。


「ここは通信経路が暗号化されていません」


さらに床を指差しました。


「そしてここは、魔力の出入りを監視するログが残っていません」


「……」


「つまり、誰かが侵入しても、盗聴しても、魔力を抜いても……後から確認できません」


「…………」


ガウェイン団長は震える手で額を押さえました。


「……我々は、何百年もの間……何を守っていたんだ……」


「大丈夫です」


私は笑顔を向けました。


「今から直しますから」


「…………え?」


「システムさん」


《待機中です》


(王宮全域のセキュリティ構造を解析。脆弱性を一覧化して)


《了解》


私の目の前に、黄金色のウィンドウが次々と展開されます。


【セキュリティ診断開始】


【脆弱性:32件】


【重大:8件】


【高:14件】


【中:10件】


(……ひどい)


私は思わず遠い目をしました。


「レティシア……?」


お兄様が私の顔を覗き込みます。


「どうしたんだい?」


「……お兄様」


「うん」


「王宮のセキュリティ、想像以上にひどいです」


「……やっぱり?」


「はい」


「……父上」


「なんだ?」


「レティシアを止めるのは、もう諦めよう」


「もちろんだ!」


「即答なんだ……」


お兄様が苦笑します。


私はお兄様から魔導チョークを受け取りました。


「では、改修を開始します」


「ちょ、ちょっと待ってください!」


ガウェイン団長が慌てて手を上げます。


「改修というのは……具体的に何を?」


「簡単です」


私は床にしゃがみ込み、魔導チョークで魔法陣を描き始めました。


「まず、認証システムを再構築します」


一本。


二本。


三本。


複雑な線が、瞬く間に床を埋めていきます。


「次に、通信経路を暗号化」


さらに魔法陣を追加。


「そして、不正アクセスを検知する監視システム」


最後に中央へ大きな円を描きました。


「最後に、全体を統合して……」


私はチョークを置きます。


「完成です」


「…………」


誰も喋りません。


やがて、ガウェイン団長が恐る恐る口を開きました。


「……あの……レティシア様」


「はい?」


「今、何をされたのですか?」


「王宮のファイアウォールを再構築しました」


「……ファイア……ウォール?」


「外部からの不正アクセスを防ぐ壁です」


私は簡単に説明しました。


「これで、許可されていない人は王宮の魔導ネットワークへ入れません」


「……そんなことが……」


「できますよ」


私は小さく頷きました。


その瞬間。


王宮全体が淡い光に包まれました。


ゴォォォォォ……。


巨大な魔力が流れ、床や壁に刻まれた魔導回路が次々と光り始めます。


《再構築開始》


《旧式認証システムを停止》


《新規認証プロトコルを適用》


《暗号化通信を開始》


《侵入検知システムを起動》


《バックドア32箇所を封鎖》


《完了》


ピィィィィン!


最後に、澄んだ音が王宮全体へ響き渡りました。


「……終わりました」


「…………」


誰も反応しません。


「お父様?」


「…………」


お父様は、口を大きく開けたまま固まっていました。


「お兄様?」


「…………」


お兄様も絶句しています。


「ガウェイン様?」


「…………」


ガウェイン団長は、完全に魂が抜けたような顔をしていました。


「……あの」


ようやくガウェイン団長が口を開きます。


「本当に……終わったのですか?」


「はい」


「七百年かけて継ぎ足された王宮の防護結界を……」


「はい」


「数分で……?」


「はい」


「…………」


ガウェイン団長は、両手で顔を覆いました。


「私は今日まで何をしていたんだ……」


「ガウェイン様?」


「……いえ。なんでもありません」


そのとき。


謁見の間の扉が開きました。


「レティシア!」


王座から立ち上がったのは、国王ジュリアン陛下でした。


「よく来てくれた!」


「陛下、お久しぶりです」


私はスカートの裾をつまみ、小さく礼をします。


「……ところで」


陛下が周囲を見回しました。


「先ほどから王宮全体が光っているのだが……何が起きた?」


「私が結界を直しました」


「…………」


陛下が固まりました。


「……直した?」


「はい」


「王宮の結界を?」


「はい」


「勝手に?」


「……はい」


「…………」


陛下はしばらく黙り込みました。


そして。


「……素晴らしい!」


両手を広げて叫びました。


「さすがはレティシアだ! これで王宮は安全になったのだな!?」


「はい。以前より安全です」


「どれくらいだ?」


「以前が危険度Aなら、今はSSSです」


「SSS……!」


陛下の目が輝きました。


「つまり、最高ランクか!」


「そうです」


「ならば、私もそのシステムを使えるのか?」


「もちろんです」


「よし!」


陛下は嬉しそうに笑いました。


「レティシア、これで王国はさらに安全になった。私は君に感謝してもしきれない!」


「いえ。私はバグを見つけたから直しただけです」


「その『だけ』が普通ではないのだよ……」


お兄様が小さく呟きました。


私は陛下へ向き直ります。


「陛下、一つお願いがあります」


「なんでも言ってくれ!」


「王宮の管理権限を、一部私に預けてください」


「もちろんだ!」


「……陛下!?」


周囲の魔導師たちが一斉に声を上げます。


しかし、陛下は真剣な顔で頷きました。


「レティシア。君がいなければ、私は王宮のセキュリティホールに気づくことすらできなかった。ならば、君に任せるのが一番だ」


「……ありがとうございます」


私は微笑みました。


その瞬間。


《通知。……国王陛下からの信頼度が限界突破しました》


《称号:【王国の権限所有者ルートユーザー】を獲得しました》


(……ルート権限)


私は心の中で呟きます。


(ついにこの国のシステム、私の思い通りになっちゃったわね)


私は三歳です。


なのに。


学園のシステム管理者。


王都のセキュリティ監査員。


そして、今度は王国のルートユーザー。


(……私、将来何になるのかしら)


その横で、お父様が感動のあまり涙を流していました。


「レティシア……!」


「お父様?」


「我が娘が……ついに王国の管理者に……!」


「いや、まだ三歳だからね、父上」


お兄様が冷静に突っ込みます。


すると、ユリウス王子が私の前へ歩いてきました。


「レティシア」


「はい、ユリウス様」


王子はポケットから、小さな箱を取り出しました。


「これを君に」


「……?」


箱を開けると、中には色とりどりの最高級キャンディが入っていました。


「ありがとう、ございます」


「君はいつも難しい仕事ばかりしているからね。たまには甘いものでも食べて、ゆっくりするといい」


「……ユリウス様」


私はキャンディを一つ取り出しました。


「いただきます」


口に入れると、甘い味が広がります。


(……うん。こういうのも悪くないわね)


《通知。……幸福度が上昇しました》


(……システムさん、そういうところはちゃんと拾うのね)


私は小さく笑いました。


王宮のセキュリティを整えた次は、この国の「通信環境(情報伝達)」を改善すべきです。


手紙を馬で運ぶなんて、パケットロスが多すぎます。


(……まずは、王都全域に『光回線……いえ、魔導回線』を通すところから始めようかしら)


三歳児の「聖女の休日」は、王国のインフラを根底から作り替える、壮大な開発計画へと繋がっていくのでした。

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